第八章・ミュータント族との接触
Ⅲ  基地司令官=イヴァン・ソルヤノフ  副官   =フリストフォル・イグルノフ  ミュータント族前進基地クラスノダール。  ペトロパブロフスク艦隊から、未知の艦隊との遭遇戦となったという報告を最後 に連絡が途絶えたの受けて、基地司令官のイヴァン・ソルヤノフは選択を迫られて いた。  基地に駐留する艦艇の三分の二の三十二隻が殲滅させられたのは確かだろうから、 残る三分の一で防衛するのは不可能に近い。 「増援を要請して到着するまで死守するか、潔く後方基地へ撤退するかの二者選択 だな」 「後方司令部の言う事は分かりますよ。『基地は死守しろ!』です」 「まあ、そうだろうな」 「ともかく基地の防衛システムを厳戒態勢に引き上げます」 「駐留艦隊全艦にも、戦闘配備で待機させろ!」  基地内に警報音が鳴り響き、それぞれの担当部署へと駆け回る隊員達。  地上に駐留していた艦船も、宇宙へと舞い上がって、接近しつつある未知の艦隊 に対処すべく戦闘配備に着いた。 「私も宙(そら)に上がる!」  ソルヤノフ司令官の旗艦である戦列艦アレクサンドル・ネフスキー号に搭乗する。  宇宙に上がった司令官は、会議室に早速参謀達を緊急招集した。 「我々が対するべき未知の艦隊は、三十二隻の味方を全滅させた相手だ。どうあが いても勝てる相手ではないだろう」  率直に戦力分析を伝えるソルヤノフ。  その一言で、緊張の度合いを上げる参謀達。 「勝てないにしても、相手の戦力を削ぐことは重要でしょう。いずれ奴らは、後方 の基地にまで進軍するに決まっている」  そこへ従者が入ってくる。 「先ほど、迎撃艦隊からの通信カプセルが届きました」 「通信カプセル?」 「戦闘記録が入っているかもしれん。データを再生してくれないか」 「かしこまりました」  従者は、カプセルからデータディスクを取り出して、会議場の隅にある端末に差 し込んで再生してみせた。  スクリーンに、迎撃艦隊が遭遇した未知の艦隊との戦闘が再生された。  映像は、艦内音声映像と外部モニターの二画面構成となっており、戦況が手に取 るように分かるようになっている。  近づく未知の艦隊に対して、T字戦法を取る迎撃艦隊。 「敵の艦を拡大投影してみてくれないか」 「はい。ただいま……」  従者が言われた通りに、敵艦をクローズアップしてみせる。  今まで見たことのない艦影が映し出されていた。 「あの艦隊は見たことがないですね。銀河人のものではなさそうです」 「ということはやはり、噂に聞く天の川人か?」 「可能性が出てきました」  全員、未知の艦隊の動きに釘付けだった。 「敵の動きをよく見ておくんだぞ。味方を殲滅させた攻撃がどんなものか」 「あれは!」  一同が凝視する。  敵の一隻の艦首が輝き始めたと同時に、艦内が真っ白になったのだ。 「今のはなんだ?」  艦内モニターには、衝撃で倒れている乗員、驚愕の表情を見せる乗員達が映って いる。  声高の音声が続く。 『艦尾第一エンジン噴射口被弾! 戦闘速度七割低下します』 『ノルド=アードレル轟沈!』 『トヴョールドィイ航行不能です』 『イオアン=クレスチーテリ大破』 『敵艦は、ほとんど無傷です』 『味方艦は?』 『このペトロパブロフスク一隻だけです』  そして一方的な攻撃を受けて全滅したようだった。  場内の参謀達は、しばらく無言が続いていた。 「あの光の攻撃はなんだったんだろうか?」 「どうやら何らかのエネルギー兵器かと思いますが……」 「エネルギー兵器か、それも一撃で撃沈させることのできるな」 「このまま戦っても無駄死にするだけです」 「後方に、この映像とともに撤退の意見具申するとするか」
     
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