難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

遅発性内リンパ水腫/診断・治療指針

特定疾患情報

■概念・定義
遅発性内リンパ水腫は、突発性または発症時期不明の高度感音難聴の先行があり、数年?数十年以上の間隔をおいてメニエール病と類似した回転性めまい発作を発現する疾患である。遅発性内リンパ水腫は、先行する高度難聴耳を原因としてめまいを生じる同側型と、先行する高度難聴耳の対側耳に変動する難聴とときとしてめまい発作を生じる対側型に分類される。

■疫学
全国的な調査はまだ行われていない。平成10年度の前庭機能異常調査研究班による多施設調査では、同調査期間の各施設におけるメニエール病患者数に対する遅発性内リンパ水腫の比率は、同側型0.055(27/485人)、対側型0.032(16/485人)であり、両者を合わせた場合0.098(43/485人)であった。

■病因
原因は不明である。その成立機転に関して、先行した陳旧性の高度感音難聴側の内リンパ吸収系、すなわち内リンパ嚢や前庭水管に二次的変化として萎縮や繊維性閉塞などの組織変化が生じ、その結果徐々に内リンパ水腫が進行性に形成されるためとする考えがある。同側型では症状の発現に関して、迷路機能が残存していればメニエール病のようなめまい発作を反復するが、蝸牛はすでに高度に障害されているため症状が発現しないと考えられる。一方、対側型では、一側の蝸牛・前庭が破壊され、かつ対側の内リンパ吸収機構が障害されたときに生じる。対側型症例のうち、多くが対側耳の聴力変動のみを示し、回転性めまいを伴わないのは前庭機能がすでに破壊されているためと説明される。難聴をきたした原因疾患としては、ムンプス、外傷、上気道感染、ジフテリア、ウイルス感染、内耳炎、先天性、若年性一側聾などが主なものである。

■症状
同側型遅発性内リンパ水腫では、1耳または両耳が高度難聴、ないし全聾であり、長年月経過後(ふつう、難聴発症より数?数10年)、メニエール病様前庭症状が発現する。すなわち、多くは反復性、発作性に発来する回転めまいで、嘔気、嘔吐を随伴する。また、対側型症例では、1耳高度難聴ないし全聾であるものの対側耳(良聴耳)に新たな聴力障害が出現し変動し、ときにメニエール病様前庭症状が出現する。

■診断
日本めまい平衡医学会では、遅発性内リンパ水腫の病歴からみた診断について、次の表1および表2のような基準(案)を示している。

表1 同側型遅発性内リンパ水腫の病歴からみた診断基準(案)

1、片耳または両耳が高度難聴、ないし全聾(以前より存在し内耳障害が疑われる)
2、長年月経過後(ふつう、難聴発症より数?数10年)、メニエール病様前庭症状が発現(多くは反復性、発作性に発来する回転めまいで、嘔気、嘔吐を随伴)。
3.めまい発作時に、蝸牛症状とくに聴覚変動は不随伴(これはめまいの責任耳において、聴覚系がすでに高度に破壊されているためである。これに対して耳鳴増強や耳閉塞感などは、まれに発作に随伴する)。

上記のうち、1、2が認められるときに遅発性内リンパ水腫を疑う。さらに3が加われば、その疑いはますます濃厚である。

表2 対側型遅発性内リンパ水腫の診断要点

1、片耳高度(感音)難聴ないし全聾(以前より存在)、他耳(良聴耳)に新たな聴力障害が出現(それまではこの側において、聴力が正常であったことが推定される)。
2、良聴耳聴力が変動(同時に内耳性難聴の諸特徴が示されうる)。
3、ときにメニエール病様前庭症状の出現(症例による)。この場合、通例、メニエール病との鑑別が困難である。しかし、反対側の耳に陳旧性の高度内耳性難聴が存在することにより診断する。
4、温度眼振検査で良聴側に迷路機能低下を証明しうる。ただし、めまい発作発現例では迷路機能は廃絶していない。
5、めまい発現例では、発作時に水平回旋性の自発眼振が出現、または誘発眼振が証明される。
6、中枢神経症状の欠如。
7、補助検査については同側型遅発性内リンパ水腫に準じ、グリセロールテスト、蝸電図検査も加えて実施する。

また、検査所見からみた診断基準(案)も次のように同様に提示されている。

表3 同側型遅発性内リンパ水腫の検査からみた診断基準(案)

1、純音聴力検査で片耳または両耳が高度感音難聴ないし全聾。
2、温度刺激検査で難聴耳に眼振反応低下を認めうる。しかし、その場合でも迷路機能は廃絶には至っていない。
3、発作時に水平回旋性の自発眼振の出現、ないし誘発眼振の証明。
4、第8脳神経以外の神経症状、ことに中枢神経症状の欠如。
5、そのほか殊に内耳障害の確認のため、適宜、圧刺激検査(内リンパ水腫の証明)、フロセミドテスト、ENG検査などを実施する。
「診断」 1、2の存在で確実。さらに、3、4が認められれば確定。なお、遅発性内リンパ水腫は多くの場合、1耳全聾、他耳聴力正常である。
■治療
薬物による保存的治療が第1選択になる。病態としての内リンパ水腫を軽減させるために、メニエール病の治療に準じた薬物が用いられる。イソソルビドやステロイド剤が用いられるが、薬物治療に抵抗する症例では外科的治療が行われる。同側型症例では、すでに機能が廃絶している迷路を手術するのでその選択を躊躇しないですみ、実際に経外耳道的迷路破壊術がよい成績をあげている。しかし、対側型症例では、良聴耳に外科的侵襲を加えるので慎重でなくてはならない。薬物治療に強く抵抗する場合には、比較的侵襲の少ない内リンパ嚢減荷術が選択されることが多い。

■予後
同側型についてはめまい発作を含む前庭障害が問題になるが、多くは薬物で制御が可能である。しかし、薬物で制御できずに外科的治療でようやく制御可能なものも少なくはない。一方、対側型では良聴耳の聴力変動やその悪化が問題になる。すでに一側耳(原因耳)の高度感音難聴があるので、良聴耳が聴力悪化することは、平衡障害に加え日常生活に大きな影響を及ぼす。そのような観点から見た場合、遅発性内リンパ水腫、特に対側型の予後は決してよいとはいえない。


前庭機能異常に関する調査研究班から
研究成果(pdf 24KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

情報提供者
研究班名 聴覚・平均機能系疾患調査研究班(前庭機能異常)
情報更新日 平成14年6月1日

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