第十四章 査問委員会
IV  アレックスは、各部隊司令官と共にパトリシアを司令官室に呼び寄せると、査問委 員会からの作戦指示書を広げて見せて言った。 「パトリシア・ウィンザー大尉。私が准将となり、副官であり大尉であった君には、 佐官への昇進機会が与えられることになった」  その口調は司令官として、私意を排除し静かながらも威厳を込めて語りかける。も ちろんパトリシアも厳粛に受け答えする。 「ありがとうございます。提督」 「ただし、君も知っていると思うが……。副官任務についていた者で、大尉在位期間 が三年に満たないものは、適正審査と面接試験の他に、実戦指導能力を試験するため の作戦任務が与えられる」 「存じております」 「そこでだ……君には部隊を率いてとある作戦を遂行してもらわなければならないが ……これは強制ではなく辞退することもできる。佐官昇進を断念するならば……。ど うだ、大尉」 「ぜひ、やらせてください!」  パトリシアはきっぱりと答えた。 「わかった……」  低く呟くように答えると、目の前の任命書類を手にとって、パトリシアに告げるア レックス。 「統合本部よりの情報部が入手した情報によって、カラカスから敵陣に入った二十 パーセクのところにあるタシミール星域に捕虜収容所があることが判明した。守備隊 は約二百隻の部隊が駐屯しており、捕虜として数千人が捕われているらしい。そこへ 部隊を率いて捕虜となった者を救助すること。それが君に与えられた任務である」 「わかりました。捕虜の救出任務を遂行します」 「作戦遂行に際して、君に与える部隊だが……」  といって後ろに控える部隊司令官達を見渡すアレックス。 「私の配下の第十一攻撃空母部隊を貸しましょう」  すかさずパトリシアの先輩であるジェシカ・フランドル少佐が名乗り出た。 「ジェシカ!」 「いいのか、フランドル少佐」 「パトリシアの能力はわたしが一番良く知っておりますし、わたしの航空戦術を一番 良く理解しているのもパトリシアです。第十一攻撃空母部隊を指揮させるのに何ら不 安を抱いておりません」 「わかった。君がそういうなら任せよう。ウィンザー大尉、第十一攻撃空母部隊を連 れていきたまえ」 「かしこまりました」 「カインズ中佐。第十一攻撃空母部隊は君の配下だ。先任指導教官として同行したま え」 「わかりました」  カインズは大佐昇進の選考から落とされていた。大佐の昇進枠が一人しかなく、功 績点において僅差でゴードンに先をゆずっていたからである。とはいえ、彼の指揮す るドリアード艦隊(第二分艦隊)はゴードンのウィンディーネ艦隊と、艦艇数や戦力 レベルは同程度に維持されていることで、艦隊内における地位もほぼ同格に置かれて いた。  ライバルのゴードンに先んじられたのは癪にさわるが、昇進や恩給などが明確に定 められている軍制規約というものがある以上、ランドール司令とてそれを無視できる ものではないのだ。  司令室を退室する一同。  ジェシカに歩み寄るパトリシア。 「先輩。ありがとうございます」 「礼はいいわ。それより作戦の方は大丈夫なの?」 「考えはあります」  きっぱりと答えるパトリシアだった。  実は内々にレイチェルから命令の内容を聞かされていて、作戦の概要を組み立てて いたのである。査問委員会の決定事項が、事前に知らされることはよくあることだっ た。 情報部のレイチェルに一番に知らせが入るのは当然だろう。 「カラカスにいた連邦の本隊が撤退した現在では、タシミールは孤立しているとはい え、捕虜が人質としてとられている以上、一筋縄ではいかないわ。それだからこそ、 これまでに救出部隊が派遣されなかった理由なんだけど……」 「はい。伺っております」 「本当はわたしが同行できればいいんだけど……。そうもいかないわね。先輩後輩の 間柄では情が移るから」  タシミールは捕虜収容所があるということだけで、資源にも乏しく戦略的にはさほ ど重要ではなかった。軍事拠点としては、資源豊富なカラカス基地に防衛施設・燃料 補給施設などすべてが集約されていたので、それを失った現在では連邦軍にとっては どちらかといえばお荷物的存在であった。ただ捕虜収容所があって、捕虜を護送する よりも人質として扱い、偵察のために部隊を残しているという状態でさほど重要視し てはいなかった。
     
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