第七章・会戦
Ⅳ  時間を少し遡って、会戦前に戻る。  P-300VXから敵艦隊の発見が伝えられた。 「敵艦隊は、こちらには気づいていないようです」 「戦闘配備だ」  テキパキと指令が伝達されて、すべての兵器要員が配置に着いた。 「戦闘配備完了しました」 「VXより敵艦の座標位置が送られてきました」 「戦術コンピューターに入力!」 「敵艦隊が移動を始めました」 「やっと気づいたか。しかし、VXは気づかれていないようだな。電波が通じるかは分からんが、念のために全周波で友好信号を打電してみろ」  通信士のモニカ・ルディーン少尉に命じる。 「了解しました」  電離した水素イオンなどによる通信障害があるが、有視界にまで接近すれば通じるかもしれない。 「駄目です。受信している兆候はありますが、応答なしです」 「敵艦の全砲塔がこちらに転回しています」 「問答無用ということか……仕方あるまい、原子レーザー砲で機先を制する」  下令以下、原子レーザー砲の発射手順が始められた。 「しかし彼らは、どうして交信を拒絶するのだろうか。言語が分からなくても、分からないなりに手立てはあると思うのだが」 「そうですね。戦闘になれば、死傷者も出るだろうし、避けられるものなら交信を受けるのが筋でしょうけど……」  相手が交信を拒絶している以上、戦闘は不可避だった。 「原子レーザー砲、発射準備完了しました」  砲手が報告によって、戦端が開かれることとなった。 「撃て!」  眩い光の軌跡が敵艦へと一直線に向かう。  そして一隻を撃沈させた。  その衝撃と残骸が近接する友邦艦にも被害を与えている。 「さて、敵はどう反応するかな?」 「射程はこちらの方が長いようです。断然有利ですね」 「ワープ準備だ」  トゥイガー少佐はランドール戦法をやるつもりのようだ。 「こんな所で小ワープするのですか?」 「驚かせてやろうじゃないか」 「分かりました。小ワープ準備!」  ワープ準備に入った途端に、敵艦隊の砲弾が襲い掛かった。  近接信管が始動して炸裂するその寸前。 「ワープ!」  空間から消え去る艦隊。  次の瞬間、艦隊は敵の只中に出現していた。 「舷側にある砲台を叩きまくれ!」  敵は舷側に砲台を並べた戦列艦であるから、まずは破壊してしまうのはセオリーだろう。  相手が右往左往している間に、素早く打ち砕いてゆく。  砲台をほぼ沈黙させたところで、次の指令が下される。 「艦を並走させろ。これだけ近ければ撃てないはずだ」 「こちらからも撃てませんが?」 「もう一度、交信してみろ。これだけ近ければ通じないはずはない」  機器を操作して、全周波で交信を試みるモニカ通信士。 「だめです。応答なし」 「やはり聞く耳は持たぬか……」  しばらく並走を続けていたが、 「仕方がない、攻撃を再開する。離艦して攻撃可能位置まで下がる」  速度を落として、敵艦隊の後方に退いていく。 「敵艦隊、回頭を始めました」 「そのまま速度を上げて逃走するかなと思ったのだが……」 「最期の一隻が撃沈するまでやる気ですよ」 「しかし、一体どうして交渉する気が一切ないのかな。折角交渉できる場を設けたのにな」 「もうどうでもいいですよ。敵が撃ってきますよ」 「そうだな。攻撃開始だ!」  気が乗らないが、相手がやる気ならこちらも応じるしかない。  数時間後、戦闘は終わっていた。 「旗艦らしき艦が、何とか生き残っています」  砲台と動力部を破壊されて、攻撃手段と移動能力を失って漂流する旗艦。 「乗り込んで指揮官を捕虜にできないかな」 「無理ですよ。これまでの情勢から、奴ら自爆するのは目に見えてます」 「やはり、そう思うか?」  果せるかな、数分後に旗艦は自爆した。 「悲しいな……」
     
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