難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

関節リウマチ

概念・定義
疫学
病因
症状
診断
検査
治療
生活の注意


新薬情報◆ヒュミラ(Humira)R(一般名 アダリムマブ)◆

◆ 概念・定義 ◆
 からだの多くの関節に炎症が起こり、関節がはれて痛む病気です。長期間にわたって進行すると関節の変形と機能障害が起こります。


◆ 疫学 ◆
 人口の0.4〜0.5%、30歳以上の人口の1%にあたる人がこの病気にかかっています。
 患者は、男性より女性に多く認められます(約3倍)。
 どの年齢の人にも起こりますが、30歳代から50歳代で発病する人が多く認められます。
 15歳以下で発病したときは、若年性関節リウマチとよばれます。


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◆ 病因 ◆
 不明です。微生物の関与などなんらかの原因により、関節腔の内面を覆っている滑膜細胞の増殖が起こります。

 また、関節の血管が増加し、血管内から関節滑膜組織にリンパ球、マクロファージなどの白血球が遊走します。関節局所で免疫応答が起こり、リンパ球やマクロファージが産生するサイトカインの作用により炎症反応がひきおこされ、軟骨・骨の破壊が進行します。


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◆ 症状 ◆
 関節リウマチの症状には、関節の症状と関節以外の症状があります。

 手指(指の付け根=中手指節関節、指先から二番目=近位指節関節)、足趾、手首の関節の痛みと腫れが数週間から数か月の間に徐々に起こります。触れると熱感があることもあります。肘や膝の関節にも痛みと腫れがみられます。

 関節の痛みは最初一つあるいは少数の関節から始まりますが、長い間には左右の同じ部位の関節にほぼ同じ時期に起こることが多いのです。

 関節の腫れは関節液が貯まったり、関節を包んでいる組織に炎症が起こるためで、圧すと柔らかい感じがあり痛みを感じるのが特徴です。

 関節を動かし始めるときにこわばって、なんとなく動かしにくく、使っているうちにだんだん楽に動かせるようになります。朝、起きたときに最も強く感じるので「朝のこわばり」とよばれます。昼寝をしたり、長い時間椅子に坐っているなど関節を動かさないでおいた後にもこわばりはみられます。関節リウマチでは朝のこわばりは数時間続くことが多いのです。

 関節痛は、よくなったり、悪くなったりをくり返しながら慢性の経過をたどりますが、なかには、数か月で完全に治ってしまう人もいます。

 症状は天候に左右されることが多く、暖く晴れた天気が続くときは軽く、天気が崩れ出す前や雨の日、寒い日には痛みが強くなります。また、エアコン冷房の風が直接関節部にあたると関節痛が強くなります。

 病気が進行すると、関節の骨や軟骨が破壊されて関節の変形が起こり、関節を動かせる範囲が狭くなります。

 手指が小指側に偏る尺側偏位、足の親指が外側に偏る外反母趾、膝や肘が十分に伸ばせなくなる屈曲拘縮がみられます。

 頭を支えているくびの骨の関節がおかされてずれやすくなる(環軸関節亜脱臼)と後頭部が痛んだり、手の力が入りにくくなったりしびれたりします。

 全身症状として、疲れやすさ、脱力感、体重減少、食欲低下がみられます。

 肘の外側、後頭部、腰骨の上など圧迫が加わりやすい部位の皮下にしこりを生じることがあります。皮下結節とよばれています。

 胸部エックス線写真をとると胸水がたまったり、肺の下部に肺線維症の影がみられることがありますが、症状として表われることはまれです。

 涙や唾液が出にくくなるシェーグレン症候群がみられることもあります。

 心臓、肺、消化管、皮膚などに血管炎が起こり、発熱や心筋梗塞、肺臓炎、腸梗塞などの症状をひきおこす悪性関節リウマチは、厚生省の特定疾患の一つに指定されています。治療費の自己負担分が公費で補助されます。


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◆ 診断 ◆
 関節リウマチの症状は、ひじょうに多様で発病初期には個人差が大きく、また、関節リウマチ以外にも関節の痛みを伴う病気は沢山あります。

 そこで、関節リウマチの診断には、アメリカリウマチ協会(ARA)(現 アメリカリウマチ学会(ACR))がつくった診断基準が使われています。
 この診断基準は、
 (1)1時間以上続く朝のこわばり
 (2)3個所以上の関節の腫れ
 (3)手の関節(手関節、中手指節関節、近位指節関節)の腫れ
 (4)対称性の関節の腫れ
 (5)手のエックス線写真の異常所見
 (6)皮下結節
 (7)血液検査でリウマチ反応が陽性
 の7項目からできています。

 このうち4項目以上満たせば関節リウマチと診断します。
 ただし、(1)から(4)までは6週間以上持続することが必要です。


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◆ 検査 ◆
 関節リウマチの診断をするときに役立つ検査に、血清のリウマチ反応、血沈、CRP、手のエックス線写真があります。
 リウマチ反応(リウマトイド因子)は、関節リウマチの患者の80〜90%で陽性となります。リウマチ患者でも陽性とならない人もあり、また、関節リウマチ以外の病気の人や健康な人でも陽性となることもあります。リウマチ反応陽性でもすぐ関節リウマチというわけではありません。

 リウマチの進行や関節症状の進み方を知るための検査として、関節のエックス線写真、胸部のエックス線写真を定期的に撮影しています。

 血沈やCRPもリウマチの炎症の程度を知る上で役に立つ検査です。

 リウマチの病勢が強いときには貧血がみられますが、治療によって抑えられてくると貧血も軽くなるので参考になります。

 リウマチは薬物療法を長期にわたって行うので、くすりの副作用に気をつけるための検査が必要です。尿検査(たんぱくや赤血球)、血液(貧血、白血球や血小板の減少)、血液生化学(肝機能、腎機能)を定期的に検査します。


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◆ 治療 ◆
 関節リウマチの原因は不明なので、リウマチの原因をとりのぞく根治療法は今のところ期待できません。
 リウマチの治療の目標は、
 (1)関節の痛みを抑える
 (2)リウマチ活動性や関節の炎症を抑える
 (3)関節の変形を予防し、動かせる範囲を保つ
 (4)破壊された関節の働きを再建することに主眼をおく

− 薬物療法 −

1.非ステロイド性抗炎症薬(消炎鎮痛薬)
 プロスタグランジンとよばれる炎症を引き起こす物質の産生を押さえることによって、関節の痛みや腫れを軽減する効果を持っています。病気自体の進行や骨や関節の破壊をおさえることはできませが、飲んだ後、速やかに効き目をあらわすことから、患者さんの日常生活を維持するのに役に立ち、関節リウマチの治療では一番最初に使う薬とされています。

 しかし、この薬には炎症を抑える効果と裏腹に、胃潰瘍をおこしやすくしたり、腎臓の働きを低下させるなどの種々の副作用が認められます。このような問題を防ぐためにいろいろと工夫した薬が開発され、販売されています。飲んだ後に比較的短時間で排泄されるものは、効果がやや弱いかわりに副作用も少ないとされています。それに対して長時間型のものは効果が持続するかわりに腎障害などの副作用が特に高齢者の方で出現しやすくなります。また、胃粘膜から吸収されるときの直接的な傷害を和らげるために、胃から吸収された後に肝臓などで化学変化を起こして働くようになるプロドラッグと呼ばれる薬も使われています。また、剤形も内服錠の他に坐剤やパップ剤などがあります。 坐剤は直腸の粘膜から速やかに吸収されて効果が比較的早く現れ、食事と関係なく使えることから仕事を行ったりする時の直前や、朝のこわばりを軽減する目的で夜寝る前に使ったりされています。また、関節などに貼るパップ剤は皮膚をとおして直接炎症部位に浸透していくことから副作用が出にくいとされています。

 胃腸障害を防ぐために色々な胃薬が使われていますが、一般の胃腸薬では効果が無く、その効果はミソプロストールという胃粘膜でのプロスタグランジンを補う薬や、プロトンポンプ阻害薬と呼ばれる強力な胃酸の産生を防ぐ薬に限られています。一般に非ステロイド性抗炎症薬によって誘発される潰瘍は半数近くの患者さんで自覚症状が全くないので、便潜血反応や胃カメラなどを定期的に行うことも勧められています。

 医師は上に述べたような各薬剤の特徴を考えながら、それぞれの患者さんの症状の強さ、生活様式、さらに年齢に応じた薬を選択して治療に用いています。

 順天堂大学医学部附属順天堂医院 膠原病内科
 高崎 芳成

2.副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)
 ステロイド薬は1950年に開発された当初はその優れた炎症の抑制力から関節リウマチの特効薬として利用され、これにより開発者がノーベル賞を受賞されるほどのものでした。長いこと疼痛や関節の腫れで動くことができなくなっていたような患者さんが、起き上がることができるくらい、画期的な改善をもたらすことができたからです。しかしその後はさまざまな強い副作用がでることから、すっかり利用されなくなりました。ステロイド薬の歴史はまさにこの副作用との戦いの歴史といってもよいでしょう。その後いくら副作用があっても、この薬なしには治すことができない全身性エリテマトーデスなどの膠原病の治療においてステロイドは大量に使用されるとともに、多くの研究がなされ、その副作用を最小限に抑えるような努力が続けられてきました。そして再び関節リウマチでも使用されるようになったのです。すなわちこの10年くらい、活動性の高い関節リウマチを抑制するために、メトトレキサートと併用するステップダウンブリッジ療法と呼ばれる治療で、活動性の高い関節リウマチ初期治療に使用されたり、また疼痛の軽減、ADLの改善のために少量が投与されるようになりました。これはひとつには胃潰瘍や骨粗鬆症などの副作用をある程度コントロールできる手段が見出せたことにもよるともいえるでしょう。胃潰瘍や十二指腸潰瘍は最もよく起こる副作用ですが、これはH-2ブロッカー(ガスターなど)やプロトンポンプインヒビター(オメプラールなど)と呼ばれる抗潰瘍薬を一緒に服用することでまず抑えることができます。易感染性(免疫の力が弱まることで風邪やその他の感染症にかかりやすくなること)は大きな問題ですが、通常関節リウマチで用いる10mg/日以下では、大きな感染症をみることはまずありません。またこの量では精神的な症状を訴えることもあまりみかけません。また長期間用いると、ステロイド薬本来のホルモンの働きで顔が丸くなったり、太ったり、高血圧症になりやすくなることと、血糖が上昇して糖尿病が出やすくなります。それらの結果動脈硬化が健康な方よりも早く進んでしまいます。骨粗鬆症もこのステロイド薬のホルモンとしての働きのひとつといえますが、ビタミンD製剤(ワンアルファ、アルファロール)とビスホスホネート製剤(ボナロン、フォッサマックなど)を一緒に服用することで、より改善できるようになりました。

 ステロイド薬には錠剤として、プレドニン(5mg)、メドロール(4mg)、リンデロン(0.5mg)、デカドロン(0.5mg)などがあります。これらは種類が多少違いますが、1錠の強さは大体同じと考えられています。プレドニゾロンには1mgと5mgがあります。プレドニゾロン5mgとプレドニン5mgは全く同じものです。リウマチの患者さんは大体5mg前後、多くても10mg以内で用いるのが普通です。またこれはホルモンが体の中で作られる朝に服用するのが生理的にもあっていると考えられています。体内では一日3〜4mg前後のステロイドホルモンが必要であるとされ、副腎で作られています。もし長い間ステロイド薬を飲んでいると、体がこれに頼ってホルモンを作らなくなってしまいます。そこで突然ステロイド薬を中止すると、リウマチの痛みが強くなるだけでなく、体を元気にする働きが弱くなって動けなくなったり、低血圧になってしまったりします。また手術や事故等で強いストレスがかかったときにも対処ができなくなります。このような時には普段よりもたくさんの量のステロイド薬をとる必要がありますが、詳しくは専門医に相談し、自分の判断で増やしたり、あるいは減らしたりしてはいけません。

 ステロイド薬には注射薬もあり、血管に注射するものの他、筋肉や関節内に注射する(ケナコルト)ものもあります。筋肉や関節内ですと効果が長く持続しますので毎日注射する必要はありませんが、副作用も同様に長く続きます。

 ステロイド薬は現在多くの関節リウマチの患者さんで少量使うことが多くなっていますが、生物学的製剤の登場などでステロイド薬を減量したり中止できる例もでてきています。しかしこの使い方はまさに医師の匙加減で、患者さんが自分でコントロールすることは危険です。また同じ関節リウマチといっても人によって効く量、飲む量は同じではありません。よく医師と相談されて、適切な使用をお願いします。

 千葉大学附属病院企画情報部
 高林克日己

3.抗リウマチ薬と免疫抑制薬
 抗リウマチ薬とは、関節リウマチ(RA)の免疫異常を改善させることにより、RAの炎症を抑え、寛解導入を目的とする薬剤の総称です。RAの進行を阻止する可能性があることから疾患修飾性抗リウマチ薬と呼ばれ、また効果発現までに時間を要することから遅効性抗リウマチ薬とも呼ばれています。

 RAに使用される薬剤には、1.抗リウマチ薬、免疫抑制薬、2.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、3.副腎皮質ステロイド薬、4.生物学的製剤があります。

 従来のRAの治療はいわゆるピラミッド計画と呼ばれる方法が主流で、治療内容をマイルドなNSAIDsから始めてより強力な抗リウマチ薬や副腎皮質ステロイド薬に段階的に上げていくものでした。しかしこの方法では抗リウマチ薬や免疫抑制薬を含めた免疫療法を開始するのが遅くなり、関節破壊を防止できないのではないかと考えられるようになりました。

 現在では、発症3か月以内の早期から積極的に抗リウマチ薬を使用するようになっています。また現在の抗リウマチ薬の中心はメトトレキサート(商品名リウマトレックス、メトレート)に変わってきました。表に抗リウマチ薬の一般的な特徴を示しました。

【抗リウマチ薬の特徴】
 1. 活動性の高いRAの治療には不可欠である。
 2. 一般に遅効性であるが、効果は持続性である。
 3. 早期で活動性のRAに効果が期待できる。
 4. 反応する例と全く反応しない例がある。
 5. 十分な効果が出たら減量も可能である。
 6. 完全寛解はまれだが関節破壊の進行を遅らせる可能性がある。
 7. 長期使用で効果が落ちる例がある。
 8. 無効になれば他の抗リウマチ薬と切り替える。
 9. 効果が減弱した場合は、切り替えか併用を考慮する。
 10. NSAIDsや副腎皮質ステロイド薬は必要に応じて併用可能である。
 11. 副作用は薬物によって異なるが、時に重篤なものがあるので注意する。
 12. 抗リウマチ薬同士の併用で効果が増強する場合がある。

主な抗リウマチ薬と免疫抑制薬の特徴を説明します。

●金製剤
 注射金剤(商品名シオゾール)と経口金製剤(商品名リドーラ)があります。以前はよく使用されましたが、他の治療法の進歩もあり最近では以前ほど使われなくなりました。

●ペニシラミン(商品名メタルカプターゼ)
 重金属のキレート薬で、RAの他にはウイルソン病や重金属(鉛、水銀、銅)中毒に対して適応が認められています。RAに対しての有効率は高いのですが、高用量で副作用が多いのが問題で、我が国ではブシラミン(商品名リマチル)のほうが使われています。

●ブシラミン(商品名リマチル)
 構造学的にペニシラミン類似のSH化合物で、我が国で開発された薬剤です。効果はペニシラミンと同等で、重篤な副作用も少ないために第一選択薬として使われる傾向があります。

●ロベンザリット(商品名カルフェニール)
 我が国で開発された薬剤ですが、効果は弱く、一方で腎障害などの重篤な副作用もあり、最近では積極的には用いられていません。

●ミゾリビン(商品名ブレディニン)
 我が国で開発された免疫抑制薬で、主としてDNA合成阻害作用により効果を発揮します。RAに対しては効果も弱いが副作用も少ない特徴があります。高薬価であることも問題です。

●アクタリット(商品名オークル、モーバー)
 我が国で開発された薬剤ですが、効果は弱く、一方で腎、肝、血液障害などの副作用の報告があります。

●サラゾスルファピリジン(商品名アザルフィジンEN)
 従来から潰瘍性大腸炎に使われていた薬剤です。潰瘍性大腸炎に比べてRAでは少量で効果があります。切れ味はよく強力で早期に反応する例もあります。特にヨーロッパではメトトレキサートと並んで抗リウマチ薬の標準薬として使用されています。

●メトトレキサート(商品名リウマトレックス、メトレート)
 メトトレキサートは米国ではRAに対する標準治療薬です。我が国では1999年8月、リウマトレックスの名前で適応を得ました。通常1週間単位の投与量は6mgで、本剤1カプセル(メトトレキサートとして2mg)を初日から2日目にかけて12時間間隔で3回経口投与し、残り5日間は休薬します。現在承認されているのは、1週間8mgまでです。メトトレキサートの治療効果は他の抗リウマチ薬に比較して速やかで、投与4週目で発現する場合も少なくありません。しかも、その後3〜6か月間にわたり、その効果が増強します。副作用の第一は急性間質性肺炎でその機序はアレルギー性と考えられ、投薬後のどの時期でも発症する可能性があります。確かにメトトレキサートの副作用の頻度は低くなく、ときに死に至る重篤な副作用も見られますが、激しい炎症があり、関節破壊が速やかに進行すると予想される場合には、早期リウマチでも積極的に使用されています。

●レフルノミド(商品名アラバ)
 我が国では2003年4月、アラバの名前で関節リウマチに承認された免疫抑制薬です。ヨーロッパの治験ではサラゾスルファピリジンと同程度の効果が得られ、米国の成績ではメトトレキサートにX線の骨破壊進行抑制とQOLの改善の点で上回りました。レフルノミドの投与法は、初期投与量として100mgを朝1回3日間内服し、4日目以降20〜10mg朝1回を維持量とする特殊なものです。しかし、元来、抗リウマチ薬は遅効性であることを考慮すると、3日間の高用量投与の意義は明確ではなく、今後、初めから維持量を投与した場合との有効性と副作用の比較が必要です。副作用については、海外ではほとんど報告がなかった重症間質性肺炎が問題になっています。

●タクロリムス(商品名プログラフ)
 タクロリムスはシクロスポリンと並んで、代表的な免疫抑制薬として移植拒絶反応や自己免疫疾患の治療に使用されています。RAについては、我が国では2005年4月に承認されました。副作用としては、腎障害が中心で肝障害は少なく、間質性肺炎の報告はほとんどなく、他の抗リウマチ薬とは異なる傾向があります。

 自治医科大学 内科アレルギー膠原病学部門
 岡崎 仁昭

4.生物学的製薬
 生物学的製剤とは化学的に合成したものではなく、生体が作る物質を薬剤と使用するものです。現在関節リウマチに使用される生物学的製剤としては、TNFという分子と結合するキメラ型抗TNF抗体(マウス蛋白を25%含有)であるインフリキシマブと、可溶性TNFレセプターとヒトIgGとの融合蛋白であるエタネルセプトという2種類の薬剤がそれぞれレミケード、エンブレルという商品名で使用されています。さらに、すべてヒトの蛋白でできた完全ヒト型抗TNF抗体製剤であるアダリムマブ、IL-6というサイトカインのレセプターに対する抗体製剤であるトシリズマブも日本での治験がほぼ終了し、近々申請し数年以内に承認される予定です。

 レミケードもエンブレルも、今のところメトトレキサート(MTX;商品名リウマトレックス/メトレート)が無効ないし効果不十分な患者様に使用することになっています。通常開始して1〜2週間で炎症反応(CRPなど)が改善し、痛みや関節の腫れも引いてきます。また長期に使用すれば骨破壊の進行も止めることが分かっており、将来の関節の変形を予防できることが期待できる画期的な薬剤です。特にレミケードは改善した後で中止しても良い状態が維持できる可能性があり、リウマチをほぼ治癒に近い状態に導ける可能性もあります。

 レミケードの投与方法は、点滴静注(2時間以上かかる)で、2回目は2週後、3回目はその4週後、4回目以降は8週毎になります。エンブレルの投与方法は週に2回皮下に注射します。はじめは医師が行うことになっており、週2回の通院が必要です。以後は訓練して自己注射ができるようになれば、通院は2週に1回で済みます。

 生物学的製剤にはいくつかの注意すべき副作用がありますが、他の抗リウマチ薬にあるような臓器障害(血球減少、肝障害、腎障害など)はほとんどなくその点ではむしろ安全です。注意が必要な副作用は感染症とアレルギーです。両薬剤でもっとも注意すべき感染症は結核と肺炎です。ツベルクリン反応陽性など結核の感染の既往があると思われる方は抗結核薬をのみながらこの治療を受けることになります。これにより結核は防止できます。種々の病原体による肺炎が約3%(100人に3人)に起こります。咳や発熱などの症状があればすぐに主治医に連絡し胸部レントゲン撮影をするべきです。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンはなるべく受けるようにした方がよいと思います。アレルギー反応については、特にレミケードでは製剤中にマウスの蛋白を含みますので強いアレルギー反応が起こることがあります。これを抑えるためにレミケードではMTXを併用します。一方のエンブレルはヒトの蛋白のみでできているので、重篤なアレルギーは少なく、MTXとの併用は必ずしも必要ありません。注射部位が赤くなったりかゆみがでたりすることはありますが、通常抗アレルギー薬を併用するなどしてエンブレルを継続できます。

 最後に、残念ながら両薬剤とも大変高価で、レミケードは通常の体格(体重34〜67kg)の方で1回あたりの費用が約22万円(3割負担の一般医療で約7万円)かかります。エンブレルも1回の注射の費用が15,000円で1ヶ月あたり8回として毎月12万円(3割負担で3.6万円)かかります。高額医療費の負担軽減措置を受けることはできますが、それでも負担が大きい場合、身体障害者3級以上では全額還元されますので、該当するかどうか主治医にご相談されるとよいと思います。

 埼玉医科大学 総合医療センター第二内科
 天野 宏一


− 手術療法 −

 近年の薬物療法の開発は、リウマチと診断されてから手術までの期間を以前と比べ明らかに延ばしていることが最近の疫学調査からも明らかにされています。しかし、まだまだ関節障害のため手術が必要な患者さんも大勢いらっしゃいます。薬の開発は著しいものがありますが、手術療法も近年目覚しく進歩しています。以前は10年位と言われた人工関節の寿命も、近年開発されたものでは20年以上安定した成績が期待されるようになっています。また手術機種や手技の開発改良により入院期間も短縮され、これまで困難とされた関節の手術も可能となってきました。

 一方で手術のタイミングを逸したために期待される効果が得られない場合や、手遅れになり手術そのものが出来なくなってしまった例も見られます。確立された術式であれば、術後評価は満足すべきものであることはエビデンスの上からも明らかにされています。手術によりそれまで困難であった日常生活が著しく改善した例は少なくありません。

 薬物療法などを駆使して快適な日常生活を過ごせるよう最大限の努力を払うべきことは言うまでもありませんが、万策尽きて関節障害のため日常生活に支障をきたした場合には、手遅れにならないうちに遠慮せず手術療法というオプションについても専門医と相談すべきです。

 リウマチの手術法は大きく分けて4種類あります。人工関節置換術・関節固定術・滑膜切除術・関節形成術がそれにあたります。関節ごとに主に施行される術式は異なっています。高度に破壊された関節の手術であれば人工関節置換術が行われています。正常な関節には無痛性(痛くないこと)・可動性(動くこと)・支持性(ぐらつかないこと)の3要素が要求されますが、人工関節はわずかな動きの制限を残すことはあるものの3要素全てを獲得出来る術式です。しかしながら稀に術後の感染や肺塞栓症などの重篤な合併症が出現することもあるため、その適応は専門医と十分相談して行うようにして下さい。

 1)人工関節置換術:
 術式として主に人工関節が選択されてきた関節は膝関節と股関節です。しかし、最近ではその他の関節でも良好な術後成績が報告されるようになってきました。術式に人工関節が選択されることのある関節は肩・肘・指・股・膝・足・足趾などです。

 2)関節固定術:
 関節を固定することで必要な3要素のうち可動性を犠牲にしますが、確実な除痛と支持性を得るために行われます。主に行われるのは頚椎・手関節・足関節・手指(特に母指)や足の母趾などです。

 3)滑膜切除術:
 関節の骨や軟骨はほとんど触らず、炎症性の腫れている滑膜を関節から取り除く術式です。初期から中程度の関節障害例に対して行われ肘・手首では長期の良好なエビデンスもあります。利点として3要素全てを獲得出来る術式であり、人工関節置換術に比べ術後の感染症が重篤な状態となることは少なく、経年的に増悪した場合でも多くは再手術が可能で、場合によっては人工関節など他の術式への変更も可能なことがあげられます。欠点としては再発の可能性があり、高度に破壊された関節には適応されないことがあげられます。ただし近年の生物学的製剤による治療は増殖した滑膜も著しく退縮させることが出来ることから、滑膜切除術の適応症例を減らすことが期待されています。
 滑膜切除術は頚椎を除く全ての関節で可能ですが、主に行われる関節は肘・手関節・指・足関節などです

 4)関節形成術:
 初期から中期のまだ関節の形状が残っている状態の時、関節の一部を削ったりして形を整えて機能や整容を回復させる術式です。足趾・手首・肘・指などで行われます。3要素全てを獲得することが可能ですが全ての関節に適応出来るわけではありません。

 松野リウマチ整形外科
 松野 博明


− リハビリテーション(理学療法・作業療法・装具療法ほか) −

 リハビリテーション(リハ)の目的は、筋力増強・関節の動きの維持・破壊された関節の修復・関節の保護・失われた機能の代償にあります。このために理学療法(物理用法・運動療法)、作業療法、装具療法、その他(在宅ケアなど)が行われます。また自分で出来るものと医療機関で行うリハに分けることも出来ます。

 近年リウマチの発症年齢も高齢化し、パワーリハもリハ治療の一つとして導入されはじめました。パワーリハとは、マシンを用いて筋力や姿勢を改善させるリハで、フィットネスクラブにある筋力アップと異なり、利用者に楽な姿勢で軽い負荷を少しずつ反復して増やしていく高齢者支援向きトレーニングです。機種として簡易型のものから専門的なものまで多種あります。発症早期の程度の軽いリウマチ患者さんが適応となりますが、開始時期やプログラムについては主治医と相談して下さい。

A. 理学療法(物理療法・運動療法)

 理学療法は物理療法と運動療法からなりたっています。物理療法とは温熱や光線などの物理的エネルギーを利用して治療を行う手段です。運動療法と併用して行われることが多く、疼痛や腫脹の軽減を目的に行われます。

A-1) 物理療法

 物理療法は大きく温熱療法・寒冷療法・光線療法・水治療・その他に分類することが出来ます。

 温熱療法は筋肉の緊張緩和や局所血流の改善により疼痛や腫脹を改善します。寒冷療法は熱感のある急性炎症状態の関節に対し、局所的な治療として用いられます。光線療法には温熱作用と組織修復作用があります。温水プールなどに代表される水治療は全身浴と過流浴などの部分浴に分けられます。全身浴では温水による温熱効果とバランスの良い運動療法が可能で、部分浴では温熱効果とマッサージ効果が期待出来ます。その他に牽引・マッサージ・鍼などのリハがあります。

A-2) 運動療法

 運動療法は、関節可動域(ROM)の獲得、筋力増強、傷んだ関節の修復のために行われます。傷んだ関節があるのに運動負荷をかけることは逆効果のように思われますが、関節軟骨の新陳代謝に必要な栄養は関節を運動させることによってはじめて関節へ届けられる仕組みになっています。したがって傷んだ関節を修復させるためには運動が必要となります。しかし関節運動負荷が過度であった場合、弱って強度を失った関節の破壊はむしろ進行してしまいます。疲労や痛みが翌日も含めて残らない程度の運動量でなければいけません。運動療法の後にかえって痛みが増したという訴えを耳にすることもありますが、これは負荷量が多すぎることが原因です。適切な運動について主治医とよく相談しましょう。

 関節に痛みがあると動かすことが億劫になり、これを繰り返すといざ動かそうとしても動かなくなってしまいます。特に関節が伸びにくくなり(末期には関節破壊のため曲げ伸ばしともに障害されます)体全体がうずくまるような形になります。関節を伸ばすストレッチ運動を習慣づけるようにしましょう。

 絶対安静の状態で筋力は1日約5%の割合で低下し、骨塩量も週当たり0.9%の割合で失われることになります。リウマチでも痛みの誘発や疲れが出ない範囲で筋力増強訓練が必要と言われる所以です。しかし、アスリートトレーニングのような関節に負荷をかける運動や鉄アレイを用いた過度な運動ではむしろ関節破壊が進行してしまいます。枕や紐を用いて関節の動きを最小限としたまま力いっぱい筋肉を収縮させこれを繰り返す運動が推奨されます。

 自分に無理がない範囲であれば負荷をかける運動も可能です。例えば、浮力により負荷を減らしたプールでの運動は痛みの誘発もなく関節も保護もされます。股関節の体重負荷は首までつかって9割、胸で6割、臍で5割まで下げることが出来ます。プールの水温は一般に33-36度ですが、この温度で水中歩行すると末梢血管が開き血圧を下げることも出来ます。また温水プールには鎮静効果があることも知られています。軟式テニスボールなどの柔らかい素材による握力訓練も有用です。電気刺激による筋の収縮訓練もリウマチの筋力増強効果があることが明らかにされました。

B.作業療法

 作業療法は作業訓練を通じて社会復帰を図るためのものです。絵画やパソコン指導などが行われますが、作業療法の一つである手工芸(クラフト)は手指に負荷をかけるため勧められません。

 重症リウマチでは自助具や家屋改造により最低限の身の回り動作の獲得を目指します。代表的な自助具であるリーチャーやマジックハンドは体から離れた物を取ったり、靴下を楽な姿勢で履いたりする時使います。ボタンエイドは不自由な指でもボタン賭けを楽にしてくれます。この他、日常生活を楽にするための様々な自助具があります。

 杖は歩行を楽にしてくれます。病態に応じて各種あるので自分にあったものを選ぶ必要があります。症状の軽いうちは一般的なステッキタイプやT字杖が使われますが、下肢の術後には松葉杖も用いられます。握力のないヒトでも持ちやすく握りの部分を手の形にしたのがフィッシャー杖です。VADOチップは杖の先端を吸着式にして滑りにくく工夫してあります。ロフストランド杖は手首の負担を軽減します。前腕プラットフォーム杖は手首に加え肘関節の負担も軽減します。四点支持杖は安定性を要求される時に用います。この他、携帯用の折りたたみ式のものや、材質をアルミやチタンなどの軽量タイプしたものなど様々あります。

C. 装具療法

 低下した関節機能の代償や疼痛関節軽減を図る治療的目的や、壊れやすくなった関節を保護する予防的目的のため装具療法が利用されます。ただしせっかく装具を購入しても一人での着脱が困難・外見が悪い・重すぎる・ズレ落ちやすいなどの理由から人によっては日常ほとんど利用していないケーもしばしば見られます。これでは装具を作った意味がないので自分勝手に使用を止めたりせず、具合が悪い点はどこかについて主治医とよく相談し装具を改良してみて下さい。皮製では蒸れるため、金属製では冷たい感じが耐えられないなど人によって不具合な点は様々です。このような場合は素材を変える対応だけで継続使用が可能となる場合も数多くあります。装具の使用感は各人で異なるので、自分にあった装具を用いることが大切です。

C-1) 頚椎

 リウマチでは第一、第二頚椎間が脱臼しやすく、下位頚椎では階段状変形が出現しやすいので神経症状や痛みの原因となります。慢性的に圧迫された脊髄は、軽微な外力や過度の頚椎運動で損傷され易いことから頚椎の過度の前屈運動を制限し急な外力から頸を守るため頚椎カラーが使われます。形状や材質は通常タイプから蒸れにくいフレーム型にしたもの、不自由な上肢機能でも自分で着脱出来るようにした前開式のものまで様々あります。

C-2) 肩・肘・手関節

 肩では疼痛緩和のための保温用サポーターが、肘では動揺性(ぐらつき)や疼痛が著しい場合に支柱付きサポーターや保温用サポーターが利用されます。リウマチのため二次的に肘の外側上顆炎を起こした場合はエルボーバンドによる固定が有用です。

 手関節装具には安静による疼痛腫脹の軽減を目的とした装具と、尺側偏位(小指方向への指の傾き)の矯正を目的とした装具があります。形状には手関節固定用装具(軟性・硬性)とバンドによるもの等があります。

C-3) 手指

 母指のCM関節(先端から3番目で手首の上の関節)に痛みがある時は、一部手首にかかる軟性の装具が使われます(CMバンド)。また母指のZ状変形にサポーター形状の軟性装具が使われることがあります。

 手指のスワンネック変形やボタン穴変形には指輪型装具が使われることが多く、変形の予防に効果があります。指輪型装具は整容に優れますが、指の変形が矯正されたり腫脹が軽減したりするとサイズが合わなくなる欠点もあります。

C-4) 股関節・膝関節

 股関節装具として股関節にかかる体重負荷を減らす装具があります。着服すれば外見上も目立ちませんが排泄が困難などの理由から常時で長期間の装着は困難です。手術までの待機あるいは術後特定期間の使用は可能です。

 膝関節装具には保温により疼痛を緩和させる目的のサポーター、動揺性を抑える目的の支柱付き装具、変形の矯正を目的としたプラスチック装具など用途や病態に応じて様々な形状があり、これらの幾つかの目的を組み合わせたものもあります。リウマチの不自由な手指でも自分で装着出来るようにした前開き式のものもあります。

C-5) 足・足趾

 足関節が壊され靭帯が緩むと動揺性が増し痛みの原因となるので支柱の付いた足関節サポーター用いることがあります。後足部では踵の骨が外に向き着地部が踵でなくなるため、足の裏にタコや魚の目が出来ます。足裏にクッションの役目をする足底板をつけて対応したりします。

 前足部では外反母趾や内反小趾に加え、その他の足趾が屈曲変形(槌趾変形)するため全体としてつま先が三角形状の変形を呈します。足裏の靭帯も弛緩するため扁平足にもなります。これらの変形も足裏のタコや魚の目の原因になります。変形の早期では足袋や5本趾の靴下を利用しますが、進行期では専用足装具や足底にクッションパッドを入れた足底板が使われます。

 外出時には柔らかい素材で出来た靴にフェルト加工した中敷をいれたリウマチ靴を利用するのも有用です。リウマチ靴は各人の足の形状に合わせて作ることも可能で、最近ではファッション性のあるものも作られています。多くの場合保険も適応されます。

 松野リウマチ整形外科
 松野 博明


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◆ 生活の注意 ◆
(1)安静
 リウマチの活動性が高いときは、微熱があり、疲れやすくなります。
 炎症の強い部位の関節は腫れや熱感があり、安静にしても痛み(自発痛)、関節を動かすと一層痛みが強くなります(運動時痛)。

 リウマチは関節だけでなく、全身が消耗する病気です。そのため、全身と関節の安静が必要です。睡眠を十分にとるとともに、昼間も疲れたら昼寝をとることが大切です。

 リウマチ患者は、30〜50歳代の女性に多く、患者がおおむね主婦であることから、午前中の家事が片づいたときや夕食の支度に取りかかる前に臥床して休息を取るとよいでしょう。

 何時頃に疲れを感じるかがリウマチ活動性の一つの目安にもなります。

 関節の腫れと痛みがつよいときには、関節の安静を保ち、変形を防止する意味で、補装具で関節を固定することもあります。その場合でも1日に1回は関節可動域を十分に動かすことが大切です。

 リウマチの活動性が治まり、関節痛が軽いときは、できる範囲で普通に日常生活を送ってよいのですが、その場合でも、疲れがつよくなる、あるいは関節痛がつよくなる一歩手前で休養を取るようにします。
(2)保温
 関節を冷やすと関節痛が強くなることがあります。寒い季節はもとより、夏も冷房の風が直接あたるのを避けて、長袖や長ズボン、ブランケットなどで関節部位の保温に気をつけましょう。


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