機動戦艦ミネルバ/第二章 選択する時
Z マック・カーサー 「一体これはどういうことなのだ」  マック・カーサーは、憤りを覚えずにはおれなかった。各地の基地の弾薬庫の帳簿 の帳尻がまるで合っていないのである。 「戦艦搭載用対艦ミサイル三百十五万基、高射砲弾丸八千六百万発、核弾頭巡航ミサ イル三十六基……総額にして、トランターの国防予算一年分に匹敵する武器弾薬が行 方不明になっています。記録によりますと、アレックス・ランドール少将の命令で、 第十七艦隊保有分のタルシエン要塞への弾薬移管が実行されて、ラスベシオ軍港弾薬 保管庫に一時格納されたことになっております。しかし当のラスベシオ保管庫はもぬ けの殻というわけでして」 「ランドールめ、謀りよったな」 「しかし、これだけの弾薬をどこへ隠したのでしょうか?」 「ランドールのことだ、どこかに秘密基地でも作っているのではないかな」 「それはどうですかねえ……」 「わからんぞ。タルシエン攻略だって五年以上も前から周到に準備していたというじ ゃないか」 「潜入に使った特殊中空ミサイルの開発と安全性の実験、及び数次にわたる特殊部隊 による実際を想定した予行演習。確か士官学校時代の戦術理論レポートで最初に発表 されたというあれですか」 「まあ、当時の教官は馬鹿げた理論だと一笑に付して及第点を出さなかったそうだ が」 「先見性の鋭さというか、予知能力が備わっているというか……。確かに数年先を見 越した作戦を立てて実行するから、先読みが出来ず今日のことしか頭にない連中にと っては、馬鹿げたことをしているとしか思えないってことはあるでしょうね」 「タルシエンを陥落させて逆侵攻さえできる時に、密かに工作部隊を使ってこつこつ とトランターのどこかに秘密基地を建設し、占領後のレジスタンス活動の拠点を作っ ておく。ランドールならやりかねん。そうは思わないか」 「実際問題として、膨大な弾薬を隠匿してしまったところをみると、有り得ない話し ではありませんね。記録によりますと、第十七艦隊所属第八占領機甲部隊ですが、シ ャイニング基地攻略戦の後、トランター他の主要惑星において補充員の戦闘訓練を実 施、かなりの工作部隊も随伴しております。一方、シャイニング基地の再建資材が申 請調達され、やはりラスベシオ軍港から積み出しされております。その一部を流用し た可能性は否定できないでしょう」 「その機動部隊の指揮官だが……」 「レイチェル・ウィング大佐です。ランドールの副官から情報参謀兼主計科主任を経 て、第八占領機甲部隊司令に着任」 「どういう人物だ」 「ランドールと同じく戦災孤児収容施設育ち、養子に迎えられるも実子の誕生を境と して養母に疎んじられた後に、養子縁組みを解消される。その際幾許かの慰謝料を渡 されたもよう。十二歳の時に初等士官学校へ入隊、さらに中等科、高等科へ進んだ後 に優秀な成績で卒業。旧第十七艦隊二十一補給部隊に配属。同艦隊独立遊撃部隊の司 令としてランドールが任命されたのを機に転属、ランドールの配下となり重臣の一角 を築いてきた……とまあ、こんなところですね」 「性格的な面はどうか」 「主計科主任を兼務して隊員達の生活面を良く指導・監督して、何事にもよく気がつ いて女性的なしとやかさからくる魅力で、男性隊員の注目の的。女性士官からも慕わ れている」 「女なのか?」 「はい。共和国同盟軍はじまっていらい初の女性佐官です。第十七艦隊においては、 女性佐官は全部で七名、司令官の約六分の一を占めています。その筆頭が総参謀長パ トリシア・ウィンザー大佐」 「連邦では考えられないことだな」 「同盟では男女同権の一貫で士官学校から平等に扱われています。もっとも男女比率 がこれほど接近した艦隊は他にはありませんが……平均ではせいぜい五パーセント止 まりですね」 「結局のところとして、トランターに残る反乱軍は、少なくとも一年間は抗争を継続 できるということになるわけじゃないか」 「そういうことになりますが、何より驚異なのは、TNT火薬十五メガトン級核弾頭 巡航ミサイルの存在です。一発で二千平方キロメートルの地上を灰塵に帰することが でき、三十六基あればトランターの各主要都市を廃墟にできる。国際条約で使用が禁 止されている惑星破壊用の反陽子核弾頭に比べれば、破壊力は微々たる旧世紀の代物 ではありますが、現在使用可能な地上破壊兵器では最大級ですからね」 「とはいっても奴等がそれを使用することはありえないだろうが、反乱軍に荷担する 民衆に対しては十分な説得力を持つことになる」 「そうですね。言うことを聞かない奴には核を使うぞと脅しをかけることもできま す」  第二章 了
     
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