あっと! ヴィーナス!!第二部
第二章 part-10 「呼んだか?」  突如として、天駆ける戦車にヴィーナスが姿を現した。 「危ない!」  重量が偏るように増えたので、戦車が揺れて落ちそうになる。  ディアナが天馬の手綱を操作して、体勢を立て直した。 「危ないじゃないか、ヴィーナス」 「わたしを呼んだだろう?」 「呼んでねえよ」 「いや、確かにわたしの名を呼ぶ声が聞こえたぞ」 「相変わらず地獄耳だな。おまえは」 「神なのに地獄耳とはこれいかに、だな」 「確かに呼んではいないが、名前が挙がったのは確かだ」 「酔っ払って寝込んでたんじゃないのかよ」 「人の口に戸は立てられない、っていう諺があるだろう。たとえ眠っていても耳に入れば 目が覚める」  呆れ返る弘美とディアナ。 「来てしまったのは仕方が無い。邪魔だけはするなよ」 「判っている。もちろん事情はすべて理解している」 「ならいい」  改めて、ラピュタに向けて帆を上げる一行だった。 「天空城な。解説が間違えるなよ」  あ、すいません……天空城です。 「どっちも同じだろうが」  天駆ける戦車は、天空城に向けて一直線に進む。 「ところで、弘美」 「なんだよ」 「女の子らしくしろと、いつも言っているだろう。なんだ、その男の言葉は」 「地の言葉で悪いか」 「悪いわい。その女の子の格好で、喋る言葉じゃない」 「女の子?」  改めて自分の姿を見る弘美。  学校帰りの女子校生の制服姿だった。  学校から直接ファミレスに向かい、着替えてウエイトレスの仕事をして、終了後に再び 制服に着替えて、家に帰る途中に誘拐事件に遭遇したのだった。  大慌てでヴィーナスの元に駆けつけたものの泥酔状態、困ったところにディアナが登場 して、その格好のまま追撃戦に参加していたのである。 「その可愛い女子校生の制服姿が似合う君なら、やはり可愛い声で優しく喋るのが本筋と いうものだろう」 「勝手に女の子に変えておいて、よく言うよ。俺は男なんだぜ」 「違うぞ!」  と、鼻同士がくっつくぐらいに顔を近づけて警告するヴィーナス。 「そもそも、君は女の子として生まれるはずだったんだ。運命管理局のちょっとした手違 いで男の子になってしまったのだ」 「そこは違うな。こいつの酒癖が原因だよ。プロローグを読めば判る」  ヴィーナスを指差しながらディアナが横槍を入れる。 「こほん!」  咳払いをして話を続けるヴィーナス。 「と、とにかく。弘美、あなたは女の子として生きるしかないのです。あなたが一人前の 女の子として生まれ変わるためなら、このヴィーナス全精力を賭けるぞ」 「ことわる!」  拒絶する弘美。  これまで男として生きてきたのだ、神の手違いだとしても、今更として女の子にはなれ ないであろう。  ことあるごとに男に戻せと言うしかない弘美だった。 「さてと……だ」  ディアナが話題を変えるように話し出した。 「アポロンの前に出ても、その男の子言葉でいる気かな?」 「アポロン?」
     
11