第二章
Ⅱ インゲル星  流刑地惑星インゲル。  刑場。  銃を突きつけられ監視されて、囚人たちが重労働をさせられている。  アレックスもその中にいる。  老人が息をついて倒れている。  兵士がやってきて、老人に鞭を振るう。 「貴様あ! 何をしている。休み暇があったら働け!」  さらに鞭が舞う。  近くにいたアレックスが見かねて老人を庇う。 「何をするんです。こんな老人に、鞭を振るうなんて」 「貴様、新人だな。ならば今後のために教えておく。いいか貴様らは奴隷だ。死 ぬまでここで働いてもらうぞ。働けなくなった者は、容赦なく殺す。働けない奴 に無駄飯を食わす必要はないからな。分かったか! 死にたくなかったら働け。 早くしろ!」  言いながら、アレックスを鞭打った。  痛みを耐えながらもにらみ返すアレックス。 「何だ、その目は?」  アレックス、兵士に食って掛かろうとするが、老人に止められる。  その時、アレックスの肩口の痣(あざ)がチラリと見えた。 「お若いの、止めなされ。反抗したところで無駄な事じゃよ」 「しかし、おじいさん」 「いいから」  アレックスを説得する老人。やがてツルハシを持って仕事を始めた。 「じじいの言う通りだ。さあ、貴様も黙って仕事を始めろ! さもないと……」  言いながら鞭を撓(しな)らせる。  アレックス、一旦は仕事に掛かるが、堪え切れずに兵士の隙をついて飛び掛か る。格闘となるが、集まった兵士達によって取り押さえられ、滅多打ちにされる。  下士官がやってくる。 「油断するな!」 「申し訳ありません。以降気を付けます」 「ようし! 今日の仕事はこれまでだ。囚人どもを収容しろ!」  兵士たちに銃を突きつけられて、次々と宿舎に連れられる囚人達。  アレックスに向かって忠告する下士官。 「貴様は罰として今晩と明朝の食事抜きだ! しかも倍の量を働かせてやる。空 腹の身体で思い知るがいい。さすれば賢くなるだろう」  兵士に向き直って命令する。 「明朝まで独房に入れておけ!」 「はっ! かしこまりました」  連行され、独房に入れられるアレックス。  独房。  兵士に手錠を掛けられて連れてこられるアレックス。 「ここで頭を冷やすんだな」  笑いながら、牢に鍵を掛けて去ってゆく。  独房内を見渡すアレックス。  冷たいコンクリートの壁や床。  それなりのベッドもなく、床にごろ寝するしかない。  おそらく脱獄対策なのであろう。  窓には頑丈な鉄格子が嵌められており、窓ガラスもないので雨風が吹き込んで くるのが想像できる。真冬ならば凍死しそうな部屋だ。  壁に背をもたれるようにして床に腰を降ろし、物憂げな表情のアレックス。  独房のある通路。  兵士の立ち去った方向から、後ろを何度も確認しながら、一人の女性がやって くる。  独房の前に立ち止まって中に向かって、小さな声で話しかける。 「そこにいますか?」 「君は?」 「しっ。あまり声を立てないで。私はルシア。あなたの名前は?」 「僕はアレックス。君も囚人かい?」 「そうよ。さ、これを食べて」  ドアの下にある小さな戸口から食物を差し入れる。 「どうしてこんな事をしてくれるの? 見つかったら、君もただでは済まないだ ろう」 「これは、私の叔父様を庇ってくれたお礼よ」 「じゃあ、君はあの老人の?」 「ええ……。私、兵士たちの食事係をしているわ。調理室の窓から見ていたのよ。 さあ、兵士に見つからないうちに早く食べて。私も、これ以上いられないから」 「ありがとう」 「頑張ってね」  微笑みを返しながら立ち去るルシアだった。  刑場で黙々と作業を続けるアレックス。  そばを女性が通りかかり、アレックスに軽く意味ありげな会釈をする。  それだけでなく、囚人のほとんどがアレックスに対して、何らかの表情をして 見つめているようだった。 「新入りも、やっと落ち着いたようだな」  監視兵長が呟くように言った。 「反抗しても無駄だと分かったのでしょう。威勢のいいのは最初だけですよ。ど いつもこいつもね」 「うむ……。それはそうと、弁務コミッショナーが、急遽この星へお見えになる そうだ」 「コミッショナーが? なんでまたこんな辺鄙な流刑地などへ……」 「詳しい事情は分からん。とにかく、こちらへ到着するまであのアレックスとい う男を厳重に監視しろという命令が届いておる」 「あの若造。よっぽどの重要人物なのでしょうか? 私にはただの小僧にしか見 えませんが」 「いや。人間、表面だけで判断してはいかんぞ。とにかく命令だ。奴を四六時中 見張っているのだ。行け!」 「はい。分かりました」
     
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