第一章・謎の宇宙生物 UMO(Unidentified Mysterious organism/未確認生物)
Ⅳ  捜索隊のメンバーもアメーバー退治に駆り出されていた。アメーバーに遭遇した 経験があるので当然の人選と言えるだろう。  探知機操作担当、ウォーレス・トゥイガー大尉。  冷線ガン担当、ジェレミー・ジョンソン曹長。  集塵&保冷容器担当、レーダー手・フェリシア・ヨハンソン。  凍結破砕用棍棒担当、機関長ヨーシフ・ペカルスキー。  という四名一組の班で行動する。捜索隊の他のメンバーも別の班で行動している。  ピッピッピッピッ……。  規則的な断続音を立てる探知機を操作しながらアメーバーを探し回る。  ピピピーー!  探知音が不規則な連続音に変わり、計器の針が大きく振れた。 「近いぞ! 奴が近くにいるぞ!」  探知機担当のトゥイガー大尉が叫ぶ。 「天井の換気口の中だ!」  やがて換気口の隙間から姿を現すアメーバー。  冷線ガンを撃とうするジョンソン曹長を制止する。 「待て! 完全に降り切ってからだ。欠片でも残すと、それから再生増殖するらし いからな」  アメーバーは換気口からぶら下がっていたが、ゆっくりと床に落ちた。 「今だ! 撃て!」  曹長が冷線ガンを撃つと、アメーバーは即座に凍り付いてゆく。  完全に凍り付いたのを確認してから、 「今度は俺だな。どりゃー!」  棍棒を持ったペカルスキーが、殴りかかって粉々に粉砕した。 「次は私ね」  集塵機を持ったフェリシアが、バキューム装置を起動させて集めてゆく。  それから手順通りに、凍結させ破砕して吸引収集して保存容器に収めた。 「この容器はどうするんでしたっけ?」  フェリシアが尋ねる。 「ミーティングを聞いていなかったのかよ?」 「ちょっとトイレ行っていたので」 「一部を除いてロケットに積載して恒星に打ち込むんだよ」 「一部は?」 「生物学者のコレットに回して弱点とかを研究する材料にするんだ」 「どうでしょう。こいつら、その研究室から逃げ出したんですよね。二の舞になり ませんかね」 「いくら何でも、コレットも同じ轍は踏まないだろうさ」  心配だが、上の決めたことには逆らえないし、仲間のことも信じたい。 「ところでこいつ『ちょっとヤバイみたいだから、ここは避けよう』とか考えない のかな」  ジョンソンが頭を傾げて言った。 「まさか、エネルギー体に引き寄せられる走性しかないさ。誘蛾灯に引き寄せられ る蛾と同じだよ。死のトラップなどお構いなしさ」  トゥイガー大尉が生物学的な答えを言う。  数時間後、生物学者コレットの研究室に、アメーバーの入った保存容器が届けら れた。 「今度は逃がさないでくださいよ」  フェリシアに念押しされて受け取った保存容器を、新しく納入された例の培養器 に収めて検査を始めるコレット。 活動性  宇宙を彷徨っている時は休眠状態であること。  皮膜か粘膜で覆われて凍結を防いでいたこと。  エネルギー体を感知すると目覚めて近づく走性がある。  エネルギーを吸収する活動期となると、皮膜を溶かして動き回る。すなわち動体 状態では凍結が可能となる。  一定量のエネルギーを吸収すると、分裂増幅するらしい。 生体構造  ケイ素(Si)を主体とする身体の構造を持っており、有機基を持つ三次元酸化 物ナノ構造をしているようだ。  塩素のある気体中では塩素呼吸をすることが確認された。これは炭素ユニット (構造体)の地球生命が、酸素呼吸するのと同様である。  突然、部屋が激しく揺れだした。 「余震?」  また培養器が壊れないように、庇い続ける。  天井から異音が聞こえてきた。 「なに? まさかアイツが?」  身構えるコレット。  だが換気口から落ちてきたアメーバーは動きが鈍く、やがて溶けて液体状になっ てしまった。 「どういうこと?」  疑問に思っていると、何やら異臭が漂ってきた。 「こ、これは?」  シアン化水素特有の臭気だった。  換気口から漂ってくるようだ。  今の余震で換気口のどこかに損傷が起きて、外気のシアン化水素が侵入してきた のか?  シアン化水素は、呼吸だけでなく皮膚からも吸収されるので、大急ぎで破損個所 を修復しなければならない。  部屋を出て、近くの端末で管理センターに連絡する。 「分かった。今すぐ応急修理班を向かわせる」  コレットは一つの結論にたどり着こうとしていた。  それを確かめるために、もう一度研究室に戻ることにした。  宇宙服を着こんで、慎重に部屋に入る。  シアン化水素が充満しているようだった。  液状化したアメーバーに近寄って調べると、完全に溶けて死滅していた。 「どうやらアメーバーは、シアン化水素によって生命活動を阻害され溶けて死滅す るようね」  アメーバーがシアン化水素で死滅する報告を受けて、地上施設そして宇宙基地で も、全員が宇宙服着用した後、館内にシアン化水素を充満させて、どこかにか潜ん でいるかも知れないアメーバーの駆除がはじまった。  すべての基地でアメーバーの死滅が確認され平常体制に戻った。  再び開拓移民船団が編成されて、マゼラン銀河の各地へと散らばった。それらの 船にはアメーバーに出会った場合に対処するためのシアン化水素を貯蔵したタンク を備えていた。  かつての天の川銀河探索時代にも、惑星開拓において風土病などの原生生物との 闘いがあったという。 第一章 了
     
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