梓の非日常/第四章・スケ番再び(黒姫会)
(一)お竜捕われる  教室で談笑する梓と慎二。慎二は椅子に逆座りして背もたれに両腕をかけている。  梓は手を屈伸させながら、どうやら拳法についての話しをしているようす。 「で、腕をこう」  いきなり慎二の顔めがけて正拳を繰り出す梓。あわてず騒がず掌で軽く受け止める 慎二。 「ちっちっち。もっと腕を捻るようにリストをきかせるんだ。こんな風にな」  ぐいっと腕を突き出す慎二。首を傾けてそれをかわす梓の髪が風圧でたなびく。 「でも、あたしは腕力ないからね。どっちかっつうと」  梓の右足が蹴り上げられる。慎二はそれをスウェイでかわすが、視線が下にいって いる。梓の短いスカートからのぞく白いショーツがまぶしい。 「こら。どこ見てんだよ」 「な、何も。見てねえよ」  首を横に振って否定する慎二。 「レースのフリルが可愛いだろ」 「そうだね」 「やっぱり見てるじゃないか」  誘導尋問に引っ掛かった慎二の頭を、鞄で叩きはじめる梓。 「ご、ごめんよお」  しばらくそんな調子が続いていたが、 「ふふふ」 「がはは」  突然高笑いする二人だった。  そんな二人を、拳法談義に加われない絵利香と相沢愛子やクラスメート達が眺めて いる。 「ところで、空手部に入ったスケ番の連中は、どうしてる?」 「一人抜け、二人抜けてな具合で、今はたった一人だけ残ってるよ」 「だろうなあ。汗水流してスポ根よりも、街中でカツアゲやってる方が性に合ってる 連中だからな」 「こうなるだろうとは思っていたけどね。残った一人が熱心に欠かさず稽古に出てる し、同じ一年生だから、それだけでも拾い物だよ」 「そうだな。女の子はおまえ一人だったからな。稽古相手ができてよかったじゃない か」 「まあね。ほんとに真面目でさあ、なんでスケ番グループに入ってるか不思議なくら い。家庭の事情があるらしいけど」  その時、勢いよく扉を開けて、血相変えて飛び込んできた女子生徒がいた。 「梓さん。大変です!」 「郁{かおる}さんじゃない。どうしたの?」  話題にでていた、たった一人残っているというスケ番空手部員だ。 「お竜さんが、黒姫会の連中に捕まって連れてかれたんです」 「黒姫会?」 「ああ、知ってるぜ。おまえんとこの青竜会と島争いをしているスケ番グループだ よ」 「その通りです」 「たぶんおまえがスケ番達を空手部にさそって稽古に励んでいる間に、やつらは勢力 を広げていたんだな。そこへお竜達が空手に飽きて舞い戻ったところを襲ったんだろ な」 「お竜さんは、身を呈してわたしを逃がしてくれたんです」 「それで、どこに連れていかれたの?」 「わからないんです。逃げるので精一杯で」 「やつらのたまり場なら、俺が知ってるぜ」 「ほんとうか?」 「ああ、案内してやるよ」  裏門近くの駐車場にやってくる三人。 「こんなところに連れてきて、一体なんなのよ」 「まあ、見てなって」  駐車場すみの茂みに入ったと思うと、自動二輪車を引き出してくる慎二。 「バイク?」 「どうだ、すごいだろ」 「どうだはいいが、どうやって乗るんだ?」 「後ろによいしょっと跨ればいいんだよ」 「それくらいは、わかるぞ。言いたいのは自動二輪車は二人までしか乗れないんだろ。 しかもヘルメットも余分にない」 「なあに身体の細い女の子二人なら余裕で乗れるし、パトカーの巡回ルートを熟知し ている友達がいてね、サツに合わずに目的地まで行けるよ」 「大丈夫かなあ……」 「おいおい。そんな悠長なこと言ってていいのか。手をこまねいていたら彼女どうな るかわからんぞ」 「わかった。ちゃんと運転しろよ」  疑心暗鬼ながらも自動二輪車に跨る梓。 「郁さんは後ろにね。こいつのすぐ後ろだと何されるかわからんからな」 「はい」  梓の後ろに、落ちないようにぴたりとくっつくように乗車する郁。 「おい。今なんと言った」 「いいから、早く出せ」  ぽかりと沢渡の頭を叩く梓。 「わかったよ。ヘルメットはおまえが被ってろ」 「いらないよ。自慢の髪に匂いがついちゃうじゃないか」 「そうか……じゃあ」 「あ、わたしもいいです」 「そっか、んじゃ。飛ばすぞ、しっかりつかまってろよ」
     
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