陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊

其の拾弐 新事実発覚  というわけで、飛鳥板蓋宮跡へやってきた二人。 「GPSナビがなきゃ、こんな辺鄙なところ来れないですね」 「まったくだな……。ド田舎の畑のど真ん中、こんな所に何の手掛かりがあるか……だ な」 「まずは行動を起こすこと。捜査のいの一番ではなかったですか?」 「そりゃそうだが……」 「ここで蘇我入鹿が惨殺されたのです」 「何か感じるかね、怨霊とか」 「いえ、何も感じません」 「しかし、案内看板が一つあるだけで、本当に何もない所だな。建物一つない、休憩所 なり日陰となるものを作れば良いのに」 「観光地というよりも歴史的遺構という位置付けなのでしょうね」 飛鳥板蓋宮跡  皇極天皇4年6月12日(645年7月10日)  三韓(新羅、百済、高句麗)の使節の進貢に伴い、三国調の儀式が行われることにな り、皇極天皇が飛鳥板蓋宮の大極殿に出御することとなった。  従兄弟に当たる蘇我倉山田石川麻呂が上表文を読み上げていた際、肩を震わせていた 事に不審がっていた所を中大兄皇子と佐伯子麻呂に斬り付けられ、天皇に無罪を訴える も、あえなく止めを刺され、雨が降る外に遺体を打ち捨てられたという。  一応の調査を終えて、その夜の旅館へ。  旅費の都合もあり、親子ということにして同部屋に泊まる二人。 「宿賃……本当にいいんですか?」 「もちろんだ。捜査費用として落とせるから」  なにやら、旅館設置のTVとスマホを接続している蘭子。 「何をしている」 「スマホの画像データをこのテレビで拡大して観るの」  次々と画像データをテレビに映している。  来場客に頼んで撮ってもらったピース写真から次の写真に切り替えようとしたとき、 何気に見つめていた井上課長が声を上げた。 「ちょっと待て!」 「な、なに」 「その写真だ!」 「このピースしている写真?」 「違う!後ろの正門料金所の脇に立ってこちらを見つめている人物だ!」 「後ろ?」 「拡大できないか?」 「できますよ」 「やってくれ」  何が何だか分からないが、言われたとおりにする蘭子。 「こ、こいつは!」  拡大された画像に驚く二人。  京都文化博物館で、金城聡子に言い寄っていた、あの石上直弘であった。 「後をつけてきたのか?」 「たまたま行動が一致したのかも。蘇我入鹿の怨霊が関わっているなら、明日香村へと 帰着するのが自然ですから」 「そうか……」  としばらく考えていた井上課長であったが、 「この写真データを、府警本部の俺のパソコンに送りたいのだが、できるか?」 「メールアドレスが分かればできます」  といいながら画像データを送信する操作を行ってから、 「どうぞ、メールアドレスを打ち込んで頂けますか」  とスマホを渡すと、一心不乱にアドレスを打ち込んで、 「よし、送信!と」  スマホを返してから、さらに自分の携帯を取り出して連絡を取っている。 「ああ、井上だ。今、俺のパソコンにメールで画像を送ったから至急見てくれ。大至急 だ」  どうやら大阪府警に電話を掛けているようである。 「見たか?俺の後ろの方に映っている人物をよく見てくれ」 「そうだ。その通りだ。至急、奈良県警に合同捜査本部の設置を要請してくれ」  電話を切りパタンと折りたたんで尻ポケットにしまう。 「なんとなく背景が見えてきたというところかな」 「動き回った甲斐がありましたね」 「うむ……明日から忙しくなるな」 「わたしは学校がありますから帰りますけど、課長はどうしますか?」 「ともかく奈良県警に協力してもらうために県警本部へ行くよ」
     
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