第十一章・スハルト星系遭遇会戦
I
「なあ、今回はパスということに出来ないかい?」
「だめです。巡回査察は司令官の責務です。指揮官が軍規を犯していては、部下に示
しがつきません」
「しかし、場所が場所だからなあ……」
アレックスが頭を抱えている原因は、今回の巡回査察の区域にあった。
女性士官専用居住ブロック。男子禁制の女性士官だけの区域である。
軍艦というものは、本来男子オンリーの職場が一般的であるから、男子禁制などと
いう区域があるはずもないのだが、アレックス率いる部隊は女性士官配属率が平均で
三割を越えていた。特に、通信・管制オペレーターが数多くひしめく旗艦サラマン
ダーにあっては、その六割が女性士官という華やかな環境にあった。こうなると必然
的に男女を分け隔てる必要が出てくるわけで、それが女性士官専用居住ブロックとい
う区分けの誕生を促したのである。
「男の私が、女性士官専用居住区に入るなんて……」
「艦内運用規則第十八条の第三項。巡回査察の責務について、艦の責任者は定期的に
艦内の査察をすべからく実施し、規律や士気の向上を計るために、これを指導すべし。
お忘れですか?」
「知っているよ」
「規則にはすべからくとあります通り、艦内くまなく査察しなければなりません」
「だから、後回しにするとかさ……」
「結局やらなければならないのは同じ事です」
「なあ、艦長のスザンナにまかせるのはどうだ? 艦長だし、艦の責任者だ」
「いいえ。他の艦なら、艦長がやるのが当然ですが、ここは旗艦『サラマンダー』で
す。旗艦の最高責任者は、ランドール中佐です」
「ランジェリーショップ……あるよな……」
「あります」
「産婦人科クリニックも……」
「あります」
「どんな顔してりゃいいんだよ。恥ずかしいことこの上ない」
「もう……。アレックス! いい加減あきらめて腰をあげなさいよ!」
レイチェルが、私語を使って叱りつけるように言った。部隊内で唯一、幼馴染みと
いう間柄だからこそ言える言葉だった。
「わ、わかったよ。行けばいんだろ、行けば……」
さすがに私語で叱られても反論できず、渋々重い腰を上げるアレックス。
女性士官専用の居住区というものが存在しない他の艦隊ならこんな悩みなど発生し
なかったのだ。
それは……。独立部隊が発足して、パラキニア星系・ゲーリンガム隕石群での最初
の戦闘訓練を終えてパラキニア星に寄港する際の事だった。
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