第八章
Ⅶ 身の振り方
海賊基地内桟橋に横付けされているフォルミダビーレ号とアフォンダトーレ号。
それぞれに修理班が取り付いて復元作業を行っている。
頭領の部屋に、ミケーレ・ナヴァーラ若頭・ガスパロ・フォガッツィ・アント
ニーノ・アッデージが揃い、目の前の席には解放されたアントニノ・ジョゼフ・
アッカルド頭領が座っている。
「さてと、決闘の結果として頭領は自由になってここにいる。ガスパロ君、君は
帝国艦隊を招き入れて叛乱を起こした首謀者として処断されるはずだった。だが、
決闘を受けたことで、その権利として君の身分は保証される」
ナヴァーラ若頭が説明し、
「とは言っても、反乱者はここには置いておけないので、出て行ってもらうしか
ない。仲間達が許さないだろうからな」
とアッカルド頭領が捕捉する。
「分かった。出ていけばいいんだな?」
ガスパロが納得して答えた。
「燃料と食料も補給してから行ってくれればいい」
「そうさせてもらう」
数時間後、修理を終えたアフォンダトーレ号が、海賊基地を出立してケンタウ
ロス帝国の方角へと進路を取った。
その姿を、フォルミダビーレ号の船橋モニターで見つめるアーデッジ船長だっ
た。
「行ってしまったな」
誰に言うともなく呟くアーデッジ。
「当然の報いを受けただけですよ」
リナルディ副長は憤慨していた。
やつのせいで、処刑されるところだったのだ。
数時間後、アレックス含むフォルミダビーレ号の仲間達が、会議室に集まって
今後の方針を検討することとなった。
「全員無事にこの基地に帰還できたことはハッピーだった。それもこれも少年達
の活躍があってのこそ。今一度、命の恩人である君達に、謝を述べよう」
誰ともなく拍手が沸き上がった。
照れる少年達。
「さてと、そのお礼として君達には里帰りを許そうと思う」
意外な言葉に驚く少年達。
なぜなら、アレックスが本命だったのだが本人が分からず、元々奴隷として売
られるために誘拐されたのだ。それなのに飛行艇奪取と脱走事件をきっかけに、
海賊の仲間入りを果たしたのだが。
「そろそろ家族に会いたくなっただろう。故郷に戻してやろう」
「いいのですか?」
少年達が声を合わせて尋ねた。
「構わないぞ。そのまま船に戻らなくても良い」
「つまり解放ということですか?」
「そういうことだな」
命の恩人に対するご褒美というところなのだろう。
「僕は、この船に残りますよ」
そう言ったのは、孤児院育ちのジミー・フェネリーだった。
親族はいないし、孤児院に戻ったところで、成人すればどうせ出なければなら
ない。
孤児院組の三人は居残りとなった。
「僕達も残りますよ」
富裕層組の三人も居残りを選んだ。
「奴隷商人に売られていった仲間のことを考えると、自分達だけ助かるなんてで
きません」
「僕達以外の友達の家族は、何故僕達だけ帰ってこれたのだ? とかいろいろ追
及されますよね」
全員が下船することを望んでいないようだった。
「分かった。好きにしていいよ」
少年達の意外な返答に呆れた表情のアーデッジ船長。
「ところで、アレックス君はどうなんだ?」
他の少年達と違って、アレックスは王族出身であることは間違いのない事実だ
った。
何と言っても、ロストシップという旧トリスタニア連合王国ゆかりの船の相続
所有者らしい。
「僕ですか?」
「そうだ。君は、惑星サンジェルマン領主のロバート・ハルバート伯爵の子供で
あることは明白だと思う」
「どうしてそう思うのですか?」
「何の情報もなく、君のことやロストシップを捜しまわっていたのではないさ」
「?」
「君が生まれた時、その緑色の瞳を見て遺伝子異常だと思った伯爵は、女中に命
じて孤児院送りにした、ということが分かっている。さらにその女中が家宝の一
つを持って、行方を晦ましたことも」
アレックスの出自を事細かに説明するアーデッジ船長。
「何が言いたいのですか?」
「はっきり言おう。ハルバート伯爵には、男子が生まれなかった。嫡男である君
は、惑星サンジェルマンの次期領主であるのは間違いない。ということだ」
「僕が次期領主ですか?」
「そう。どうだ、一度伯爵に会いに行ってみないか?」
しばらく考え込んでいたが、
「分かりました。会ってみる価値はありそうですね」
「決まりだな。惑星サンジェルマンに行く」
こうしてアレックスと少年達の故郷である惑星サンジェルマン行きが決定され
た。
数時間後、海賊基地を離れて惑星サンジェルマンへと向かう二隻の船。
アムレス号とフォルミダビーレ号。
速度を上げて、やがて亜空間へと消えた。
第一部 了
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これまで脇役の扱いだったアレックス。
第二部では、主人公として活躍を始めます。