第十八章 監察官
Z 「ここには、天才と呼ばれるお方が数多くいらっしゃるのですよ。システムエンジニ ア、システムプログラマーなど、コンピューターネット犯罪を取り締まるプロフェッ ショナルがいます。彼らに掛かれば暗号通信を解析することなど容易いことなので す」 「冗談はよせ。あの暗号通信の内容は、現在最速と言われているスーパーコンピュー ターで解析しても百万年は掛かると言われているんだぞ。解錠キーがない限り解ける はずはない」 「それならば、その解錠キーがどこかのコンピューターに保存されているはず。その コンピューターに侵入して、その解錠キーを手に入れれば良いことです」 「そんな事できるはずがない」 「それができるのです。ネットに接続されているコンピューターならば、必ず侵入で きるものなのです」 「あり得ないことだ」 「お信じにならなければ、それでも結構です。とにかくも、あなたの暗号通信は解読 されたということはお認めになられますね?」 「黙秘権があるはずだ。これ以降は何も喋らない」  と、レイチェルの質問に答えない監察官。これ以上話し合ってもぼろが出るだけだ と判断したようだ。 「結構です。当然の権利ですからね。でも聞くだけは聞いていてください。提督を暗 殺しようという者が侵入したという情報を入手して、私達はすべての通信を傍受記録 しておりました。その捜査網にあなたが暗号通信を送っているのを傍受したのです。 早速、かの天才達に解読を依頼しましたが、それには三時間という答えが返ってきま した。あなたは百万年とおっしゃいましたが、天才と呼ばれる彼らに掛かれば三時間 なのです。今後の参考にでもしておいてください。しかし、それでも手遅れになるの で、別のルートを使って軍のコンピューターネットに侵入、さる所から解錠キーを入 手しました。それを使って暗号通信を解読したのです」  押し黙ったままの監察官だった。図星をさされて明らかに意気消沈している表情が 伺える。 「念のために申し上げておきますが、シャイニング基地の撤退は、参謀達全員による 合議によって決定されたものであり、提督ご自身による勝手な判断で執行されるもの ではないということです。ゆえにこれは敵前逃亡ではなく、明白なる撤退作戦という ことになります。敵前逃亡として処断されるのは早計ではないでしょうか。暗殺とい う策略以外には考えられません」  レイチェルの発言を受けて、コレット・サブリナ大尉が前に進み出る。 「監察官。あなたをランドール提督暗殺未遂の容疑で逮捕します」  監察官の腕を後ろ手に回して手錠を掛けるコレット。 「ウィング少佐。一つ質問させてくれ」  手錠を掛けられながら口を開く監察官。 「何でしょう?」 「君は、暗殺という情報をどうやって知ったのだ。さる所から解錠キーを入手したと いう。当然その首謀者たる人物のことも掴んでいるのだろう。証拠を集めて、告発す るつもりか?」 「情報の出所をお教えすることはできません。ニュースソースを隠密にするのは情報 部の常識です。証拠たる情報を隠密にする以上は、立件もできませんから告発も不可 能ということです。内憂外患から士気の低下を発祥させる素因を公にすることは、提 督のもっとも危惧されることですからね」  うんうんと頷いているアレックス。 「そうか……内憂外患か……」 「提督」 「何かね」 「ここには心を一つに束ねあい、気を許しあって、すべてを相手に委ねられるという 環境が浸透しているようだ。実に素晴らしい艦隊だ」 「そう言ってくれると嬉しいね」 「あなたの部下達がこれほども羨ましいと思ったことはない。あなたの部下でなかっ たのが、実に残念だ」 「それはどうも……」 「連行しろ!」  コレットが部下の憲兵隊に指示し、連行されて行く監察官。 「提督。お騒がせいたしました」 「今回も、君に助けられたな」 「任務ですから」  きりっと姿勢を正し敬礼をして、くるりと翻して立ち去って行くコレットだった。 第十八章 了
     ⇒第十九章
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