胆道閉鎖症  肝臓で作られた胆汁は胆管を通って十二指腸に流れ,ここで食物と混じって栄養素の吸収を助けます.胆汁の通り道である胆管が,生まれつきまたは生後間もなく完全につまってしまい,胆汁を腸管内へ排泄できないのがこの病気の原因です.腸管内では胆汁は有効に作用しますが,肝臓内に溜ると黄疸を引き起こし,さらに肝臓の組織が壊され線維が溜って硬くなる「胆汁性肝硬変症」という状態になるともう治ることはありません.  約10,000人の赤ちゃんの中に一人の割合で発生し,女の子に男の子の2倍多く発生します.病気の原因は未だにわかっていませんが,お母さんの胎内で一度作られた胆管が,なんらかの炎症により閉塞するものが多いといわれています.  生まれてから数カ月以内の赤ちゃんに皮膚や眼球結膜(白目)の黄染(黄疸)と白っぽい色の便(灰色がかった白色,クリーム色やレモン色のこともあります),濃い黄色の尿がみられ,お腹の右上に肝臓が硬く触るような場合には,すぐに小児科医または小児外科医に診てもらわなくてはなりません.また胆汁が腸管内へ排泄されないと,脂肪の吸収が悪くなり,これと一緒に吸収されるはずのビタミンにも欠乏が起こります.ビタミンKが欠乏すると出血しやすくなり,脳出血などを起こすこともあります.  診断は,血液検査,尿検査,十二指腸液検査,肝胆道 シンチグラム ,腹部 超音波検査 などを必要に応じて組み合わせて行ないます.十二指腸液検査は十二指腸にチューブを入れて十二指腸内の液を採取し,胆汁の有無を調べるもの,肝胆道シンチグラムは胆汁中に排泄される放射性活性物質を用いて,胆汁の流出状況を調べるものです.  手術法には胆管の閉塞部を取り除いて胆汁の流出をはかる方法と肝臓自体を取り替える 肝移植術 がありますが,まず患者さんの胆汁流出をはかる方法を行うのが一般的です.この病気の胆管閉塞にはいろいろなタイプがあり,肝臓からの胆汁の出口となっている胆管(肝管)が十分開いているような場合は,これと腸管とを吻合する手術(肝管腸吻合術)が行われます. しかし,多くの場合には肝臓からの出口で胆管が既に閉塞していて,肝臓の外の胆管をすべて取り除き,肝臓側の断端を腸管で被うように,肝臓そのものと腸管とを吻合する方法(肝門部腸吻合術または葛西手術)が行われます.腸管を用いて胆汁の流れ道を作る方法を胆道再建と呼びますが,この胆道再建方法の基本はRoux-en Y型空腸吻合術という方法です.手術後肝臓の中の胆管に細菌感染が生じることによる 上行性胆管炎 という合併症を防ぐ目的で,施設によりいろいろな手術方法が工夫されいます(図参照).  手術後は,胆汁の流出をよくする薬(利胆剤),細菌感染を予防する薬(抗生剤)などで治療が行なわれます.また退院後も利胆剤に加えて,ビタミン剤やカルシウム剤を飲むことが薦められています.  手術後,長い期間にわたって気をつけなければならない合併症として,上行性胆管炎以外に 門脈圧亢進症 , 肝内結石症 , 肝肺症候群 などがあります.手術後も黄疸がなくならない場合や黄疸がなくなっても肝臓が徐々に硬くなるような場合には,やがて肝硬変となり,さらに 肝不全 に進みます.このような場合は腹水が溜ったり,栄養状態が悪くなって成長できなくなったりしますので,残念ながら現段階では肝臓移植以外には治療の方法がありません.  我が国の主な小児外科専門施設の最近の成績を総合すると,術後1年目で、肝移植を行うことなく黄疸なく生存しているのは約60%で、これは欧米のトップレベルの施設の成績と肩を並べるものです。肝門部(肝管)腸吻合術により良好な胆汁排泄が得られ,肝臓の病変の進行が食い止められれば,その後の良好な QOL が期待できますが,術後きわめて長期間を経ての合併症出現もありますので,定期的な通院によるチェックが必要です.