難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

アミロイドーシス/診断・治療指針(公費負担)

特定疾患情報認定基準

■概念
アミロイドーシス(amyloidosis)は線維構造をもつ蛋白であるアミロイドが、全身臓器に沈着することによって機能障害を引き起こす一連の疾患群である。
  病理学的には、アミロイドはアルカリコンゴ赤染色で橙赤色に染まり、その標本を偏光顕微鏡で観察すると、緑色の複屈折を示す。電子顕微鏡で観察すると、幅が7〜15mmの細長い線維が錯綜して沈着している。
  生化学的には、様々な蛋白が凝集して線維構造をとってアミロイドとして沈着する。蛋白が立体構造(コンフォメーション)を変化させて凝集し疾患を引き起こすことから、コンフォメーション病の1つとして捉えられている。アミロイド蛋白の種類により、アミロイドーシスは対応する諸病型に分類されている。

■病型
厚生労働省特定疾患アミロイドーシス調査研究班による新分類は表1のごとくである。この分類では、まずアミロイドーシスを全身諸臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスと、ある臓器に限局した沈着を示す限局性アミロイドーシスとに分類し、更にアミロイド蛋白(前駆体蛋白)とそれに対応する臨床病型に分類している。昭和50年に作成した分類とは全く異なっているので旧分類を( )内に記す。

免疫細胞性アミロイドーシス(原発性アミロイドーシスおよび骨髄腫に伴うアミロイドーシス)は免疫グロブリン由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着するもので、骨髄腫やマクログロブリン血症以外の基礎疾患が認められない場合に診断を下すものである。病理組織化学的又は生化学的にアミロイド蛋白がALであることが証明される場合は免疫細胞性としてよい。

反応性AAアミロイドーシス(続発性アミロイドーシス)は、急性期蛋白であるserum amyloid A由来のアミロイドが沈着し、慢性の炎症性疾患(主に慢性関節リウマチ、結核、気管支拡張症、SLEなど)に続発する。

家族性アミロイドーシスは家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)T型に代表され、特有の感覚障害、運動障害及び自律神経障害を呈するものであり、ポルトガル、日本、スウェーデン、英国、米国、フィンランドなどからの家系が報告されている。そのアミロイド蛋白は異型トランスサイレチン(点突然変異によるアミノ酸置換)である。現時点で100ヶ所以上のアミノ酸置換が発見されている。我が国では熊本県北部と長野県北部にFAP家系の大集積地があるが、この他の地域にも多数の家系が見出されている。また、FAP W型(前駆体蛋白:ゲルソリン)も数家系報告されている。

長期透析患者の増加に伴いβ2-ミクログロブリン由来のアミロイドーシス(透析アミロイドーシス)症例が増加している。

脳アミロイドーシスにはアルツハイマー病、脳血管アミロイドである脳アミロイドアンギオパチー、プリオン病などがある。

内分泌性アミロイドーシスにはU型糖尿病に伴う膵島やインスリノーマに沈着するアミリン由来のAIAPP、心房に沈着するAANFなどがある。

表1 アミロイドーシスの分類    (厚生労働省特定疾患調査研究班新分類)

アミロイドーシスの病型アミロイド蛋白前駆体蛋白
T 全身性アミロイドーシス
1.免疫細胞性アミロイドーシス
 1)ALアミロイドーシスALL鎖(κ、λ)
 2)AHアミロイドーシスAHIg γ
2.反応性AAアミロイドーシスAAアポSAA
3.家族性アミロイドーシス
 1)FAP* TATTRトランスサイレチン
 2)FAP UATTRトランスサイレチン
 3)FAP VAApoA 1アポA 1
 4)FAP WAGel1ゲルソリン
 5)家族性地中海熱(FMF)AAアポSAA
 6)Muckle-Wells 症候群AAアポSAA
4.透析アミロイドーシスAβ2Mβ2ミクログロブリン
5.老人性TTRアミロイドーシスATTRトランスサイレチン
U 限局性アミロイドーシス
1.脳アミロイドーシス
 1)アルツハイマー型認知症(ダウン症候群)アミロイド前駆体蛋白
 2)アミロイドアンギオパチーアミロイド前駆体蛋白
 3)遺伝性アミロイド性脳出血(オランダ型)アミロイド前駆体蛋白
 4)遺伝性アミロイド性脳出血(アイスランド型)AcysシスタチンC
 5)プリオン病Ascrプリオン蛋白
2.内分泌アミロイドーシス
 1)甲状腺髄様癌Acal(プロ)カルシトニン
 2)U型糖尿病・インスリノーマAIAPPLAPP(アミリン)
 3)限局性心房性アミロイドAANF心房ナトリウム利尿ペプチド
3.皮膚アミロイドーシスADケラチン?
4.限局性結節性アミロイドーシスALL鎖(κ、λ)
*FAP:家族性アミロイドポリニューロパチー

■疫学
日本病理剖検輯報によると全身性アミロイドーシスの症例は1958年10例、1978年102例、1991年302例と増加し、剖検総数に対する比率は1958年0.108%、1978年0.344%、1991年0.825%と増加傾向がみられた。1991年の剖検例全身性アミロイドーシスの302例中113例(37.4%)が続発性、次いで原発性85例(28.1%)、骨髄腫に伴うもの66例(21.9%)であった。続発性(AA)アミロイドーシスの基礎疾患では慢性関節リウマチが最も多く61.9%であった。
原発性(AL型)アミロイドーシスの5年間の有病率は人口10万人当たり平均0.45で、多発性骨髄腫に伴うものはそれより多く0.93であった。また1979〜1983年の5年間のアミロイドーシスによる死亡率を各都道府県で調査した結果、10万人当たり0.025〜0.130であった。

1991年、患者数の多いアルツハイマー病やU型糖尿病などのもの及び従来の続発性アミロイドーシスに入るAAアミロイドーシスを除いた6種類のアミロイドーシスの疫学調査を行ったところ、 年間推計受療者は

(1)原発性(AL型)アミロイドーシス:約300名
(2)骨髄腫ないしマクログロブリン血症に伴うAL型アミロイドーシス:約200名
(3)家族性トランスサイレチン型アミロイドポリニューロパチー(FAP):約130名
(4)遺伝性シスタチンC型アミロイドーシスによる脳出血:約10名
(5)血液透析によるβ2-ミクログロブリン型アミロイドーシス:約700名
(6プリオン型アミロイドーシスであるクロイツフェルト・ヤコブ病ならびにゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群:約100名

であった。

■発症機序
15種類の異なったアミロイド蛋白が報告されており、それぞれの産生機序や沈着機序には違いがあるものの、共通のアミロイド線維形成機序が存在する。まずアミロイド前駆体蛋白が産生され、次に前駆体蛋白が蛋白分解又はプロセッシングを受け、更にその蛋白が重合又は凝集してアミロイド線維となる。従って、この過程に影響を与える要因(例えば前駆体蛋白の産生増加、プロセッシングの変化、凝集を促進するような分子環境など)が発症を促進する因子となる。

■症状
アミロイドーシスの症状は、アミロイドの沈着による臓器・組織の障害に基づくもので、各病型によって異なり多彩である。

診断基準に示すように、特に注目すべき症状は全身衰弱、貧血、心アミロイド沈着による心症状、腎症状(ネフローゼなど)、手足のしびれなどである。

認知症の原因の過半数はアルツハイマー病である。また、高齢者では脳血管壁へのアミロイド沈着(アミロイドアンギオパチー)により、脳葉型の脳出血をしばしば多発・再発する。

■治療
対症療法が主体であったが、近年原因療法が可能になりつつある。原発性ALアミロイドーシスに対して自己末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法、FAP T型で肝移植が行われている。透析アミロイドーシスの予防として透析膜が改良されている。更に、FAP T型では抗炎症薬ジフルニサルを用いた治療、AAアミロイドーシスは抗IL-6受容体抗体を用いた治療が臨床試験にて評価される予定である。また、アルツハイマー病ではコリンエステラーゼ阻害薬である塩酸ドネペジルが用いられ、症状を軽減させ、進行を遅らせる効果を有する。更に、アミロイドに対するワクチン療法等が現在開発中である。

■予後
病型により異なり、個人差もある。

■診療支援
アミロイドーシスの確定診断は、アミロイドの沈着の病理学的な証明によるが、病理学的な検索が行えない場合もある。病型によって、遺伝子検査、血液検査、脳脊髄液検査なども、診断や病態評価に有用である。アミロイドーシスに関する調査研究班では、アミロイドーシスの診断支援の目的で、一般の施設では実施困難な特殊検査についての相談を受け付けている。

1. 病理検査:各種アミロイド蛋白の免疫組織化学的検索
相談先
石原 得博 山口大学大学院医学研究科 情報解析医学系病理形態学分野
〒755-8505 宇部市南小串1-1-1

2. 遺伝子検査、血液検査、脳脊髄液検査
家族性アミロイドポリニューロパチーにおける遺伝子検索、各病型における血中アミロイド前駆体蛋白の検索(異常トランスサイレチン、免疫グロブリンL鎖など)、脳アミロイドーシスにおける脳脊髄液検査など。

これらの検査や治療に関しては、各病型別の専門医(表2)にご相談下さい。


表2 「アミロイドーシスに関する調査研究班」のアミロイドーシス病型別専門医リスト(pdf 18KB)


アミロイドーシスに関する調査研究班から
アミロイドーシス 研究成果(pdf 27KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

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