第十四章 査問委員会
V  統合本部のとある一室。  折りしも少佐への昇進に掛かる査問委員会の審議が行なわれていた。 「さて次の案件だが……。パトリシア・ウィンザー大尉」 「何だ! またもやランドールのところか。先のハンニバル艦隊撃退の功績で多くの 部下が昇進しているというのに」 「さもありなん。ランドールの昇進のスピードは破格だからな。配下の者も自然に釣 り上がってくる」 「指揮官が昇進したら、その副官も自動的に昇進するという制度は考えものだな」 「しかし副官が陰日なたとなって、その活躍を支えていることも事実だからな。無碍 にもできまいて」 「で、どうするのだ。何か適当な作戦任務がありそうか?」 「タシミール収容所の捕虜救出があるじゃないか」  口を開いたのはニールセン中将の片腕とも言われているナジス・アルドラ大佐であ った。 「タシミール?」 「確かに捕虜収容所があるという情報は聞いているが、確認されたわけではないじゃ ないか。連邦のスパイが意図的に流したのではないかとも言われているぞ」 「そうだ。捕虜救出がなされるように誘導して、派遣した部隊に奇襲をかけるのでは ないかとのもっぱらの噂だ」 「だからと言って、放っておくわけにもいくまいて。流言であろうとなかろうと、真 実かどうかを確認するためにも、誰かを派遣しなければならないだろう」 「それはそうだが……。もしこれが罠だとしたら、彼女には重荷過ぎないか?」 「そんなことはないだろう。聞くところによれば、ランドールが劇的な昇進を果たし たあのミッドウェイ宙域会戦の作戦。彼女がそのプラン作りに一役買っていたという じゃないか。カラカス基地攻略の作戦立案なども彼女が作成している。十分作戦任務 に耐えられるだろう」 「その話は聞いたことがある。しかし彼女は士官学校を出て一年も経っていないじゃ ないか。今回は見合わせたらどうか?」 「それを言うなら、ランドールこそ士官学校出たてだったじゃないか。それは理由に はならない」 「彼女とランドールは結婚しているのだろう? 提督クラスなら郊外の豪華な一戸建 ての官舎が用意されているはずだろ。彼女には、家庭に入って子供を生んで育てる生 活が似合っているんじゃないか?」 「いや、二人はまだ正式な結婚していない、つまり国籍上というわけだが。軍籍上で 婚姻届が受理されているだけだ」 「軍籍上の婚姻届は正式な夫婦として扱われる」 「ちょっと待て! 話がそれているぞ。二人が夫婦だとかどうかというのは、査問委 員会で論ずることではない。ウィンザー大尉が、少佐に昇進させるに値する人物かど うかが問われているはずだ」  それぞれの思惑を胸に多数決が取られることになった。 「それでは賛否を問う。パトリシア・ウィンザー大尉を、タシミール収容所へ派遣さ せることに賛成の者は、挙手を願いたい」  ぱらぱらと手が挙がった。 「賛成多数。よって、査問委員会は、パトリシア・ウィンザー大尉を、少佐への査問 試験として、タシミール収容所へ捕虜救出のために派遣させることを決定する」
     
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