第十二章・追撃戦
V  軽巡洋艦スヴェトラーナ艦橋。  正面スクリーンに、サラマンダーが円盤部を切り離している姿が映されていた。 「あれは、どうしたことでしょうか? サラマンダーが分離しようとしています」 「内部に火災でも発生して、爆発炎上する前に切り離したのか? そういえば、円盤部は居住区とか言っていたな」 「円盤部を攻撃しますか?」 「いや、非戦闘員は攻撃しないと約束したからな。本体を先に攻撃しなけりゃ隙を与えるだけだ」 「しかし、ちょこまかと動き回って中々止めを刺すことができません。すでにグロムイコとオサトチフは限界です」  予知能力(プレコグニション)を持っているヴァレンチナ・グロムイコ、そして遠隔念動力(テレキネシス)でワープしているチムール・オサトチフのことを言っているのでろう。量子乱数自動制御に対抗して、予知能力で次の行動を読み、遠隔念動力でワープしていたのである。しかし精神力をかなり消耗するようだ。 「私がテレパスなので回避行動を読み取れないようにしているのだろう。今度は、後方に回って攻撃しよう。済まないが、二人とも頼むよ。これで最後にする」 「了解しました」  疲れ切って息苦しい声ながらも応えるグロムイコとオサトチフ。  予知能力での敵艦の予想位置に対して、背後を取れる位置に能力ジャンプする。  ジャンプアウトした空域には、予想通りにサラマンダーが艦尾を見せていた。 「よし! 背後を取ったぞ!」 「ちょっと待ってください。あれを見てください!」  と副官がスクリーンを指さした先には、サラマンダーの三連装レールガンの砲口がこちらを狙っている姿があった。 「なんだあれは?」  次の瞬間、レールガンが火を噴いた。  と同時に、激しく振動する艦体。 「どこをやられたか?」 「機関部です! 直撃!」 「機関部に火災発生!」 「機関停止しました。電源喪失! 全砲塔使用不能です!」  そして照明と全機器がブラックアウトした。 「補助電源に切り替えろ」  照明が再び点いたが、乗員の表情は暗かった。  機関部をやられては、ただ漂流するだけで敵艦の餌食となるだけだった。 「随伴の艦隊は?」 「攻撃を受けています」  サラマンダーは、行動不能となったスヴェトラーナへの攻撃を一時停止して、随伴艦を攻撃していた。  能力ジャンプのできない通常の戦列艦には、サラマンダーの相手にはならなかった。  伝家の宝刀であるランドール戦法で縦横無尽に動き回って翻弄していた。  ものの数十分でそれらを完全に無力化に成功したのであった。 「友軍、全艦行動不能に陥りました」 「行動不能? 撃沈は?」 「一隻もありません。すべて機関部直撃で起動停止にされたもよう」 「命は奪わない……か」  ゆっくりとスヴェトラーナに艦首を向けるサラマンダー。  そして停止した。 「原子レーザー砲がこちらを狙っています」 「止めを刺すつもりか?」 「サラマンダーより入電」 「繋げ」 「繋ぎます」  通信用スクリーンに映し出されるトゥイガー少佐。 「隠し玉を持っていたとはな。恐れ入ったよ」 『奥の手は、最後の最後まで取っておくものですよ』 「で、どうすればいいか」 『まずは全艦に投降の指示を出してください』 「分かった、降伏しよう」  副官に目で合図して、全艦に連絡を入れさせた。 『惑星アグルイスの衛星軌道に乗れますか? このままではどこへ流されるか分かりませんからね』 「大丈夫だ。それくらいはできる」 『護送艦を呼んでおります。到着次第、移乗してもらいます』 「それで君たちの本星に連行するのか?」 『いえ、最も近いあなた方の星に送りますよ。我々には捕虜を収容できるだけの余裕がありませんから』 「それで、アルビオンを救助するために、惑星に降下するのだな」 『そういうことです』 「そうか……頑張りな」
     
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