第三章
Ⅳ アムレス号  ビーグル号を離れてアムレス号へ向かう救助艇。  艦載機発着口が開いて、中へと進入してゆく。  救助艇を降りてゆく一同。  辺りをキョロキョロと見回している。  船内にはずらりと戦闘機が並んでいた。 「戦闘機だ!」  一人がコクピットに乗り込み、計器類をいじりはじめた。 「こりゃあすごいや! これがミサイル発射ボタンで……ほう。自動操縦装置ま であるぜ」  どうやらパイロット出身のようである。  戦闘機を囲む一同。 「一度、こいつに乗って戦ってみたいぜ。地球艦隊の戦闘機とは比べようがない ほど高性能だぞ」  わいわいがやがやと戦闘機談義しているところへ、ロビーがヒョコヒョコとや ってきた。 「おっ! 何だ? ロボットだ」  ロビー一同のすぐそばまでやってきて伝言する。 『皆サン、ヨウコソイラッシャイマシタ、歓迎シマス。コチラヘドウゾ』  と言いながら、元来た道を戻りながら案内する。 「この船の主に合わせてくれるのか?」 『着イテキテクダサイ』  ぞろぞろとついてゆく一同。  エレベーターの前に到着し、ロビーの促すまま乗り込む。 「不思議だな」  ビューロン少尉が首を傾げる。 「何がですか?」 「気が付かないか?」 「一体何が?」 「この船には人間が見当たらない」 「人間が?」 「そうだ。今まで分かっているのは、通信に出た女性とその背後にいた少女だけ しかいない。あとはこのロボットだけだ」 「そう言われれば、船を動かすべき乗組員に一人も出会っていませんね」 「おい、ロボット。この船には、人間は二人しかいないのか?」  ビューロン少尉が尋ねる。 『ハイ。ソノ通リデス』 「だとしたら、どうやってこの艦は動いているのだ? ただ漂流しているという わけではあるまい」  その時、丁度エレベーターが止まった。 『到着シマシタ』  扉が開くと、そこはコントロームルームだった。  エレベーターから出てくる一同。  エダ、手を広げて彼らを迎える。 「ようこそ。我がアムレス号へ」 「教えてください。あなたは何者で、この船はどこの国の所属なのか? この船 には人間がほとんどいないようだが、どうやって動いているのか?」  矢継ぎ早に質問する一同。 「それは、いずれゆっくりとお話しましょう。まずはこの宙域から、急いで退避 します。と、その前に……主砲発射準備!」  いつの間にか計器類の前に陣取って操作しているロビーだった。  アムレス号の主砲を、ビーグル号に照準を合わせている。 『発射準備完了シマシタ』  それを見ていたアレックスが尋ねる。 「何をしようというか?」 「もちろん、ビーグル号を破壊するのです」 「なぜ?」 「ビーグル号のコンピューターデータバンクには、このアムレス号との戦闘状況 が記録されているはず。それを完全消去せねばならぬのです。このアムレス号の 戦闘能力を敵に知られないために」 「そうなのか……?」 「戦いとはそういうものです」 『主砲、スタンバイOKデス』 「分かりました、主砲直ちに発射して下さい」 『了解。主砲発射シマス』  主砲より発射されたエネルギービームがビーグル号に襲い掛かり炸裂する。閃 光とともに爆発炎上して轟沈するビーグル号。 「ビーグル号が……」 「すごい! たった一撃で、あのビーグル号を撃破するとは……。地球艦隊でも 手こずったというあのビーグル号が……。たった一撃か」  唖然とする一同。 「では、全速で撤退しましょう」 『了解! 全速前進、退避シマス』  加速して戦闘宙域から離脱してゆくアムレス号。 「待ってくれ! 私の質問に答えてくれないのか。せめて我々の味方なのか敵な のか、それだけでもはっきりさせてくれ」 「トラピスト星系連合王国なのか?」  執拗に尋ねるので、つい答えてしまうエダ。 「このアムレス号は、どこの国にも所属していませんし、味方となるか敵となる かは、あなた方しだいです」 「我々しだい?」 「その通りです」 「我々にどうしろと言うのですか?」 「ともかく、このアムレス号に乗船している間は、私の指示に従ってもらいます。 従えない方には、退船して頂きます」 「訳が分からないのだが……」 「今言えるのはこれだけです。ロビー、皆さんをお部屋に案内して差し上げてく ださい」 「了解シマシタ。自動操縦ニ切リ替エマス。コース設定完了」  機器をテキパキと操作を終えて、くるりと反転して、 『ミナサン、コチラヘドウゾ』  と、トコトコと先に歩き出した。  一同、ロビーの後に付いてゆく。  ただ一人、アレックスだけが立ちすくんでいた。  その視線の先には、少女イレーヌがいた。 「アレックス……」 「イレーヌ……」  互いの名前を呼びあいながら、一歩また一歩と歩み寄ってゆく。  やがて小走りになり、 「アレックス!」 「イレーヌ!」  駆け寄って抱き合う。  扉付近を過ぎようとして一行が振り向く。 「あれ、アレックスは?」 「あそこだよ」  と抱き合う二人を指さす。 「おい、あの少女は?」 「どうやらアレックスの知り合いのようですね」 「あの少女は確か……」  呟くビューロン少尉。 「少尉殿は、あの少女をご存じなのですか?」 「いや、何でもない。人違いだ」  尋ねた部下は首を傾げる。  抱き合っていたイレーヌとアレックス、やがて離れる。 「どうして君がここにいるの?」 「それは……」 「私がお連れしたのです。アレックス様」  返答に窮していたイレーヌに変わって、エダが答える。 「あなたは? 僕の名前をどうして知っているのですか?」 「私は、あなた様の忠実な従臣でございます」 「従臣?」 「左様にございます。アレックス様をお救いするために、こうしてアムレス号で お迎えに参ったのです」 「アムレス号……」 「はい。宇宙戦闘艦アムレス号、あなた様の船です。命ずるままにどこへでも……」
     
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