続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない
(四)人工衛星  梓の行く先々では、梓の来訪を知った幹部や研究所員の熱烈な歓迎を受ける。  それらに笑顔で接して応対を受ける梓だった。  そして、研究所の中核施設へと入って行く。  本来なら一般研究員は入ることの出来ない隔離されたブロックだ。 「ここからは、第四セキュリティーレベルです。指紋照合と音声照合が必要です」  指示されたとおりにセキュリティー認証装置のチェックを受けて、その先に進んで 行く梓。  そこは企業秘密の厚いベールに覆われた人工衛星の開発設計室だった。  資源探査気象衛星「AZUSA」の六分の一ミニチュアを前に、所員の熱い説明を受け ている梓。 「このAZUSAシリーズは、稼動中の三基と予備の二基が軌道上を順次回っています。 各種のレーダーで、地表及び地下を探査して資源を調査するのが任務です。その一方 では、大気の雲の分布状況や海洋表面温度などの気象観測も守備範囲としています」 「ねえ、あずさって通信衛星じゃありませんでした?」 「ああ、一号機から三号機がひらがなで呼称される通信衛星の『あずさ』で、四号機 から六号機がアルファベットで呼称される資源探査気象衛星の『AZUSA』ということ になっております。なお、号数の後にBとかCとついているのは、故障したり改良さ れたりして世代交代した機体であることを意味しています」 「電源は太陽電池ですか?」 「一部補助で太陽電池を使っておりますが、主電源は燃料電池です。ほらこれです」  所員がミニチュアを指し示して解説してくれる。 「寿命は?」 「そうですね。だいたい電池寿命は三年を目安としておりますが、姿勢制御用噴射ガ スの残量も衛星の寿命に影響します。衛星は、ジオイドの変動、塵の衝突、太陽フレ アによる地磁気のぶれ、地球自転の章動などによって、軌道や姿勢が変えられてしま います。そこでガスを噴射して姿勢を元に戻します」 「こらこら、お嬢さまが首を傾げているぞ。難しい専門用語はよせ」  所長が研究員の話しを止めた。 「あ、申し訳ありませんでした」  確かにジオイドだの章動だのと言われても、十六歳の少女には理解できない天文知 識だった。 「ここは、これくらいでよろしいでしょう。次ぎは衛星の追跡コントロールセンター を紹介しましょう」 「追跡センター?」 「ここから先は第五セキュリティーレベルになります。網膜パターン照合にパスした 者だけが、通過できることになっています」 「網膜パターン?」 「お嬢さま、実際にやってごらんになさいますか? すでにお嬢さまの網膜パターン は登録されていますから」 「そうだっけ?」 「十六歳の誕生日に代表に就任した時、ブロンクスの屋敷のセキュリティーセンター で登録したではありませんか」 「ん……そうだったかな」
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11