第二十四章 新生第十七艦隊
V  百四十四時間の休暇が終わりをとげた。  各人各様の過ごし方があったのだろう。有意義だった者がいれば、無意味に時間を 浪費しただけの者もいるだろう。  アレックスはといえば、要塞とシャイニング基地を往復しながら、こなさなければ ならない処理に忙殺されていた。パトリシアを帰した事を後悔もしたりしたが、今後 の事態を考えれば留めておくわけにもいかないだろう。  続々と帰還してくる将兵達を迎えるアレックス。  ゴードン、ジェシカ、カインズ、そしてチェスターらが、それぞれの故郷や思いで の場所での休暇を楽しんで帰ってきた。  その中にレイチェルだけが含まれていなかった。  司令官となった第八占領機甲部隊と共に、最新鋭機動戦艦ミネルバの受領と、乗員 達のトランター本星での隊員訓練のためにトランター本星残留ということになってい る。  タルシエンから遠く離れた場所でただ一人、来るべき日「Xデー」に向けての準備 を密かに進めるために……。 「Xデーか……」  できれば、その日が来てくれないでほしい。  しかしその日はちゃくちゃくと近づいてくるであろう。  共和国同盟がタルシエン要塞に固執しつづける限り、そしてバーナード星系連邦に あのスティール・メイスンという智将がいる限り、その日は必ずやってくる。  デスクの上のヴィジフォーンが鳴った。 「何だ?」 「提督。レイティー中佐からご連絡が入りました」  秘書官のシルビア・ランモン大尉が、タルシエンにいて今なおシステムの改造に取 り組んでいるレイティーからの連絡を取り次ぐ。このシルビアは、シャイニング基地 にあって、以前は独立遊撃艦隊の司令部オフィス事務官として、司令官のいない閑職 にあったのだが、アレックスが第十七艦隊司令官になって、シャイニング基地に戻っ て来てからは忙しい毎日を送っている。事務官から秘書官へ、少尉から大尉に昇進し ていた。もちろん秘書官という限りは、アレックスのスケジュールを管理しているの で、毎朝のようにアレックスの所に来てその日や翌日などの予定を確認しにくる。早 い話が寝ているアレックスを起こしに来るのだ。 「繋いでくれ」  ヴィジフォーンにレイティーの上半身が映る。 「やあ、いらしたんですか? まだ寝ているかと思いましたよ」 「毎朝起こしてくれる優秀な秘書がいるのでね」 「ああ、シルビアさんですね。彼女、ものすごく時間にうるさいでしょう?」 「まあな……」 「何時に連絡してくださいとか、来てくださいとか言われたら、その時間きっかりじ ゃないと怒って取り次いでくれない時があるんですよ」 『それは、コズミック中佐がいけないんです。時間厳守は提督が口を酸っぱくおっし ゃってることです!』  突然、割り込みが入ってシルビアが顔を出した。 「ありゃ、聞いてたのね」 「気をつけろよ。ここのヴィジフォーンは秘匿通話にしない限り、秘書室のシルビア に筒抜けなんだ。重要な連絡事項や約束事などがあった時、言わなくてもスケジュー ルとかが組めるようにな」 「秘匿通話にしてなかったのですか?」 『通話を掛けた方が秘匿通話を依頼するのが筋ですよ。受けた側では、内容が判らな いんですからね』 「おー、こわ……。提督は、こんな気の強い人を秘書にしてるんだ」 「それくらいじゃないと秘書が務まらないさ。それよりそろそろ本題に入りたまえ」 「ああ、はい」
     
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