(三)目覚め
目が覚めた。
はずなのであるが……。
「暗いな。それに寒い……」
辺りは真っ暗で、光の一条も差していない。
イメージスキャナーを使って自分の記憶データを、プリンセスドールのバイオ人工頭脳へ送り込んでいたはずだが。
「もう終わったのかな」
そっと目を開けてみる。
相変わらず真っ暗だ。
「おかしいな、照明は点けたままだったはず。仮に停電になったとしても何らかの外の光が入ってきていてもよさそうだが……」
起きようとした。
しかし、身体がいうことを利かなかった。
まるで金縛りにあったようであった。
よく寝起きなどにおきる現象ではなかろうか。
レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す睡眠のリズムに関係している。
金縛りはレム睡眠中に起こることが判っている。
レム睡眠中は、脳波の持続時間が短く、眠りも浅い。筋肉は、ほぼ完全にゆるんでいる。つまりカラダは眠っているのに、脳は起きている。主に筋肉を休めるための眠り。1回目のレム睡眠は5分程度。2回目は10分と、徐々に長くなっていく。体温がまだ上がっておらず、カラダが起きるための準備が十分にされていない早い段階のレム睡眠時に目が覚めると、意識はあってもカラダが動かない「金縛り」となる。また、本当は眼が開いていないのに、活発な脳の働きによって、いかにも突飛な「夢らしい夢」を、ハッキリ「現実に見た」と思ってしまうこともある。しかも心の中には、カラダが思うように動かない事から来る恐怖感がある。その2つが重なって、どうしてもコワイ思いをする事になるのだ。
理屈が判っていれば、心霊現象などと恐れることはないが……。
今起きている現象は、それとは違うような気がする。
しかし確かめようがなかった。
果たして目が開いているのかも判断がつかない。
ともかくレム睡眠における金縛りなら、いずれ目が覚めて動けるようになるはずだ。
しばらく様子をみよう。
それしかない。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
相変わらず真っ暗で、身体の自由も利かない。
やはりただの金縛りじゃない。
どうしたことだろうか……?
こんな感じははじめてであった。
意識と身体が別々にあるというか……。
「うん?」
今、気づいたのであるが、微かに音がしている。
何の音であろうか?
神経を研ぎ澄まして、その音に意識を集中する。
正確なリズムを持った単調な音。
「時計……か?」
間違いない、一秒ごとに時を刻む音だ。
音は聞こえる。
聴覚は正常に機能しているようだ。
少しは安心するが、事態が好転したというわけではない。
身体が動かないことには……。