難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP)とは?
 細小動脈に血小板の凝集塊(血小板血栓)が詰まり、以下のような5つの症状がみられる全身性重篤疾患です。

 1. 血小板減少症 (皮膚に紫斑ができる)
 2. 溶血性貧血 (赤血球の崩壊による)
 3. 腎機能障害
 4. 発熱
 5. 動揺性精神神経症状 (症状に幅があり、しかも大きく変動する)

 この5つの症状は一般にTTPの古典的5徴候とも言われます。また、TTPのことを発見者の名を冠してMoschcowitz病と記載している成書も有ります。一方、血小板減少症、溶血性貧血、そして腎機能障害を3徴候とする疾患で溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome; HUS)というのがあります。TTPとHUSはこのように類似した症状のため、従来TTP/HUSあるいは共に血栓性微小血管障害症 (thrombotic microangiopathy, TMA)という共通の病態診断名で記載されたりしています。実際臨床においては神経症状が主体であるものはTTP、また腎機能障害が顕著であるものはHUSと診断されてきた経緯がありますが、下記の検査診断法の進歩により両者は異なる病態である事がはっきりと示される状況となってきています。さらにTTPもHUSも各々5ないし3徴候が全て揃っている例はむしろ少なく、少なくとも血小板減少症と溶血性貧血の2つの症状があれば、これらの病態を念頭に入れて検査・診断を行う事が必要です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?
 人口100万人当たり4人(0.0004%)と推計されてきましたが、診断技術の進歩により、最近はこれより遥かに多いと考えられています。

3. この病気はどのような人に多いのですか?
 先天性素因のものと後天性要因のものとがあります。前者は極めて稀ですが、生後間もなく重症黄疸と血小板減少で発症 するUpshaw-Schulman症候群という病名が知られています。後者は2:3の比率で女性に多いとされていますが、罹患年令は子供から老人までと幅広く、原因不明に起こるものを特発性、また何らかの基礎疾患があって起こるものを 二次性あるいは続発性と言います。

4. この病気の原因はわかっているのですか?
 肺を除く末梢の細小動脈(特に脳、腎臓、そして冠状動脈)が血小板血栓で閉塞する事によって起こります。この原因として現在二通りの説があります。一つは、細小動脈の内壁が何らかの原因で障害され、血管内皮細胞の持つ抗血小板機能が失われ、同所で血小板の凝集、消費が進む場合です。もう一つは、互いの血小板をくっつける「分子糊」として知られている血漿フォンビルブランド因子(von Willebrandfactor; VWF)というのがありますが、これを切断する肝臓由来酵素の活性(VWF-cleaving protease; VWF-CP)、別名ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)、が無いために、非常に分子量の大きなVWFマルチマー(unusually-large VWF multimer; UL-VWFM)が血中に蓄積し、血管内で血小板血栓がどんどんできる状態となるものです。因に、細小動脈の血管内径は小さく、また血流も非常に速いのですが、このような条件下では物体を歪まそうとする物理的な力、"ずり応力"、が強く生じ、前二者の血小板血栓形成に拍車がかかる状態となります。 またこの"ずり応力"を高めるもう一つの要因として、血液の粘度上昇があります。即ち、高体温や運動負荷後などで脱水症状が見られる時などです。

(1)細小血管の内皮細胞障害の原因
 1)自己免疫疾患による血管炎、 2)病原大腸菌O157:H7株が産生する毒素ベロトキシンが血管内皮細胞上の受容体(Gb3)に結合、 3)抗癌剤などの薬剤、4)放射線照射など。→HUS型

(2)血漿ADAMTS13活性著減の原因
 1)ADAMTS13活性の先天性欠損、2)後天性にADAMTS13に対する自己抗体(IgG型中和抗体、IgM型非中和抗体)の産生;原因不明、薬物、妊娠、HIV感染、悪性腫瘍など、 3)重篤肝機能障害など。→TTP型

5. この病気は遺伝するのですか
 上記のUpshaw-Schulman症候群は第9染色体上にあるADAMTS13遺伝子の異常に基づく先天性TTPで、遺伝形式は見かけ上常染色体劣性を示します。即ち、患者の両親は保因者ではあるが無症状です。一方、患者さんでこの遺伝子のホモ接合体を示す例は稀で、多くは両親から異なったADAMTS13遺伝子異常を引き継ぐ、いわゆる複合型ヘテロ接合体です。一方、後天性TTP の遺伝性は認められていません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 先天性TTPであるUpshaw-Schulman症候群は生後間も無く上記症状で発症する最重症型ですが、学童期に発症するものや、稀に成人期以降に発症するタイプもあります。この発症年令の差が何故なのかは未だ不明ですが、最近になって小児期に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と誤って診断されている症例で、妊娠を契機にTTPを発症し、本症である事が発見された例が多く報告されています。

 後天性TTPでは、体のだるさ、吐き気、筋肉痛などが先行し、発熱、貧血、出血、精神神経症状、腎障害が起こります。発熱は38℃前後で、ときに40℃を超える高熱を認めることもあります。中等度ないし高度の貧血を認め、軽度の黄疸(皮膚等が黄色くなる)をともなうこともあります。血小板が減少するために起こる点状や斑状の出血がほぼすべての場合に認められます。精神神経症状として、頭痛、意識障害、 錯乱、麻痺、失語、知覚障害、視力障害、痙攣などが認められます。血尿、蛋白尿を認め、腎不全になる場合もあります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 先天性TTPであるUpshaw-Schulman症候群に対しては、2週間毎に新鮮凍結血漿10ml/kg体重を輸注し、ADAMTS13酵素を補充する事により発症を予防します。

 後天性TTPに対しては、基本となるのは下記の血漿交換療法です。血小板減少に対して、初回に血小板輸血を行うと症状が急速に増悪しますので、これは「禁忌」です。血小板輸血が必要な場合には、必ず血漿交換の後に行います。また、この病気の治療においては全身管理が特に大切で、原因疾患がある場合には、その治療が必要です。また、急激な腎機能障害の進行のために人工透析が必要とされることもあります。

(1)血漿交換療法・血漿輸注
 血漿交換療法が第一選択です。症状が軽い場合には新鮮凍結血漿の輸注で経過をみる場合もあります。これらの治療に加えて、以下の抗血小板薬やステロイドが同時に使用される場合が多いです。

(2)抗血小板療法
 血栓が出来るのを防ぐために、抗血小板薬が使われます。

(3)ステロイド療法
 通常量の使用と、短期間に大量投与するパルス療法があります。血漿交換療法にパルス療法を併用する場合が多いです。

(4)その他
 難治性TTPの場合には、ビンクリスチンやガンマ・グロブリン製剤の使用、また時には脾臓摘出が有効な場合もあります。最近、難治例にリツキサンという抗CD20キメラモノクロナール製剤の投与が有効であったという報告が多く見られるようになってきました(平成19年9月現在、保険未適用)。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 後天性TTPに対しては、血漿交換療法が導入されてから治療成績は素晴しく向上しましたが、稀にこれらの効果が十分に認められない症例や、また何度もTTP症状を繰り返す症例(難治・再発性TTP)に遭遇する事があります。

9. ADAMTS13活性はどこで測定していますか?
 TMAは基本的に血小板輸血を避けるべき病態ですが、とりわけADAMTS13活性著減の定型的TTPでは、血漿交換療法前に血小板輸血を行う事は「火に油 をそそぐ(fuel on the fire)」と云う事になりますので、血小板輸血は絶対禁忌です。ADAMTS13活性測定はこのように重要な検査で、最近簡便測定法も開発され、そのキットも市販されています。また、複数の会社で受託検査として行っていますが、検査費用は未だ保険適用になっておりません。測定を希望される方、もしくは興味ある方は奈良県立医科大学輸血部のホームページ(http://www.naramed-u.ac.jp/~trans/)を御覧下さい。


情報提供者
研究班名 血液系疾患調査研究班(血液凝固異常症)
情報見直し日 平成20年4月27日

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