あっと! ヴィーナス!!(47)
ハーデース編 partー12 「ああ!」  矢が当たって、一瞬硬直するペルセポネー。  やがて、へなへなと浴槽の縁に倒れ掛かる。 「死んだのか?」  弘美が尋ねる。 「いや、心身が弛緩しているだけだ」 「この後、どうするんだ?」 「無論、冥府へお連れするだけだ」  というと、ディアナが浮遊の神通力を使ってペルセポネーを浮き上がらせた。  そのまま、元来た道を通って旅の扉で冥府に戻った。  ペルセポネーを迎えて、ハーデースが喜んだのも当然だった。  エロースの弓矢のおかげか、ハーデースに寄りそうペルセポネー。 「ご苦労だったな。約束通り、愛君は地上へ返すことにしよう。 「おおそうか!働いただけのことはあるな」 「ただし、気を付けることだ」 「気を付ける?どういうことだ?」 「地上へは元来た道を戻るがよい。ただし、冥界から抜け出すまでの間、決して後 ろを振り返ってはならなぬぞ!」 「振り返るなだと?どういうことだ??」  しばし考え込む弘美。  やがて、日本神話を思い出す。 「まさか、イザナギとイザナミの黄泉の国の物語か?」 「違うな」 「じゃあ、JOJO/ダイヤモンドは砕けないの岸辺露伴編『振り向いてはいけな い小道』の怪、じゃないだろうな。振り向くと魂を持っていかれるっていうやつ」 「竪琴の名手オルペウスと妻エウリュディケーの物語は知ってるか?」 「知らん!」 「ギリシャ神話だよ……ともかく、振り返るなってことだ」  和洋の違いはあれど、冥府に関するタブーというものは共通のものらしい。 「ハーデースの野郎、地上に返すといいながら、その道すがらに罠を仕掛けている んだろな」 「まあ、簡単には返してくれるとは思ってはいなかったけどね」 「わき目も振らず駆け抜けろってことか」 「出口まであと一歩というところでも油断しちゃだめよ」 「出口だと思わせて、実はまだ洞窟の中だったとかだったら、どう判断するんだよ。 牡丹灯籠とかで、朝と思わせて実はまだ夜だったというのがあるのよな」 「そうねえ、幻影くらい朝飯前でしょうね」  ここで考えていてもしようがない。  地上への脱出行は始まった。  ひたすら、ただひたすらに。  再びゾンビや骸骨などのアンデッドモンスターが襲い掛かる。  弘美が王者の剣を振り回して薙ぎ払いながら道を切り開く。 「おい!おまえらも戦えよ」  そういえば、さっきから全く戦闘に参加しない女神だった。 「女神は殺生はしないのだよ」 「殺生っつったって、こいつら死んでるじゃないか!アンデッドだぞ」 「といわれても、女神のしきたりというものがあってだな」 「ヴィーナスはしょうがねえよ。愛と美の女神だからな」  と、ディアナの方を見る弘美。 「どうして私を見るのだ」 「おまえ、確か狩猟の女神でもあったよな。弓矢を射る能力があったはずだ。ペル セポネーを一発で射ったよな」 「すまぬ。弓矢は持ってきていない」 「またエロースに借りればいいじゃないか」 「あれは、愛の弓矢で魔物はもちろん人間も倒せない。使い道が違うのだ」  もはや手立てはない。  走って、走って、出口まで走り続けるだけだ。  やがて、前方に出口の光が見えた。 「出口か!?」 「幻影かも知れんから、気をつけろ!」 「わかった!」  走り続ける一行。  そして、出口を通過して一行が見たものは……。  広大な海だった。 というところで、ポセイドン編に続きます。
     
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