第五章・それぞれの新天地
Ⅴ
時計回りと反時計回りに、惑星探査及び開発を進める銀河人とミュー族に対して、
植人種は中央に向かって進めていた。
両国家に挟まれる格好になることによって、さまざまな干渉を受けることとなっ
た。
しかし植人種の惑星が直接占領されることはなかった。
冬虫夏草を引き起こす胞子が大気中に充満しているため、宇宙空間からの攻撃は
受けても、降下作戦までは行われなかった。
かつて降下作戦を行った部隊が、冬虫夏草状態になってほぼ全滅した経緯を持っ
て、手出ししないようになったのである
「銀河人の星が、生物兵器『冬虫夏草』によって滅亡したようです」
「滅亡した?」
「その件に関して、銀河人から抗議されております」
「なぜだ? 我々とどんな関係がある。我々の星に降り立たない限り、冬虫夏草に
なることはないだろうが」
「以前我が星を占領にきたミュー族の艦隊がありましたよね。結局彼らのほとんど
が冬虫夏草に侵されてしまったらしいですが……。もしかしたら、その時に胞子を
採集していったのではないでしょうか。そして生物兵器を作り上げたのかも」
「ふむ。ありうるな」
「とりあえずその旨を伝えておきましょう」
「我々は平和的な民族なのだがな。他国の居住惑星を襲ったことは一度もない。
我々が生物兵器を使うはずがなかろう」
「しかし彼らにとっては、冬虫夏草=植人種という概念で固まっていますからね」
「抗議に対する抗議を返しておくか」
「理解してくれればいいですけどね」
「考えても仕方あるまい。栄養ドリンクでも飲んで寝るか……」
植人種の星は、空気中に光合成用の窒素と二酸化炭素が十分にあり、呼吸用の少
しの酸素がある事、そして海水か土壌中に三大肥料である窒素・リンやカリウムな
どが豊富に存在することが条件である。
生活するために農場も畜産場も必要はなく、ただ肥料を含んだ水を口から飲んで
日光浴するだけである。本来、口で咀嚼した食べ物を胃腸で消化吸収していたのだ
が……。数千年の年月を経て、歯は退化してなくなっており、胃腸内はシダの根が
張り巡らされて消化酵素はもはや分泌されないし、蠕動(ぜんどう)運動も行われ
ない。栄養分はシダの根から吸収されて体内を巡る。
言ってみれば水耕栽培を胃腸の中で行っている感じだ。
辺りを見回せば、最初に到着した時に耕作した作物が、荒れて野生化していた。
そして、植人種としての百年そこらの寿命が尽きて、シダ植物として大地に根を
生やした同胞達の姿があった。
最初は人の姿を維持しているが、やがて樹皮が覆いかぶさるように飲み込んでゆ
く。数年もすると植人種だった形跡も失せて、一本のシダ植物となってゆくのだ。
見回せば、そんな元植人種だったシダ植物の森が広がっている。