あっと! ヴィーナス!!第二部
第一章 part-9
やがてファミレスから二人の後を追うように黒服が出てくる。
「あ、あいつだ」
飛び出そうとするのを、止めるディアナ。
「なぜ止める!」
「言っているだろ。すでに起きてしまった過去に干渉するなと」
「だからって黙って見ているのかよ」
「そうだ。おまえが出て行けば、おまえが二人になるってことだ。これが判るか?」
「う……」
図星をつかれて、しどろもどろになる弘美。
そうこうするうちに、黒服が愛をさらって行く。
「よし、いいだろ」
というと、手のひらを上向きにして何やら呟くと、その上に小さな天使が現れた。
「あの、黒服が抱えている女の子を追いなさい」
「はあい」
かわいい声で返事をすると、ぱたぱたと羽ばたいて黒服を追い始めた。
「エンジェルに尾行させるのか?」
「ああ。あの子は、黒服には見えないからな」
「なるほど」
やがて黒服も小さな天使も空の彼方に消え去った。
「で、これからどうするんだ?」
「なあに大丈夫さ。これがある」
と、スマートフォンを取り出した。
「スマホか?どこに隠し持ってたんだよ」
「秘密のポケットがあるのさ」
「ドラエモンかよ」
「これで天使と連絡を取れる」
「神でも電話するのか?」
「神を馬鹿にするなよ。天上界にはパソコンもインターネット環境も揃っているぞ」
「なんだよ、それ」
「エンジェルもスマホ持ってるのか?」
「彼女には探偵バッチで通話できるぞ」
「少年探偵コナンかよ」
「ついでに天使の位置情報を表示することができるぞ、ほら」
と見せ付けるスマホの画面には、赤い点滅が表示され動いていた。
「眼鏡レーダーじゃないんだな」
「そこまではパクレないわよ」
スマホ画面を見つめる弘美とディアナ。
と、突然スマホから音声が、
「あーあー。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
聞こえた。
「黎明期のラジオ放送か?」
「彼女からの通信だよ」
「あ、そう」
「感度良好だよ。何かあったか?」
スマホに話しかけると、答えが返ってくる。
「今、黒服が大きな雲の塊の中に入っていきます」
「追えるか?」
「任せてください」
通信が途絶えた。
「大きな雲の塊ねえ……」
と空を仰ぐ弘美。
すでに黒服と天使の姿は見えない。
真っ青な空に雲一つ見えない快晴。
なのだが、場違いとも思える巨大な雲塊がゆっくりと流れていた。
「入道雲じゃないな。どうやら、あの雲みたいだ」
ディアナの言葉を受けて、
「もしかしたらラピュタか?中に城があってさ」
弘美が推測する。
「うむ、そうかもな。アポロンの居城があるのかも知れない」
意外にも同調するディアナ。
「どうやって、空の上の雲に行く?」
「大丈夫さ。これがある」
と突然姿を現したのは、ディアナの愛機。
「天駆ける戦車だよ」
古代ギリシャで使われていた、馬が戦車を引くアレだが、ソレは空を飛べる天馬が繋いであった。
「ソレで近づいたら、アポロンに気づかれないか?」
「なあに、アポロンは女以外は興味がないし、全知全能のゼウスの息子だ。たかが一般職の神相手には目もくれないさ」
「一般職ってなんだよ」
「知らないのか?」
「知るかよ」
「アポロンから見れば、わたしはただの時間管理局の局長だし、ヴィーナスは運命管理局の局長だ」
「なるほど。ゼウスが国王とするならば、アポロンは大臣で、ヴィーナス達は各省の政務次官というところか」
「そうなるな」