第二章
Ⅲ 帰還  獲物を無事に頂いてホクホク顔の海賊達も、そろそろ休息が必要だ。 「進路をガベロットへ取れ!」  海賊基地ガベロットは、国際中立地帯のどこかに密かに建設された要塞である。  数多くの海賊達が集まる悪の組織の中枢である。  燃料・食料補給と船の修理・整備の他、海賊達の休息する簡易宿舎や娯楽設備などが整っている。映画館もあれば病院もある至れり尽くせりの基地である。  それらはすべて、海賊達が治める上納金で成り立っているのだが。  いわば一つの国家としての体をなしているので、上納金もいわば税金みたいなものであろう。  海賊基地に近づく海賊船フォルミダビーレ号。  その海賊基地はあまりにも巨大で、一つの惑星ほどにも思えるが、銀河恒星地図にも掲載されていない秘密の基地である。いざとなれば移動も可能な機動要塞でもあった。 「こちら、フォルミダビーレ。入港許可願います」  レンツォ・ブランド通信士が、基地との連絡を取っている。 『こちらガベロット、貴船の入港を許可する。十二番デッキより進入せよ』 「了解。十二番デッキより入港します」  ブランドが応答すると、フィロメーノ・ルッソロ操舵手がアッデージ船長を見つめる。 「入港せよ……ちょっと待て」  指示を一旦中断してから、副操縦士となっているマイケル・オヴェットを指名する。 「マイケル。君が操舵して入港してみろ」  意外にも入港という重大時を見習いにやらせようというのだから、船内の他のオペレーターも驚くだろう。 「僕がですか?」  最も一番驚いたのはマイケルだ。 「男は度胸だ、根性で操舵してみろ。多少は船に損傷を負っても構わんぞ」 「多少は……ですか?」 「ははは、いいからやってみな」  ルッソロも肩を叩いて、操舵コントロールシステムを彼に預けた。 「だ、大丈夫かなあ……」 「操舵説明書は隅々まで読破して熟知したんだろ?」 「はい、何とか……」  恐る恐る操舵装置に手を掛けるマイケル。 「なら心配するな、君にならできる。どんと行け!」 「分かりました。やってみます」  操舵輪を持つ手に力が入る。 「入港シークエンスシステム作動します」  入港に関する自動装置を起動させるマイケル。  船のコース取りから制動逆噴射タイミング、着岸・船台ロックまでの一連の手順を自動で行うシステムである。  自動とは言ってもある程度の微調整が必要なので、マニュアル操作も必要である。  二十分後、緊張とスリル手に汗握りながらも、船を無事に着岸させることに成功した。 「よくやったぞ、大したものだ」  ルッソロがポンと肩を叩いて称賛した。 「冷や汗ものでした」  大きくため息をつきながら、緊張から解放されて胸をなでおろすマイケルだった。 「やればできると言ったとおりだ。合格だ!」  アッデージ船長もべた褒めした。 「ありがとうございます」  マイケルがお礼を言うと、 「ご褒美に半舷上陸を許す。誰か、基地の案内をしてやれ」  と、上陸許可を与える船長だった。 「あたしが案内するよ」  名乗り出たのは、レーダー手のルイーザ・スティヴァレッティ。 「おい。少年を部屋に連れ込むなよ」  誰かが嘲笑する。 「失礼ね。あたしだって選ぶ権利はあるよ。ガキには興味はない!」 「そうだったね。ロマンスグレーのおじさまだったよね」 「言ってろよ!」  船内では唯一の女性なので、何かと冷やかしされるのだが、これでも海賊の一員なのでヤワではない。 「おい。ついでだから、他の五人も連れて行ってくれ」  船長が追加要求する。 「あたしは、保育園の引率かよ?」 「ついでだ」 「しょうがねえな、分かったよ。ガキ共を呼んでおくれ」 「分かった。乗船口に集合させておくよ」  数時間後、少年達を連れて船を降りるルイーザ。 「いいかい。勝手に歩き回るなよ」 「はーい」  元気に手を上げるエヴァン・ケイン。  彼が、海賊達から一番可愛がれているので、一切気後れもしないようだ。  ふと横の方を見ると、荷物搬入口から、両手を縄で縛られた少年達が降りてくるのが見えた。どうやら、入港している奴隷商人の船へと連れ出されるところのようだ。 「彼らはどうなるんですか?」  マイケルが質問する。 「見ての通り、奴隷商人に売られたんだよ。どこぞの貴族か富豪の館で一生奴隷として働かせられるのさ」 「何とかならないのですか?」  アレックスも気を揉んでいるようだ。 「飯食って、寝て、甲板掃除するしか能のない奴にはお似合いさ」 「ですが……」 「君たちは、飛行艇を奪って脱走を図るという行動力を見せてくれたから仲間に取り入れられた。しかし、彼らのように努力もせず、現状を打開しようとする根性のない者は、この海賊船では無用ものだ」  向こう側も気づいたらしく、立ち止まってアレックス達に視線を送るが、 「こら、立ち止まるな! さっさと歩け!」  奴隷商人に強い口調で促されて、弱弱しく歩き出す。  一緒に遊んだ仲間が奴隷商人に売られていくのを、ただ見守るだけしかできない自分達を情けなく思うアレックス達だった。
   
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