看護婦?物語

 新人看護婦 (1)  ここは川越市にある、とある総合病院のナースステーション。  看護師達が集まってのミーティングの時間である。  折りしも新人看護師の紹介が行われていた。 「今日から新しく仲間入りする美樹本由紀さんです」 「美樹本です。よろしくお願いします」  看護師長から紹介されぺこりと頭を下げる新人看護師の美樹本由紀。  真新しい看護師の制服が良く似合っている。  制服と言っても、いわゆるナース服と呼ばれるものではない。  この病院の看護師の制服は、パンタロンスーツにエプロンドレスという姿である。  今時の病院では純粋なナース服を採用しているところは少なくなっているようだ。  胸元には看護師・美樹本由紀と記された名札を付け、緊急連絡用の院内携帯電話を腰に 下げている。もちろん治療機器には支障をきたさない微弱電力の特殊な携帯である。 「美樹本さんには、斎川さんについてもらって、この病院での仕事のあり方を身に付けて 頂きます。斎川さん、よろしくね」 「はい、わかりました。美樹本さん、よろしくね。斎川明子です」 「よろしくお願いします。斎川さん」  それから看護師達の簡単な自己紹介があって、仕事の打ち合わせに入った。  まずは各自が受け持っている患者達の昨日の時点での症状や容態、今日の診療予定の確 認など。  打ち合わせが済めば、早速朝一番の病室周りである。  体温や血圧・脈拍の測定や、昨日のお小水と便の回数、体調の具合などを尋ねてゆくの である。  寝起きの朝は基礎代謝量に近くて、測定には都合が良い。 「おはようございます、深川さん。検温お願いします」 「ああ、おはよう」  斎川が手渡した体温計を受け取って脇に差し入れる深川。 「昨夜はぐっすり眠れましたか?」 「いやあ、だめだったよ。目が冴えてしまってね。逆に昼間惰眠しているせいかも知れな いけど……。やっぱり夜に眠るほうが自然なのだろうけどね。睡眠薬は無理だろうし… …」 「睡眠導入剤が使えないか、先生に聞いてみましょうか?」 「いや、いいよ。眠れないからといって支障をきたすわけじゃない。働いているわけでな し、入院生活だからね」  この患者は肝硬変にかかって大半の肝臓を切除していた。  解毒に関わる肝臓だけに、薬の処方を間違えるととんでもないことになるのである。  役に立つ薬とて、肝臓が適時に解毒することによって、効能を発揮できるのであるが、 その解毒作用が消失すれば、薬が永久に効き続けるということになる。睡眠薬によって眠 り姫になってしまうこともあり得る。  脇に差し入れた体温計がピピッと鳴った。 「鳴りましたね。体温計を」  深川は体温計を取り出して斎川に手渡しながら、 「三十六度五分。平熱だね」 「はい。結構です」  体温計を受け取りカルテに記帳する斎川。 「昨日のお小水の数は何回ですか?」 「五回だったかな。うんちは二回だ」 「お小水が五回で、便が二回ですね」 「ああ」 「それでは血圧を測ります」  深川氏の腕に血圧計のカフと呼ばれる袋状のベルトを巻きつけて上腕動脈の血圧を測る。 その際に、肘関節屈側中央(動脈部分)に聴診器を差し込んで、カフに圧力を掛けてコロ トコフ音を確認する。最初に聞こえる脈動音がコロトコフ音第一相で、この時の血圧計の 目盛り値が最高血圧であり、カフの圧力を下げてコロトコフ音が聞こえなくなった時が最 低血圧となる。 「血圧も正常です」
     
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