(四)同僚と共に

 深夜の街中を走り抜けるバイク。
 警察官とどうみても女性にしか見えない警察官の二人乗り。
 やがてとあるアパートの前に停車する。
「僕のアパートさ」
 自分の部屋へと案内する。
 誰かに見られないだろうかと、緊張しているようだった。
 二階の1DKの一室。
 それが同僚の住まいだった。
「狭いけどさ。我慢してくれないか」
 と言いながら押入れを開けて、布団を取り出して敷いていく。
 時間的に一般市民はぐっすり就寝中である。
「今日はここに泊まっていってくれ。明日、どうするか一緒に考えよう」
 わたしの記憶がないということで、同僚としては最良の判断をしたのであろう。
「じゃあ、僕は勤務があるから戻るね」
 そう言うと、わたしを残して外へ出て行った。
 ドアの鍵を掛ける音、階段を降りる足音、そしてバイクのエンジン音。
 やがて静かになった。
 これから同僚は、どうするつもりだろうか。
 どう考えても……、警察官の失踪という事実は間違いないことである。
 しかもそばにいた女性を匿うように自分のアパートに連れて来た。
 本署に連絡するには違いないが、おそらくわたしのことは伏せておくのではないだ
ろうか。

 そしてわたし自身のことである。
 もはや以前の警察官として生きることはできない。
 この女性の身体をして、生涯を女性として過ごすしかないのだろうか?
 元に戻る可能性は?

 いくら考えようとしても先が見えなかった。
 取りあえずは夜が明けたら、同僚が出かけに言ったように二人で考えるしかないよ
うだ。
 着ていた制服を脱ぎ、裸のままで、同僚が敷いてくれた布団に潜り込む。
 目が冴え切っていてとても眠れたものではなかったが、せめて横になっていれば多
少は身体の疲れくらいは取れるだろうと思った。
 外の明かりに照らされて薄暗い部屋が微かに浮かび上がっている。
 目が暗がりに慣れるに従って天井の染みまでもが見えてくる。
 これからどうなるのかな……。
 もしかしたら、同僚とずっと二人で暮らしていくことになるのではないだろうか。
 同僚がやさしい性格で困った人を見れば手を貸さないではいられないことは良く知
っている。
 そして記憶喪失の女性を匿ってしまった。
 おそらく記憶が戻るまではここに住まわせるつもりではないだろうか。
     
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