第六章・会敵
Ⅱ  双方の艦隊が遭遇するのは、中間地点にあるR135a2星であった。  一歩先にたどり着いたのは、トゥイガー少佐の艦隊だった。 「恒星に近づきすぎないように、二千デリミタが限界だ」 「了解」  太陽系冥王星の軌道半径が四十デリミタであるから、かなり離れていると思われる が、これで十分危険地帯なのである。恒星からの強烈なエネルギーから艦体温度を何 とか保っていられる距離となっている。 「重力加速度計に反応!」 「敵艦隊発見!」  恒星から強烈な紫外線が飛んでくるので、通常の電磁波によるレーダーは役に立 たない。無論肉眼視なども不可能だ。 「敵は単縦陣で突き進んできます」 「よし、両翼に展開して、包囲陣を敷け!」  一方のメレディス中佐の艦隊も気づいていた。 「敵艦隊は、両翼に展開して包囲陣を敷くつもりです」 「想定通りだな。作戦通りに二列縦隊に組みなおしながら突進せよ!」  単縦陣を敷いていた艦隊が二つに割れるようにして二列縦隊へと組み替えながら 突進する。  地球古代史に残る『トラファルガーの海戦』で、ホレーショ・ネルソン提督がフ ランス・スペイン連合艦隊を打ち破った作戦、ネルソン・タッチ戦法に近い。その 名前からネルソンが考案したと勘違いするが、それ以前から行われていた。 「信号手、光信号で各艦に打電せよ。『各員がその義務を尽くすことを期待する』 だ!」  当然前方にいる艦は集中砲火を浴びることになるが、中央を突き崩しさえすれば、 敵艦の横っ腹を狙い撃ちできて形勢逆転できる。  ほとんど一か八かの戦法であり、砲撃手の熟練度が物を言う。 「残弾数は気にするな! 撃って撃って撃ちまくれ!」  突然、激しく震動する艦橋。  模擬弾が当たれば、システムが当たり判定を行って、被害想定を弾き出して艦へ の影響をシュミレーションする。 「機関室に被弾、火災発生!」 「直ちに消火班を急行させろ!」  艦内通路を消火器などを持った隊員が駆け回る。  被害想定区域の機関室では、火災を想定した3DCGホログラムが映し出され、 炎上する機関室を再現していた。 「消火急げ!」  到着した消火班が、消火剤を放出する格好をする。そのホースの先からレーザー ポインタが出ており、効果ポイントに当てられればCG炎は鎮火していく。 「機関室、消火完了!」  隊長が艦橋に報告する。 「了解。消火班は弾薬庫へ移動せよ」 「弾薬庫へ移動します」  消火班が弾薬庫にたどり着いたとき、隔壁扉は固く閉じられていた。 「弾薬庫暴発しました! 消火不能です!」 「仕方あるまい。指揮権を副司令のオリヴァー・フレッカー少佐に委ねる。総員退 艦せよ!」 『当艦は撃沈されました。戦線を離脱します』  コンピューターが自動操船して、ゆっくり離れてゆく。  退艦は手続き上だけで実際には行われない。乗員が救命艇に乗り込むまでで終了 する。シールドの脆弱な小型艇では、恒星風に耐えられないからである。 「指揮権を引き継ぐ! 全速前進、進路そのまま!」  後方に続いていたオリヴァー・フレッカー少佐が下令する。  前方にいた艦がいなくなったので、今度はこちらが集中砲を受けることになる。  何とか切り抜けて、敵陣の中央を切り崩す。 「中央突破に成功しました!」 「よおし、後背に回り込め!」  右側に進んでいた列の艦隊は右転回し、左列は左展開して、立場を逆転して包囲 陣を敷いた。 「今度はこちらの番だ! 全艦砲撃開始!」  それまでの鬱憤(うっぷん)をはらすような猛烈な攻撃を開始するメレディス艦 隊。 「中央を突破されました! 展開しつつ後背に回り込もうとしています」 「敵艦に向けて回頭せよ!」  中央突破はされても、戦況が不利になったのではない。  双方が向き合って、激しい砲撃戦となっていた。  模擬戦闘終了の時刻となり、戦闘終了を知らせる発光信号が打ち上げられる。 「終了だ。全艦、戦闘停止せよ!」  双方ともが戦闘を停止して、基地へと帰還の途についた。  すぐさま士官達が集まって、戦闘講評会が行われる。  戦果は、メレディス艦隊が撃沈五隻・大破七隻・中破二隻他、トゥイガー艦隊は 撃沈六隻・大破五隻・中破三隻他。  双方の損害を計算して、ほぼ互角という判断が下された。 「お疲れさまでした」  一同が労いの言葉を投げかけ講評会は終了した。
     
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