第二十四章 新生第十七艦隊
U  パトリシアも生れ故郷の地に帰国していた。 「お帰りパトリシア」 「ただいま帰りました」 「しかし、おまえの旦那さまは一緒じゃないのかい。会えるのを楽しみしていたのに。 残念だよ」 「忙しいお方ですから」 「それはそうと、いつ正式に結婚するのかい。お前達は」  パトリシアの両親は、娘がアレックスと婚約し同居生活していることを告げられて いる。相手が英雄と称される人物だけに、世間に公表して誇りとしたいと考えるのは 親の心情であろう。二十代ですでに少将、軍の最高位である大将も確実視されて、絶 大なる国民的人気を背景に政界に転出すれば国家元首も夢ではないと、世間の評判で あったからだ。 「結婚式は挙げていないけど、正式な夫婦と何ら変わらないわ。別にいいんじゃな い」 「そうはいってもねえ……」 「お父さんはね、あなたのウェディングドレス姿を見たいのよ」 「なんだ、そういうことなのか」 「しかしタルシエン要塞を陥落させて、今が一番重要な時期なんだろう? そんな時 に帰郷とは、何かあるのかね?」 「それが……」  果たして話していいものかどうか、しばし悩み考えたが、 「提督のお考えでは、タルシエン要塞から当分の間動けなくなる事態になるんじゃな いかと思ってらっしゃるみたい」  正直に話すことにしたのである。もし本当にそうなってしまって、両親に会えなく なってからでは遅いからである。 「どうしてだい? タルシエンの橋の片側を押さえてしまえば、連邦軍だって侵略は もはや不可能だと言われてるんじゃないのかい?」 「その不可能だと思われていることが問題なのよ。ランドール提督だって不可能と思 われてることを、可能にしてみせていらっしゃるでしょ。橋を押さえたからといって、 油断はできないのよ」 「それはランドール提督だからこそじゃないのかね。星系連邦側に提督に勝るほどの 智将がいるとは思わないが」 「いるわよ。ミッドウェイ宙域会戦や、ハンニバル艦隊による侵略。さらには第五艦 隊、第十一艦隊を壊滅に追いやった張本人。スティール・メイスンという人物がね」 「聞かない名前だね」 「艦隊司令じゃなくて、参謀役として活躍しているみたいなの」 「ランドール提督の参謀長のパトリシア、お前みたいにか」 「そうよ。表には出てこないだけよ」 「出てこないのにどうして知っているんだ?」 「そういう情報を集めるのが専門のすごい方がいるの」 「いわゆる情報参謀だな」 「とっても素敵な女性で、女性士官の憧れの的よ」 「女性なのか?」 「そうよ。知識も豊富で、わたしもいろいろと教えてもらってるの」  宇宙軍港の送迎タラップで向い会うアレックスとジュビロがいた。 「やはり帰るのか?」 「ああ、要塞の方のシステム構築はほぼ完了したし、軍人でもない部外者の俺がいつ までも留まっているわけにもいかないだろう。統帥本部の知るところとなれば、君の 立場も危うくなるんじゃないのか?」 「それは別に構わないさ。慣れているからな。どうだ、この際。軍に入隊しないか?  レイティーと同じ中佐待遇で迎え入れる用意があるぞ」 「よせよ。俺は、自由勝手気ままな生活が似合っているんだ。軍の規律に縛られるこ となんて願い下げだ。今回の作戦に参加したのは、あの巨大な要塞のシステムに挑戦 したかっただけだ。共和国同盟の将来とかを思ってのことじゃない」 「そうか……残念だな」  本気で打診したのではないが、やはりというべきかあっさりと断られてしまう。 「もしまた協力してもらいたいことがあればどうすればいい?」 「レイチェルに頼むんだな」 「彼女のことは信頼しているんだな」 「そうだな。軍の情報を得るには内部にスパイを潜り込ませるのが一番の早道だから な」 「ほう……」 「と、言ったらどうする?」 「確かに早道かも知れないが、逆にそこから足が付く事もあるってことだ。君ほどの 腕前なら、その必要もないと思うがね」 「ふふん。君こそレイチェルを信頼しているようだな」 「一応幼馴染みだしな」 「それだけか? おまえのために性転換して女になったんだぜ。告白しなかった か?」 「出会うのが後五年早ければ、一緒になっていたかも知れないがな」 「婚約者のパトリシア嬢か。ああ……そういえば、その前はジェシカだったな?」 「私は、何人もの女性を同時に愛するなんて器用なことはできないからね」 「まあ、何にせよ。振られたからといって、おまえを裏切るような女性ではないこと だけは、覚えておくことだな」 「知っているさ」
     
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