第五章
Ⅴ 荷電粒子砲  通常の宇宙空間に浮上するノーチラス号。 「浮上しました」 「敵艦の位置は?」 「計測中です」  敵艦の位置が分からない状態ほど、どこから攻撃してくるかと焦り、過度な緊張を強いられる。 「先制奇襲つもりが、逆に先制されるとはな」 「我が艦の後方に反応あり! 浮上する物体あり」 「追いかけてきたか。魚雷は?」 「いつでも発射できます」 「よし、いいぞ。いつでも来い」  と言いつつ、測距儀(レンジファインダー)に注視していた。  測距儀を除いて目標に照準を合わせれば、魚雷発射装置にも自動的に数値が入力され、発射ボタンを押すだけになる。 「敵艦浮上点よりミサイル発射確認!」 「まさか、こんなに早く照準を合わせられるのか?」 「退避行動しつつ、迎撃せよ!」 「取舵一杯!」 「ファランクス、撃て!」  必死の迎撃態勢を取り続けるノーチラス号。  その間隙を縫って、アムレス号が完全浮上に成功した。 「ミサイル、第二波が来ます!」 「ちきしょう! 攻撃する暇も与えてくれないのか?」 「いかがしますか?」  副長が焦りながら質問する。 「仕方あるまい。もう一度、潜るぞ」 「分かりました。潜航!」  再び、潜航を始めるノーチラス号。 「同じ戦うなら、亜空間の方が良いだろう。熟練度から言っても、こちらの方が有利に違いない。先ほどは奇襲を受けて焦ったがな」  アムレス号船橋。 「第一撃、効果ありましたが、敵艦は潜航して逃げました」  エダが報告する。 「逃げたのではなく退避しただけだろう。また攻撃を仕掛けてくるはずだ」 「トラピストが降伏したのは向こうも知っているはずなのに、停戦要請するでもなく攻撃してくるのはいかがなものでしょうか」 「好戦的な無頼漢な指揮官がいるのだろう」 「平和になれば、真っ先に失業か閑職に回されるから、思い切り戦えるのはこれが最後と考えているのでは?」  敵が退避して一時的な緊張感で口も滑るが、次のレーダー手の一言で我に返る。 「亜空間レーダーに感あり!」 「やはり引き返してきたか」  アレックスが呟くと、オペレーター達が注視する。 「また潜りますか?」  副長が尋ねる。 「それだと相手が浮上して、浮いたり沈んだりのイタチごっこになる」  アムレス号の後方の亜空間に出現したノーチラス号。 「やっと後ろに取り付いた。今度こそ、逃がさないぞ。亜空間魚雷発射準備だ!」  発射管より発射される亜空間魚雷。  アムレス船橋。 「亜空間ソナーに感あり! 右舷後方より我が艦に直進してくる物体あり!」 「機関全速! 面舵一杯!」 「デコイ発射! 亜空間震動爆雷用意!」 「了解!」 「間に合うか?」 「何とも言えない」  アムレスより発射されたデコイ。  数発は接触して爆発するが、それを交わしてアムレス号に直進する魚雷。 「右舷後方に魚雷出現! 七秒で接触します。五・四・三・二・一……」  激しく揺れる艦体だが、何とか軽微で済んだようだ。 「エダ。確か三人乗りの亜空間対潜哨戒機あったよね」 「はい、あります」 「発進させよう」 「しかし、扱い方が分からなくては」 「私が行きましょう。戦闘機乗りだから、哨戒機の扱い方にも慣れている」  戦闘機乗りのキニスキー・オルコット大尉が名乗りを上げた。 「自分もいきます!」  と、ビューロン少尉ともう一人名乗り出た。  格納庫。  哨戒機のコクピットに乗船しているキニスキー以下の三名の隊員。  エダが、簡単な説明を施していた。 「いいですか?」 「分かりました。何とかやれそうです」 「エダさん、降りてください。後は我々に任せてください」 「はい。後はお願いします」  エダが哨戒機から離れて避難する。 「ブリッジ、発進口を開けてくれ」 『了解した』  ゆっくりと発着艦口が開いてゆく。 『ゲートオープン。哨戒機発進せよ』  スクリーンにキニスキーの姿が映っており、 「哨戒機、発進します」  敬礼すると共に、哨戒機を発進させた。  宇宙空間に躍り出る哨戒機。  機体を操作するパイロット、ソノブイなどを投下したりする探知担当、もう一人は爆雷や対潜ミサイルを発射する攻撃手、三人体制で運用する。  しばらく旋回した後、潜航艦が潜んでいそうな場所にたどり着いて。 「亜空間ソノブイ投下!」  射出口より投下されるソノブイ。 「捜索を開始します」  機器を操作する乗員。 「いいか、どんな小さな物でも見落とすなよ」 「了解」  アムレス号船橋。 「左舷三十度に魚雷出現」 「パルスレーザーで撃ち落せ」 「遅い! 間に合いません」  激しく揺れる艦内。  火花を散らす計器類。  弾き飛ばされる隊員。 「早く消火しろ!」  慌てて消火器を持ち出して消火する隊員。  やがて鎮火する。 「敵潜水艦の位置はまだわからないか?」 「まだです。敵も前回攻撃されたのを警戒して、用心しているようです」 「哨戒機から報告は?」 「ありません」 「そうか……一刻も早く見つけ出さないと」 「哨戒機より入電。敵潜水艦を発見したもようです。敵艦の位置座標入電」 「よし、爆雷連続発射!」 「了解」  次々と亜空間爆雷が投下されてゆく。  ノーチラス号艦橋。  激しく震動している。 「敵艦の爆雷攻撃です」 「回避運動! 面舵二十度変針」 「後部魚雷発射。撃って撃って撃ちまくれ! 敵の爆雷に怯(ひる)むな!」 「はっ!」 「回避、回避運動!」 「駄目です、艦長。こちらの動きを完全に読まれています」 「あの哨戒機のせいだな。撃ち落せないものか……」 「航空機は早すぎて、あれを打ち落とせる武器は装備していません」 「しかないな。正面の敵艦に集中する。魚雷発射!」  亜空間哨戒機では、次の行動に移っていた。 「敵艦は?」  機長のキニスキー大尉が尋ねる。 「まだ動いています。機関は損傷していないもようです」  レーダー手が答える。 「なかなかしぶとい奴だな」 「亜空間誘導魚雷を使用しましょう」  ビューロン少尉が進言する。 「そうしよう。投下最適ポイントに移動する」  旋回して好適位置に哨戒機を移動させるキニスキー。 「敵艦の位置座標を送ってくれ」  魚雷発射装置を操作しながら、レーダー手に指示を出すビューロン。 「今送ります」 「よし来た! 安全装置解除。亜空間魚雷発射用意……3.2.1.発射!」  哨戒機から、魚雷が発射され、数秒後に亜空間に消え去った。  ノーチラス号艦橋。 「急速接近する物体あり! 右舷後方」 「回避運動!」 「間に合いません!」  激しく震動する艦。  あちらこちらで転倒する乗員。 「損害報告を急げ!」  立ち上がりながら損害調査に走り出す乗員。  改めて指揮官席に座りなおす、ため息をつく司令。 「敵艦と哨戒機とからの挟み撃ちか……」 「大変です! 亜空間震動航行装置が停止しました!」 「何だと!」  一同立ち上がり、不安そうな表情。 「今のところは、サブの方で何とかなっておりますが、いつまで持つか……」 「このままサブコントロールまでが破壊されては、亜空間の無限の時間に閉じ込められてしまいます」 「で、どうしろと言うのだ!」 「浮上しましょう。それから戦うなり、停戦もしくは撤退しましょう」 「浮上か……」 「艦長!」 「分かった、浮上しよう。浮上と同時に艦首魚雷をぶっ放す」  オペレータが復唱する。 「浮上!」 「艦首魚雷用意! 浮上と同時に発射する!」 「照準は?」 「いらん! 発射と同時に全速前進だ!」 「正面に敵艦がいたら?」 「かまわん。ぶち当たる!」 「特攻ですか?」 「そうだ! 火力ではこちらが劣勢だ。まともに戦えば負ける。一か八かだ」  迫真の命令に、一同も息を飲む。  アムレス号船橋。 「敵潜水艦が浮上してきます」 「敵艦に損害を与えたようだな」 「降参のために浮上してくるのであればよいのですが……」 「念のためだ。粒子ビーム砲用意」  アレックスの頭の中には、学習装置によってアムレス号の武器システムのすべてが記憶されていた。 『了解。荷電粒子砲ニ電力供給シマス』  その命令に驚く乗員たち。 「荷電粒子砲だと? まだ研究段階じゃなかったのか?」 「その通り、一発撃つだけでトラピストの全発電量の電力が必要だと聞くが」  その疑問にエダが答える。 「このアムレス号のビーム砲は、そんなに電力を使用しません。省エネでコンパクトなものですから」 「それでも莫大な電力を必要とするはずだがどうやって?」 「アムレス号に搭載された超小型縮退炉から、ほぼ無尽蔵に発電できます」 「縮退炉! ブラックホールを積んでいるのか?」  驚きで言葉を紡げない乗員だった。 『加速器へ燃料ペレット充填、超伝導回路ヘノ電力供給マックス到達』 「敵艦浮上! 目の前です」 「粒子砲は?」 『チャージ完了マデ、十二秒。マモナク撃テマス』 「敵艦、撃ってきました」 「撃ち落とせ!」  近接防空火器システム(CIWS/シーウス)が火を噴き、敵弾を撃ち落としてゆく。 「敵艦、急速接近中!」 「退避行動!」  ビューロン少尉が指示する。  しかし、アレックスが制止する。 「待て! このままだ」  なぜという表情のビューロン少尉。 「撃つには、船の軸線上で捉えなければならん」  粒子砲は、船の正面に固定されているため、軸線上のものしか撃破できない。  さらに敵艦は近づく。  近すぎてミサイルは撃てない距離だ。 『チャージ完了マデ、七秒』  乗員達は、固唾を飲んでスクリーンを凝視している。  スクリーン上に映る敵艦が次第に大きくなってゆく。 『チャージ完了マデ、三秒』  すでに敵艦は目と鼻の先にあり、スクリーンをはみ出すほどだった。 『チャージ完了!』  すかさず下令するアレックス。 「撃て!」
     
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