第十八章 監察官
Y  艦橋内に響く銃声。  沸き起こる悲鳴。  艦橋は騒然となった。  だが、床に倒れこんだのは監察官の方だった。  腕を撃ち抜かれて血を流していた。  監察官が持っていた銃が床に転がっている。  一同が銃が放たれた方角に振り向くと、そこには部下の憲兵隊を従えたコレット・ サブリナ大尉が銃を構えていた。その銃が監察官の腕を撃ちぬいたのである。  彼女の正式な身分は、共和国同盟軍情報部特務捜査科第一捜査課艦隊勤務捜査官。  艦隊組織内において、監察官同様に武器を常時携帯することを許可されている唯一 の人物であった。 「なぜ、おまえがここにいる。ここは、一介の捜査官が入れるようなところじゃない はずだ」 「レイチェル・ウィング少佐の依頼を受けての特務捜査権を執行しております」 「特務捜査だと?」 「暗殺です」 「な、何を言うか。第一、情報参謀に特務捜査権を依頼する権限などない」  それにアレックスが答える。 「それがあるんだな。特務捜査権を彼女に依頼できるのは、私の他には艦隊司令官付 副官がいる」 「提督やウィンザー少佐がサブリナ大尉に近づいた形跡はない」 「そうか、やはり部下に行動を監視させていたな。」 「反逆者とその部下を監視するのは当然だ」 「いつの間にかに反逆者呼ばわりですか……まあいいでしょう。その副官がもう一人 いるのを知らなかったようだ」 「ウィング少佐か?」 「独立遊撃部隊からの副官でしてね。当時、ウィンザー少尉が正式に副官に就任して も、そのまま副官としての地位を残しておいたのですよ。副官には司令官同様の特別 な権限が与えられますからね」 「なるほど」  そのレイチェルが解説をはじめた。 「何者かがランドール提督を暗殺しようとして潜入しているという情報を入手しまし た。暗殺には提督のそばに近寄る必要があります。その方法として提督の身近にいる 者に成り代わるのが一番確実です。ランドール提督は味方将兵を大切に扱い、勝つ算 段のない戦からは撤退するという主義を打ち出しています。三個艦隊もの敵艦隊が迫 ってくると知れば、当然撤退すると言い出すことは容易に推測できるでしょう。そこ で、これを敵前逃亡として処断すれば合法的に抹殺が可能です。そしてそれが出来る のは、監察官! あなたしかおりません。監察官自らが暗殺実行者であるならは、後 処理はどうにでもできるでしょうね」 「私が暗殺をしているという証拠などないだろう」 「これに聞き覚えはありませんか」  というとレイチェルが端末を操作する。  スピーカーから声が響く。 『……です。閣下のお考えになられた通り、ランドールは撤退を選択しました』 『そうか。後の処理は判っているな』 『はい。手はず通りに敵前逃亡罪として処断します』 『くれぐれも、計画が漏れないように極秘裏に合法的にランドールを始末するのだ』 『お任せください。万事怠りなしに』 『頼むぞ』 『はっ!』  その音声に息を呑む監察官だった。 「というような内容の通信です。声紋チェックであなたの声であることが確認されて おります」 「ば、馬鹿な。あの暗号通信は特殊な暗号コードを使っているんだ。暗号解錠キーが なければ内容など解けないはずだ」 「おや。あなたが暗号通信を送ったということはお認めになられるのですね」 「うっ……」  迂闊だったという表情に歪む監察官。
     
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