第十章・漁夫の利
Ⅱ  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉  艦長   =マイケル・ヤンセンス大尉  レーダー手=フェリシア・ヨハンソン  副司令官 =ダグラス・ニックス大尉  副官   =ジェイク・コーベット准尉  前進基地クラスノダールに展開するサラマンダー艦隊。  司令室でお茶を啜りながら、モニターに映されている惑星を見つめているトゥイ ガー少佐。 「本国より連絡がありました」  副官のジェレミー・ジョンソン准尉が報告する。 「それで?」 『この惑星は、我々の前進基地として活用する。基地建設及び資源開発センターを 建設する。艦隊は、当面の間基地の防衛に当たるべし』 「ということでした」 「まあ、そうなるだろうな」 「開拓移民船が一隻、こちらに回航されるそうです」 「護衛は付いているのだろうな?」 「付いてないみたいですね」 「馬鹿な! ここいらの制空権はまだ確保していないんだぞ。ミュー族とかが襲っ てきたらどうする?」  戦術において、補給路を断つことは常套手段である。惑星開拓に必要な設備と艦 隊の補給物資を積んだ開拓移民船を襲撃することは十分ありうる。 「仕方がない、私が迎えに行くとしよう。サラマンダー発進準備だ」  随行艦として、艦長ハーゲン・ネッツァー大尉の戦艦ビスマルク号、艦長ジェ ラール・プルヴェ大尉の装甲巡洋艦フィルギア号が共に出発した。 「敵艦隊が戻ってきたら、どうしたら良いですか?」  居残りの艦隊を指揮する副指揮官、戦艦セント・ビンセント号艦長ダグラス・ニ ックス大尉が質問した。 「この惑星を死守する必要はない。やばいと思ったら、潔く撤退しても構わない」 「分かりました」  クラスノダールを離れてゆくサラマンダー以下の三隻。  それを見送りながら、惑星クラスノダール地表の探査を続けるニックス大尉。  基地は爆破されたが、まだ破壊されずに残っている施設があるかも知れない。  それを利用すれば、ゼロから建設するよりも工期はかなり短縮できる。  地中レーダー探査機を使って、地中に埋まっている埋設物や空洞を調査する。 「使えそうな施設が結構残っていそうですよ」  副官のジェイク・コーベット准尉が報告する。 「慌てて撤退したから、十分な爆薬を設置できなかったようだ」 「本格的調査にして人員を降ろしますか?」 「いや、敵さんが舞い戻ってくるのを警戒して、いつでも撤退できるように準備し ておくのだ」 「なるほど……惑星を防衛するだけの戦力はないということですか」 「主戦力のサラマンダーがいないからな」 「ならば、全艦で移民船をお出迎えでもよかったのでは?」 「来るか来ないか分からないし、来れば戦力分析をしてから撤退して合流するし、 来なければ良しでエネルギーを無駄にせずに済む」 「奪還は、サラマンダーの原子レーザー砲があれば容易いですものね」 「前方に感あり!」  レーダー手のフェリシアが警告を出した。 「先ほどのアルビオン共和国軍の艦隊です」 「何しに戻ってきた?」  疑心暗鬼の一同だった。 「警戒しろ! 通信回線を開け!」 「相手艦の応答ありません」  無言のまま接近するアルビオン艦隊。  そして射程距離内に入った時だった。 「撃ってきました!」 「迎撃せよ! 迎撃しつつ後退!」  不意打ちを喰らっても、冷静に判断を下すニックス大尉。  トゥイガー少佐の指示に従って、躊躇なく後退しはじめた。 「どうやらサラマンダーが離れたのを好機とみて、惑星を奪還するつもりだな」 「奴らは、我々が侵略して惑星を奪い取った! とかいう風な言い方をして返還要 求してましたからね」 「再度の奪還はサラマンダーと合流してからでいいだろう」  粛々として、惑星を放棄して撤退の道を選んだニックス大尉だった。
     
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