第八章・ミュー族との接触
Ⅱ  司令官  =ウォーレス・トゥイガー少佐  副官   =ジェレミー・ジョンソン准尉  言語学者 =クリスティン・ラザフォード(英♀)  医者   =ゼバスティアン・ハニッシュ(独♂)  サラマンダー艦橋。  指揮席に座って、お茶を啜っているトゥイガー少佐。 「目標地、探索予定惑星に設定完了しました」 「よろしい」  設定コースは、襲い掛かってきた敵艦隊が出現した方角であり、恒星の重力の影響などを考慮して巡行速度を取れば、ほぼ彼らが進撃してきたコースと重なるようだった。  目的地は、敵の勢力下にあることは明白だった。  これまでの経緯から、我々が接近すれば、全力を上げて排除しようと挑んでくるだろう。  さりとて、こちらも引き下がるわけにはいかない。  本国は、すでに飽和状態であり、さらなる植民星を探さなければならないのだ。  目的地がすでに人が住んでいる惑星ならば、移民交渉をして居住許可を申請すればよい。  まだ開拓途中であれば、共同で開拓して土地の割譲を受けることもできるだろう。  ともかく相手と交渉することだ。  それでもだめなら……本国が決めることだ。 「例の彼女が目を覚ましました」  医務室に様子を見に行っていた副官のジョンソン准尉が戻ってきた。 「私も見に行ってみよう。後を頼む」  ジョンソンに代わって医務室へとやってきたトゥイガー。  診察室では、言語学者のクリスティン・ラザフォードが、治療が終わった彼女から話を聞くために対応をしている。  ガラス窓から診察室の見える控室で、隣に並んだ医師に質問する。 「容体はどうですか?」  言葉を選びかねたのか、少し考えてから応えるハニッシュ医師。 「見た目は健康のようですが……」 「どういうことですか?」  トゥイガーが聞き返す。 「彼女は盲目です」 「目が見えないのか? 電子義眼とかで、治せるかな?」 「無理ですね。生まれつきの盲目ですので、映像を認識する脳の後頭葉にある視覚野が未発達ですから」 「つまり目には見えていても、脳が認識しないということだな」 「その通りです」  フィルム式カメラに例えて簡単に説明すると、レンズを通した映像はフィルムを感光させるが、現像・定着などの処理を施して印画紙に転写しなければ、写真を見ることはできない。  現像以下の能力が発達していないから、見るという認識ができないのである。  これに対して眼の異常による中途失明者などの場合は、視神経や視覚野は十分発達しているので、CMOSセンサー内臓の電子義眼から視神経などに電流を流すことで、映像を認識することができるようになる。  ドクターの話は続く。 「それだけでなく、彼女は人類の変異体のようなのです」 「変異体?」 「そうです。DNAを調べますと、地球人類にかなり近いですが、各所に欠損や転移が起こっています」 「どういうことだ?」 「結論を言いますと、彼女は我々と同じ地球人類の末裔です。何らかの事情で遺伝子の変異が起きたのでしょう」 「地球人類なのか?」 「ゲノム解析から、おそらく一万年もの間、遺伝子の変異を繰り返してきたと思われます」 「一万年前の地球人? 新石器時代に宇宙航海が出来たというのか?」 「逆に、彼女の星の人々が、地球人類の祖先ということもありますよ」 「どういうことだ?」  と再び尋ねる少佐。 「元々、彼らのDNAが最初で、一万年を掛けて生存に不適格な遺伝子を排除していった結果が、我々地球人類ということです。考えられないことではありません」 「彼らが宇宙に出て、長い航海の果てに地球に到達して、人類の祖先となった? どちらにしろ、彼らと我々の祖先がどこかで繋がっている?」 「可能性はゼロではありませんね」  憶測でしかないが、あらゆる可能性を考えてみる医者だった。  好戦国に関する手がかりは、彼女だけなのである。 「彼らは、捕虜になることは恥だと思って徹底抗戦しているのかも知れないが、彼女だけが脱出したのは何故だろうな? 女性だからという理由ではなさそうだが」 「単に女性だということじゃなくて、何か重要な任務を与えられていると思われます」 「任務か……ともかく尋問を始めようか」  中へ入ろうとする少佐を医者が制止する。 「お待ちください。彼女はかなり怯えていて、今尋問を始めるのは苦痛を与えるだけで、まともな話をしてくれる状態ではありません。ここはクリスティンに任せましょう」 「そうか……。同じ女性で言語が通じる彼女が適任というわけか。いいだろう、任せよう」
     
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