真奈美の場合/女体改造産婦人科病院III番外編

(二) 「そっかあ……。ほとんど自由にならないんだ。寂しくない?」 (どうだかなあ、寂しいとかという感情は、間脳などの脳細胞の中にあってこそ発動する ものらしい。脳から隔離されている俺には、意識はあっても感情は生まれないみたいだ) 「そうなんだ……」  長い廊下を歩いて待合室へ向かう。週刊誌や童話とかが置いてあるので、病室に持ち帰 って読むためよ。 (おい! 見てみろよ。カウンセリングルームの前に看護婦さんが集まってる) 「ほんとだ。何か、あるのかな」  直人さんの言う通り、カウンセリングルームの側では、看護婦さんが集まって部屋の中 を覗き見している。 「看護婦さん、どうしたのですか?」  声に振り向いて、 「ま、真菜美ちゃん!」  あたしに気づいた看護婦さんが驚いていた。 「ちょ、ちょっと、こっちに来なさい」  むりやり、看護婦にすぐ隣のナースステーションに連れ込まれた。 「な、なんですか?」 「大きな声を出してはだめよ。隣に聞こえちゃうわ」  と、小声であたしの唇に人差し指を軽くあてて制した。  わけがわからず、きょとんとしていると、 「実は、あなたのご両親がみえてるのよ」 「あたしの両親?」  さすがにこれには驚かされた。 「そうか、あたしには両親がいたんだっけ。すっかりそのこと忘れてた。あはは……」 (なに、脳天気なこと言ってんだよ) 「しようがないじゃない。元々あたしの脳じゃないから、真菜美の記憶は、断片的にしか ないのよ。記憶喪失なんだから」 「ちょっと、真菜美ちゃん。二重人格するのはいいけど、ご両親のことどうするの?」  あたしが独り言を言っているのを聞きつけて、看護婦さんが心配して聞いていた。先生 から、あたしが二重人格で、真菜美としての記憶を失っていることを知らされているから。 「うーん。そう言われても……どうしたらいいか、わかんない」 「そうよねえ。記憶がないんだものね」 「それさえなければ退院できるのにね」 「でもご両親がいらっしゃる以上、家に帰らないといけないし、学校もあるわよねえ」 「しーっ。聞こえないわよ」  ディスプレイを見つめていた看護婦さんが、口元に指をたてて騒がないように注意した。 「な、なに?」 「監視モニターよ。カウンセリングルームをモニターしてるのよ」  小声で話し掛けるところをみると、いけないことをしている感じね。そもそも看護婦っ て、当直があったりしてとっても忙しいらしいけど……。  そういえば先生のもう一つの顔である製薬会社の新薬の臨床実験を、この病院では盛ん に実施しているから、そのために医者も看護婦も十分すぎるくらいいるみたい。乳癌・子 宮癌の治療では、最先端にあるそうよ。 「真菜美ちゃん、こっちにきなさい」  と、モニターのすぐ前に引っ張りだされた。  モニターから部屋の中での会話が聞こえてくる。
     
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