難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

若年性関節リウマチ

1.若年性関節リウマチとは?(定義)
2.この病気にはどのような病型があるのですか?(病型診断)
3.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
4.この病気はどのような人に多いのですか?(男女比・発症年齢)
5.この病気の原因は何ですか?また遺伝しますか?(病因)
6.関節の中ではどのようなことが起きているのですか?(病態)
7.この病気はどのような症状がおきますか?(症状)
8.この病気にはどのような治療法がありますか?(治療)
9.この病気はどのような経過をたどるのですか?(予後)
10.よく聞かれる質問とこたえ(FAQ)

1.若年性関節リウマチとは?(定義)
 16歳以下で発症する関節リウマチと定義されています。しかし症状、症候からみて、必ずしも単純に"子供のリウマチ"ではありません。
 若年性関節リウマチは、後に述べる3つの型に分類されます。いずれも若年性関節リウマチなのですが、症状や関節以外の症状(合併症)、経過、予後なども異なりますので、当然、治療も違います。

2.この病気にはどのような病型があるのですか?(病型診断)
 若年関節リウマチは発症6か月以内の病型により全身型、多関節型、少関節型に分類されます。このように分類する理由は、治療方針が決められること、合併症が予想できること、また将来どのように進展するか、どのくらいで治るか、関節に障害が残る可能性があるかなどを想定するのに便利だからです。

1.全身型
 この病型は関節炎が初めは軽く、あるいはほとんどなく、しかし発熱、発疹などがみられる病型です。特に熱は特徴があり、1日のうちで温度差が大きく、朝は高く、薬を飲まないのに下がったり、上がったりし、夜はまた高熱になったりします。また熱が高い時にはリウマトイド疹と呼ばれる発疹がしばしばみられます。このほかリンパ節腫脹、肝脾腫、軽度の肝障害が一時的にみられます。
 心膜炎、胸膜炎、まれに心筋炎がみられることもあります。関節の症状は初めは軽い例が多いため、診断がなかなかつかないことがあり、感染症や白血病などの血液の病気、その他と区別がなかなか難しいことがある病型です。しかし、反対に関節症状の進行が早く、3、4か月で関節の障害が出る例もあるので注意が必要です。
 臨床検査では、決め手になる異常はなく、白血球増多、血小板増加、赤沈値亢進、CRP高値などが認められます。フェリチンが異常に高値となる例もあります。リウマトイド因子、抗核抗体は共に陰性です。

2.多関節型
 成人の関節リウマチに似た病型と経過をとります。発病の6か月以内に5か所以上の関節に炎症がみられます。関節炎は対称性で手関節、指関節など、次いで肘、足、膝、股関節、さらに進むと頚椎関節、下顎関節などの全身の関節が侵されます。下肢の関節が侵される例はより予後は悪いようです。
 ほかに、朝のこわばりがみられ、午前中は関節だけではなく、何となくからだの動きも鈍く、特に痛くなくても、のろのろした動きをします。発熱はあっても微熱程度です。長期に経過した例では、栄養不良、貧血、発育不良、性的発達遅延などもみられます。この病型にはリウマトイド因子陽性型と陰性型があり、前者は関節炎の予後悪く、従来の治療では、5年以内に約半数の例に多少の関節障害が出てしまいます。
 臨床検査ではCRP陽性、赤沈値亢進がみられますが、ほぼ正常の例もあります。

3.少関節型
 関節炎が発症6か月以内に4関節以下に限局する型で、小児に特有な病型です。4−5歳の女児に発病することが多く、約80%は膝、足関節などで、指などの小さな関節が侵されることはほとんどありません。なかには後で多関節型となり5関節以上に炎症がみられる例もあります。
 合併症として慢性、反復性の虹彩炎が10−20%にみられます。この場合、小児では自覚症状を訴えることが少なく、あったとしても"まぶしい"、"虫が飛んでいる様に見える"などで、気がつかないことが多いため3−4か月に1度の眼科検診が必要です。
 関節機能の予後は比較的に良く、多くは数年で寛解します。
 臨床検査ではCRP陽性、赤沈値促進、末梢白血球増加などは他の型に比べ軽度です。抗核抗体は約半数例で陽性を示します。原則としてリウマトイド因子は陰性です。

3.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
 私たちが1994−5年にかけて、全国の小児科医へ問い合わせた結果では、回答率から計算し、また整形外科などの他の科でも治療を受けていることを考えると、全国で約1万人位の子供が若年性関節リウマチに罹っているのではないかと考えられます。これは16歳以下の子供10万人に10人、また1年間に10万人に約1人の割合で発病する計算になります。

4.この病気はどのような人に多いのですか?(男女比・発症年齢)
 全国調査の結果で、さらに570例の若年性関節リウマチの患者さんを調べました。
 全身型は310例で男児160:女児150例でした。平均発症年齢は7歳でしたが、生後5か月から15歳までありました。
 多関節型は140例で男児41:女児99例でした。平均発症年齢は4歳3か月でした。
 少関節型は120例で男児37:女児83例でした。
 このように病型によって違いますが、一般には女児の方が約2倍多いようです。

5.この病気の原因は何ですか?また遺伝しますか?(病因)
 免疫の異常であることはわかっていますが、詳しい原因はまだわかっていません。しかし、白血球の血液型であるHLAを調べますと、ある程度は共通した型を持っていることが多いのです。従って、このようなリウマチにかかりやすい素因(遺伝的な要素)を持った人が、まだわかりませんが、もしリウマチになる原因があれば、その原因と出会って、リウマチが起きるのではないかと思います。
 遺伝については、HLAは両親のどちらかが同じ型を持っているわけで、確率からは、兄弟の半分は持っていることになります。しかし、家系を調べますと、確かに、リウマチのない家系に比べれば、従兄弟、おじさん、おばさんなどにリウマチ性疾患の患者さんが多いことは確かですが、親も、兄弟もリウマチに罹っているわけではありません。

6.関節の中ではどのようなことが起きているのですか?(病態)
 リウマチにかかりやすい素因を持っている人が、今は原因が分かりませんが、リウマチの原因が、例えばウイルスであるとすれば、そのウイルスに出会うと、関節の内側にある滑膜という場所に炎症が起こります。そして、ここの血管が増殖し、集まってきたいろいろな細胞がサイトカインと呼ばれるいろいろな物質、例えばインタ−ロイキン2、6、腫瘍破壊因子などを作り、次第に軟骨や骨が破壊し、関節の間が狭くなり、終には骨がくっついて動かなくなってしまうのです。

7.この病気はどのような症状がおきますか?(症状)
 病型の所で述べましたが、3型で共通するのは、慢性的な関節の炎症です。これは単に痛いだけでなく、その関節は腫れて、熱を持ち、さらに強ければ発赤し、そして動かせなくなります。そして、進行すれば、関節の間が狭くなり、終には脱臼したり、骨と骨がくっついてしまい、関節としての役目をしなくなります。

8.この病気にはどのような治療法がありますか?(治療)
 若年性関節リウマチでは関節が腫脹し、経過によっては関節の変形、拘縮、更に進行した関節では骨性強直となり、重症な関節障害を残してしまう危険性があります。特に発育途上にある年少で発症した場合は、成長障害を遺す危険性があります。
 若年性関節リウマチの原因は不明であり、根本的な治療ができないため、治療の最大の目的は拘縮などの関節障害をいかにして予防するかということです。
 治療は薬物療法、理学療法、合併症、特に眼科的な合併症の早期発見と予防、学校生活などを中心とした社会生活の援助、しかも慢性に続く、痛みを伴うため、心理的療法など様々な方面からの治療が必要です。
 また、医師からの家族への励ましなどを含めた精神的な援助も必要となります。
 そのためには、小児リウマチ医、整形外科医、リハビリテーション科医、理学療法士、眼科医、心理療法士、学校教師、家族などのチームによる医療が必要です。

 若年性関節リウマチの薬剤治療は関節に対する治療、関節外症候に対する治療、眼合併症に対する治療があります。
 その活動性が続く間は、副作用もあると考えられる薬を、いかに少量で、しかもより効果的に使用するかにかかっています。
 しかし、残念ながら非ステロイド抗炎薬、抗リウマチ薬(疾患修飾性抗リウマチ薬)のなかで、小児の薬用量が決められている薬剤は少なく、薬剤の選択が非常に困難です。しかも健康保険の範囲で許されている薬となるとほとんど選択できません。従って、医師とよく相談しながら、治療方針を決めていかなければなりません。
 関節症状に対する第1選択薬は非ステロイド抗炎薬で、早いと2週間、通常は1−2か月で効果が出てきます。
 しかし非ステロイド抗炎薬を2−3か月使用し、効果がなければ、抗リウマチ薬を選択します。特にリウマトイド因子陽性の多関節型では、関節障害が予想されますので、進まないうちに、早期から抗リウマチ薬を併用する必要があります。それでも効果がなければ複数の抗リウマチ薬、免疫抑制薬、副腎皮質ステロイド薬を選択します。
<薬物治療>
1.病型別治療
 1)全身型の薬物治療
 原則として非ステロイド抗炎薬を使いますが全身症状が強く心膜炎などの重症な関節外症状を合併する例では副腎皮質ステロイド薬を使用します。抗リウマチ剤は通常は、この病型には適応ではありませんが、免疫抑制薬、特にメトトレキサートはしばしば使われます。
 2)多関節型の薬物治療
 半数以上の例で非ステロイド抗炎薬の単独での治療が可能です。従来ならアスピリンを、最近ではナプロキセン、イブプロフェン、トルメチンが選択されます。これが無効な例で、特に関節障害がみられ始めた例、それが予想される例では抗リウマチ剤、免疫抑制剤を早期から併用する必要があります。最近では、メトトレキサ−トがしばしば使われます。
 また、初期に少量の副腎皮質ステロイド薬を併用すると有効な例が多いようです。
 3)少関節型の薬物治療
 多くの症例は非ステロイド抗炎薬単独で充分治療が可能な病型です。関節水腫が重症ならステロイド関節内注射を行います。
 虹彩炎はステロイド剤点眼を行います。
2小児における薬剤の使い方
 1)非ステロイド抗炎症薬
 多くの非ステロイド抗炎症薬がありますが、小児の薬用量が決められているのはアセチルサリチル酸(アスピリン)、ナプロキセン、イブプロフェン、トルメチンです。
  1.ナプロキサン(ナイキサンなど):
 現在では若年性関節リウマチに対する第1選択薬です。全ての病型に使用されます。血中半減期は12−15時間と長いため、一日2回の内服でよく、副作用が少なく、胃腸障害などは軽度です。
  2. イブプロフェン(ブルフェンなど):
 抗炎症作用を待ち、全ての型の若年性関節リウマチに有効ですが、効力は軽度です。副作用として、胃腸症状、肝機能障害などがありますが軽度です。
  3.アセチルサリチル酸(アスピリン、ミニマックス、バファリンなど):
 一般の解熱鎮痛薬の量の3−5倍を使います。例えば、小児用バファリン(81mg/錠)に換算すると、小学生で1日に30−40錠を服むことになります。副作用としては腹痛、下痢、便秘などの胃腸障害が高頻度にみられ、また肝機能障害もしばしばみられ、中止せざるを得ない例も多いことも事実です。
  4.トルメチン(トレクチン):
 少関節型および多関節型に有効です。副作用として出血時間延長が知られています。
 2)副腎皮質ステロイド薬
 全身型の若年性関節リウマチで全身症状が著明で、特に心膜炎、心筋炎を伴う症例に適応となります。また他の薬剤が無効で重症な関節炎を伴う例、少関節型で両則の慢性虹彩炎を伴う例でも本剤が適応となります。また限局した関節に炎症がある例では関節内注射の形で使用します。
 3)抗リウマチ薬
  1.金製剤
 金製剤は古くからリウマチ、アレルギー疾患に使われています。
 (a)金チオマレート(シオゾール):筋肉注射で一週間に一回10mgから開始し、増量します。副作用として皮疹、腎障害、血小板減少、白血球減少、肝障害などに注意しながら使用します。特に皮膚所見は使用早期にみられ、腎臓障害は投与量が増え蓄積するほど出現してきます。効果出現までに約3か月、成人では総投与量が300mg程度に達したころから効果が出てきます。/td>
 (b)オーラノフイン(リドーラ):経口金剤で注射より副作用が少ないため小児でも使われはじめています。
 副作用は下痢など胃腸症状です。
 (c)サラゾピリン:しばしば使われます。
 (d)メトトレキサート:もともと白血病やある種の癌の治療薬です。
 といって若年性関節リウマチに使う量は白血病に使う場合の1000分の1 位の少量です。
 この薬は欧米では非ステロイド抗炎薬が無効の場合は、次に使うように薦められています。通常、1週間に1−2カプセルをのみます。副作用として肝障害、白血球減少などがあり、また間質性肺炎もみられますので、他にかぜ症状がないのに咳が続く時には、すぐに胸のレントゲン写真を撮る必要があります。

<理学療法>
 若年性関節リウマチでは侵された関節の部位と障害の程度により、安静度、運動指導基準が異なります。

 運動は関節障害を持つ患者にとってリハビリテーション・運動療法として、それ自体が治療となると同時に、過剰な負荷は疾患を進行させる大きな原因となってしまいます。

 まず、強い炎症がある状態では関節を動かせといったところで動けるものでもないし、動かすこと自体が炎症を進行させてしまいます。縄跳びのような2−3cmのジャンプですら膝や足首にかかる力は体重の約3倍となり、強い炎症を起している関節にとっては破壊的な損傷となってしまいます。

 関節炎の最も基本的な治療は局所の安静です。一方、動かさないと廃用萎縮といって、筋力が落ち、全く動かさないとl日で筋力は5%低下し、拘縮は進行し、早いと2、3か月で錆びた蝶番のようになってしまいます。

 この様に安静も運動も大切となる場合、問題は何時から、どの程度に動かしていれば拘縮などが予防できるかということになります。よくいわれることは"診断がついた日から"動かすよう指導すべきだとされています。

1. 急性活動性関節炎(腫れて、熱を持ち、痛い時)の運動療法
 発熱などが著しい時期には入院治療が必要ですが、その時期でさえも筋力低下を防ぎ、拘縮を予防することが大切です。
 急性期には等尺運動と他動等張運動をできるだけ早く開始します。

 等尺運動とは関節を動かさずに、筋肉を収縮させる運動で、例えば、手関節を動かさずに強く手を握ることによって、前腕の筋群を収縮させるなどの運動などで、関節には負荷がかかりません。
 また等張運動とは筋が収縮しながら短縮する運動で、例えば肘関節を屈曲する時の上腕二頭筋の収縮はこれに当たります。これらの運動は炎症症状が強くても毎日行うべきであり、開始前に温湿布などで暖ためておくと疼痛が和らぎ動く範囲が拡がります。

2.慢性期の運動療法
 急性期をある程度経過した後は、等張運動を開始し、初めのうちは理学療法士などによる他動等張運動を行い、慣れてきたら自分で動かす自動運動を行います。

 さらに筋力を増加させるためには症状が許すかぎり重錐バンドや砂嚢で負荷をかける自動抵抗運動を行います。運動の回数は当然多いほど効果的ですが、欲張らずに、少しずつ回数をあげて下さい。
 最大努力収縮を数秒間行った後、弛緩させる運動を10回行い、少なくても一日一回これを行うと最大筋力が増します。
 また最大筋力の1/3‐1/2程度の数秒間の収縮を行うと、筋力低下を防ぐことができ、負荷を軽くして収縮回数を増すと筋持久力をつけることができます。
 目標を立て次第に増加し、この運動は退院後にも続けます。このためには家族の方が、リハビリテーションの現場を見学し、その方法を指導してもらい、自宅で"ホームリハビリテーション"の形で続けられると効果的です。いずれにしろ、このような指導は個別に罹患関節の部位、重症度を参考にしながら運動処方を作ってもらうことが必要です。
 実際には、関節痛があれば動かすことが不安であろうし、躊躇するかもしれません。説得には時間がかかりますが、運動療法の目的・必要性を患児によく説明し、理解させることが大切です。

9.この病気はどのような経過をたどるのですか?(予後)
 発病年齢、男女差、HLA型、発症病型と炎症の程度と範囲などによって違います。全体からいえば、関節炎の活動性は3〜5年間、長いと10年以上続きます。少関節型の様に2−3箇所しか侵されなかった場合には、関節障害はほとんど遺さずにすみます。一方、リウマトイド因子陽性の多関節型では、薬を減量するとすぐに再発したり、いろいろな薬を使っても、なかなか良くならず、障害を遺すことが多い様です。
 しかし、最近は治療法が、年々進歩し、診断がつき次第、抗リウマチ薬、免疫抑制薬などを早期から使いますので、障害を遺す程度と率は少なくなっています。

10.よく聞かれる質問とこたえ(FAQ)
子供にとって体育の時間は楽しみで面白く、特に低学年では遊びの延長でもあり、リクリエ一ション的な意味も大きく、高学年になると体力作りという意味も大きくなり、複数による試合、友人との協力、スポーツマンシップも育てられます。
しかし関節に障害があり、ある程度以上の負荷がかかることを禁止されている場合に、体育実技のカリキュラムに沿って行うことは当然困難です。
しかし、若年性関節リウマチの子供たちは、手と足の関節が同じように侵されるわけではなく、例えば膝だけの場合には、手の運動は全く正常です。しかし手関節だけの制限でもボールを握ったり、投げたりすることができません。
私が治療している大学生の一人は、手関節にごく軽度の拘縮があるだけですが、腕立て伏せ、倒立、跳び箱など器械体操が不能ですが、水泳とスキーは得意です。
病気の関節部位、進行度、機能障害程度などによって可能なら個別に運動処方箋を作成し、主治医と教師が連絡を密にして、現状ではどの運動までが可能か、絶対に行ってはならない運動は何かなどを指導してもらうことが大切です。
関節に多少の障害があっても可能なスポーツとして、散歩、ランニング(トラック競技、ハードル、障害物競争を除く)、サイクリング、テニス、バドミントン、ボート、ゴルフ、ヨット、弓術、魚釣り、キヤンプなどがあげられます。
反対に、好ましくない種目としてはボクシング、レスリング、柔道、空手、サッカー、ラグビー、バスケットボールのように競技者同士体が触れ合うようなスポーツは避けるべきです。また、器械体操、跳び箱、鉄棒などは、ぶら下がる時に手、肩、肘に荷重がかかり過ぎる種目です。
Q1:リウマチはむしろ高齢者の病気と思っていたのですが、子供のリウマチと大人のリウマチと基本的にどこが違うのですか?
A1:すでに述べたように若年性関節リウマチには3つの病型があり、大人の関節リウマチと似ている点も、違った点もあります。しかし最も違う点は、子供はこれから成長し、発育することです。
また、社会的にもこれから教育を受けなければならないし、職業の選択も、狭められる可能性もあります。趣味やスポ−ツを通じて友達作り、恋愛をするなども、長い治療生活などによって、制限されてしまうかも知れません。
これらのいろいろな問題を抱えているわけで、総合的に、治療・管理することが大切です。
Q2:薬を長期間服用しなければならないと聞きましたが副作用は心配ないのですか?
A2:確かに慢性で長期間治療しなければならない病気であり、比較的大量の薬を長く服まなければならず、しかもいずれの薬も副作用があると考え、慎重に使わなければなりません。そのためには主治医の充分な説明を受けて下さい。また質問して下さい。
両親が薬に対する知識を持って下さい。
時期によっては、副作用のための検査も必要ですので、頻回の検査も嫌がらずに受けて下さい。特に副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬について注意が必要です。
副作用があるかも知れないからといって、治療を止めるわけにはいかないのです。起こり得る副作用を知り、慎重に薬を使います。
Q3:若年性関節リウマチの治療中ですが、失明の危険性もあるので、眼科を受診するように言われたのですが、その危険性は強いのですか?
A3:膝や足首の関節だけが主に侵される少関節型では、10−20%に眼の合併症がみられます。ぶどう膜炎(虹彩炎)と呼ばれ、瞳の部分の炎症です。自覚症状はほとんどないため、問題ないと思っても、3−4か月に1度は眼科を受診して、スリットランプによる検査を受けて下さい。眼の合併症は関節の症状とは全く別です。関節炎が直った後でも、ぶどう膜炎だけが繰り返すこともあります。
ぶどう膜炎を繰り返し、瞳に癒着がおこると、この部分に流れている前眼房水が流れなくなり、眼圧が高くなり、緑内障となり、視力が低下することになりかねません。幸い、日本にはこのような症状が出るお子さんは少ないのですか、少関節型では特に注意が必要です。
Q4:若年性関節リウマチの治療中ですが食事には注意することがありますか?
A4:まず、若年性関節リウマチに効果がある特別な食品はありません。リウマチが治ったと称する民間の栄養食の広告を時に目にしますが、期待できません。無駄なお金は使わないで下さい。それでも試してみたいのなら主治医に相談して下さい。
この病気は慢性の炎症のため、消耗し、貧血も出てくるため、基本的にはカロリーの高い食事が必要で、特に高蛋白、高ビタミン、高カルシウム食が薦められます。しかし、副腎皮質ステロイド薬を内服している場合には、糖尿病に注意する必要がありますので、薬の量によっては、カロリー減量が必要です。
Q5:家庭における関節の運動療法の方法を教えて下さい。
A5:家庭での遊びを兼ねた運動療法も効果的で、年齢に応じた遊び、運動種目で効果があがります。特に三輪車、自転車乗りは下肢の関節運動を遊びながら行い、筋力を養うことができると同時に、行動範囲を広げることができるという利点があります。普通の歩き方では膝関節へは体重の約3倍の力がかかりますが、自転車乗りでは1/2〜1/5負荷にしかなりません。
水遊びや水泳も薦められます。水の中では浮力により、下肢への負荷が少なく、関節への過重負荷を避けることができ、関節可動域は大きくなります。また、陸上の運動と異なり、捻挫、骨折などのけがをすることが少なく、全身運動量としても大きいため、関節障害を持った患者さんには理想的な運動です。
関節リウマチの患者さんにリハビリテーションとして、温水プールでの運動療法を実施して非常に良い結果があがっています。水温35℃のプール中で症例に応じた最大努力歩行を一日l時間2回行いますと3か月後に30〜40%の筋力が増大します。
また、水中歩行ができなくても、水中に立っているだけでも全身の筋力は増大します。
泳ぎ方も考えるべきで、上肢が軽症で下肢の障害が強ければ抜き手に近いクロールは可能です。しかし、頸椎、腰椎の障害があれば平泳ぎ、バタフライ泳法は禁止です。また飛び込みやプールサイドでの悪ふざけで突き落とすなどはとても危険です。
Q6:学校の体育の授業はどのように受けたらよいのでしょうか?
A6:学校での体育の目的は全身的機能を増強させ、筋力とその協調を発達させ、心理的・精神的にも向上させることです。
Q7:アスピリンについて聞きたいのですが、副作用のため最近はあまり使われないと聞いたことがあるのですが、本当ですか?
A7:以前は小児のリウマチの治療はほとんどアスピリンだけを使っていました。また実際にアスピリンだけで良くなる例も多いのです。しかし、インフルエンザや水痘(水ぼうそう)の時にアスピリンを使うと、ライ症候群とよばれる、けいれん、意識障害となる非常に重症な脳障害との関連が疑われ、小児、特に乳幼児に使うことが躊躇されるようになりました。これは日本よりむしろ米国などで問題となり、米国小児科学会でも勧告を出し、アスピリンの使用が大幅に制限されました。その結果、確かにライ症候群の症例が減ったのです。
この事実から、まずインフルエンザ、水ぼうそうに使われなくなり、次第に解熱薬として使うことが制限され、最後にはリウマチにもあまり使われなくなっています。
しかし、アスピリンは非常に良い薬ですので全く使われていないのではなく、年長児では注意しながら使われています。
欧米の小児科の教科書では『有効であるが、社会的な理由で自分は使わない』と書いてある本が多いようです。
Q8:メトトレキサート(MTX)の使用許可が出たそうですが、もう少し詳しく、どのような薬かを教えて下さい。子供に使っても大丈夫ですか?
A8:若年性関節リウマチの治療が以前と違い、将来、関節に障害を残すことが予想されるような例ではアスピリンのような非ステロイド抗炎薬だけではなく、抗リウマチ薬、さらに免疫抑制薬として、メトトレキサ−ト(MTX)、アザチオプリン、シクロフォスファミド、シクロスポリンなども比較的早期から使われています。

 MTXは米国では1951年から成人の関節リウマチに使われ、1980年代になって、低用量間欠投与法が開発され、1988年から抗リウマチ薬として認められています。最近の米国のデ−タ−では、関節リウマチの43%に抗リウマチ薬が使われており、全患者の27%にMTXが使われています。
 さて、若年性関節リウマチについては、1992年に米国と当時のソ連の小児リウマチ医が共同研究を行い、その効果を検討したところ、非常に有効でしかも副作用が少なく、小児にも長期間に安全に使えるという論文を発表しました。この報告の後から、世界中で広く使われ始め、特に非ステロイド抗炎薬が無効の例では、次ぎに使う薬として処方されるようになりました。日本では米国に遅れること11年、平成11年8月から関節リウマチに関して2mg入りカプセル剤が健康保険適用となりました。

本来は抗がん剤
 もともとは抗癌薬として使われている薬で葉酸代謝拮抗薬です。葉酸とはビタミンBの一種で、細胞のDNA合成、増殖に重要な働きを持っている物質です。この薬はDNA合成に必要な葉酸の代謝を阻害するもので、細胞分裂を阻止する働きがあり、抗癌薬としての作用を発揮する薬なのです。

白血病に対して
 例えば、急性白血病の治療として最近行われている方法は大量を点滴静注する方法で、2000mg/m2、つまり、小学生で1日に1-2グラムを注射することになります。
 リウマチに使うのは、その1/1000ということになります。

若年性関節リウマチに対して
 低用量間欠療法とよばれ、非常に少ない量を使い、体表面積あたり10mg(小学生で大体1・)、1カプセルが2mgですので、1週間に1-2カプセルを使います。つまり2カプセルとすると、土曜日の夕食後に1カプセル、日曜日の朝食後に1カプセルのむのです。これは、副作用として多少胃腸症状があっても、学校に行かない土、日なら、影響が少ないからです。成人の関節リウマチに対してもほぼ同じ量、つまり1週間に1-2カプセルを使います。

 筋肉注射、静脈注射も可能で、経口薬が効かない例や、しばらく使っていたが効かなくなった場合に、注射にすると効果が出ることがあります。このように、白血病などに較べれば非常に少量を使うと、免疫抑制作用があり、リウマチなどの炎症を抑える作用があります。

臨床効果
 ほとんどの抗リウマチ薬では効果が出はじめるのに3-4か月かかるのですが、MTXでは2-3週間から、つまり数回のんだだけで効果が現れ、赤沈、CRPなどの値も改善しはじめます。そして6か月から1年で効果が最大となります。この結果、約半数の症例で腫脹していた関節の数が50%以下に減ります。特に成人の関節リウマチの検討では、使用1年以上の経過では、65%の例で、レントゲン上での骨破壊の進行を止めることができました。また、関節リウマチの初期治療として、初めからMTXを使った例では、あとで骨破壊が出なくてすんだという報告もあります。若年性関節リウマチついては20症例以上についての報告をみますと、その有効率は52-91%、寛解率は8-45%でした。

副作用と検査の必要性
 MTXを白血病の時のように大量に使った場合には口内炎、吐き気、嘔吐、下痢などの胃腸障害、肝障害、腎障害、白血球減少、血小板減少、貧血などの骨髄抑制、脱毛、皮膚炎、肺炎、肺繊維症などのほか催腫瘍性などの危険性も予想しておく必要があります。とくに口内炎、骨髄抑制、肝障害などは頻度が高いため、血液検査、肝機能検査、腎機能検査を定期的に行う必要があります。そのなかでも、肝繊維症、肺炎(間質性肺炎)による肺繊維症は重症な副作用ですので、頻回に肝機能検査を行い、定期的な肺のレントゲン検査を行います。
 このような検査をしていれば、副作用を早期に発見でき、また、疑わしい例では、直ちに中止すれば重大な副作用は避けることができます。
 幸いなことに、小児では腎臓からの排泄が早く、これは年齢が低いほど早いので、成人に比べると副作用は少ないと考えられています。

 もう一つの副作用の可能性を予想する方法として服用後24-48時間にMTXの血中濃度を調べて、一定以上に残っている場合には、排泄が遅いために副作用が出る危険性があると予測することもできます。
 若年性関節リウマチに対しては、白血病に対して使う量の1000分の1程度の量なので、当然、副作用は少なく、他の薬剤より安全と考えられています。しかし、副作用が全くないのではなく、他の薬より少ない程度で、重症な副作用はまれであると考えてよいと思います。
 しかし、MTXがリウマチに使われ初めてからそれほど時間が経っていないため、特に長期に使った場合には慎重にしなければなりません。たとえ少量しか使わなくても、大量に使う場合と同じ副作用の危険性はいつも考えておくことが大切です。
 特に催腫瘍性、つまりMTXを使用した患者さんが、薬のために、後で癌などの悪性腫瘍に罹ることを意味しますが、これは小児についてのはっきりしたデ−タ−はありません。
 成人では、MTXを過去に使用した関節リウマチ患者の3500人に一人の確率で、悪性リンパ腫に罹る可能性があるというデ−タ−があります。癌の例はないようです。

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