響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(二十四)縁談 「それから響子さんには、会わせたい方がもう一人いらっしゃるの」 「会わせたい?」 「秀治さんお連れしてください」 「わかりました」  秀治は、隣室の応接室に入っていった。  そして連れて出て来たのは、 「お、おじいちゃん!」  わたしの祖父だった。  祖父の娘でありわたしの母親を殺したという後ろめたさと、女になってしまったと いう理由で、仮出所以来も会う事ができなかった。 「ひろし……いや、響子。苦労したんだね」 「おじいちゃんは、わたしを許してくれるの?」 「許すもなにも、おまえはお母さんを殺しちゃいない。覚醒剤の魔手から救い出した んだよ。あのまま放置していれば、生前贈与した財産のすべてを吸い尽くされたあげ くに、売春婦として放り出されただろう。それが奴等のやり方なんだ。いずれ身も心 も廃人となって命を果てただろう。おまえは命を絶って、心を救ったんだ。お母さん は、死ぬ間際になって、母親としての自覚を取り戻せたんだ。おまえを恨むことなく、 母親としての威厳をもって逝ったんだ。もう一度言おう。おまえに罪はない」  母親の最後の言葉を思い出した。  ご・め・ん・ね  ……だった。  助けて、とは言わなかった。  殺されると知りながらも、覚醒剤から逃れるために敢えて、その身を委ねたのだ。 息子に殺されるなら本望だと、母親としての最後の決断だったのだ。 「おじいちゃん……。そう言ってくれるのは有り難いけど……。わたし、もうおじい ちゃんの孫じゃないの。見ての通りのこんな身体だし、たとえ子供を産む事ができて も、おじいちゃんの血を引いた子供じゃないの」 「倉本さんのお話しを聞いていなかったのかい? 臍の緒で繋がる。いい話しじゃな いか。おまえは儂の孫だ。間違いない。その孫から臍の緒で繋がって生まれてくる子 供なら、儂の曾孫に違いないじゃないか。そうだろ?」 「それは、そうだけど……」 「おまえが女になったのは、生きて行くためには仕方がなかったんだろう? 儂がも っと真剣におまえを弁護していれば、少年刑務所になんかやることもなかったんだ。 女にされることもなかった。娘が死んだことで動揺していたんだ、しかも殺したのが 息子と言うじゃないか。儂は、息子がどんな思いで母親を手にかけたのか思いやる情 けもなく、ただ世間体というものだけに縛られていた。弁護に動けなかった。おまえ が少年刑務所に送られてしばらくしてからだった。本当の殺害の動機が判ったのはな。 おまえの気持ちも理解できずに世間体しか考えなかった儂は……。儂は、親として失 格だ。許してくれ、ひろし!」  そう言うと、祖父は突然土下座した。  涙を流して身体を震わせていた。 「おじいちゃんは、悪くないわ」  わたしは駆け寄って、祖父にすがりついた。 「済まない。おまえを女にしてしまったのは、すべて儂の責任なんじゃ……」  もうぽろぽろ涙流していた。 「そんなことない、そんなこと……」  わたしも泣いていた。 「わたし、女になった事後悔してないよ。秀治という旦那様に愛されて幸せだったよ。 わたしは、身も心も女になっているの。だからおじいちゃんが悲観することは、何も ないのよ」 「そうだよ。おじいさんは、悪くはないよ」  秀治が跪き、祖父の肩に手を置いて言った。 「女にしたのが悪いというなら、この俺が一番悪いんだ。刑務所で、ひろしを襲わせ るように扇動したんだからな。しかし、俺は女らしくなったひろしに惚れてしまった。 女性ホルモンを飲ませ、性転換させてしまったのも全部俺のせいだ。もちろん俺はそ の責任は取るつもりだ。生涯を掛けて、この生まれ変わった響子を守り続ける。そう 誓い合ったから死の底から這いあがってきた。別人になっても俺の気持ちは変わらな い。な、そうだろ? 響子」
     
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