第八章
Ⅴ 決闘
対峙するフォルミダビーレ号(for・mi・da・bi・le)とアフォンダトーレ号
(Affondatore)
アーデッジ船長はガスパロ頭領に問いかける。
「逃げられませんよ。決闘を受けるしかないようですね」
『お、おう……。勝てばいいんだな? フォルミダビーレ号をくれるという約束
は果たしてくれるのだな?」
「いいえ。あの時点では差し上げる予定でしたが、三十分の猶予の間にご返答な
されませんでしたので、すでにその約束は反故にされました」
ナヴァーラが進言する。
『決闘に勝てば、身柄の保証はしよう。帝国へだろうとどこへだろうと向かうが
よい』
基地内で叛乱が発生した条件下では、ガスパロが頭領の地位から引きずり降ろ
されることは必至。なおかつ本人も、帝国の権威を借りて反乱を起こして成り上
がった身であるがゆえに、海賊の掟による処刑は免れないだろう。
『いいだろう。決闘を受けようじゃないか』
「分かった。俺たちの決闘のルールでやろう。合図はナヴァーラさんに任せよう」
両者が納得して、二手に分かれて所定の位置に着いた。
それぞれの通信モニターにはナヴァーラが映し出され、合図が出るのを待って
いる。
『始めたまえ!』
ナヴァーラが合図と共に手を振り下ろす。
フォルミダビーレ号船橋。
「戦闘配備完了しました」
リナルディ副長が報告する。
「まずは左舷側での戦いだ。面舵五度で進行せよ」
海賊における決闘のルールは、かつての地球史大航海時代における戦列艦同士
の戦いに準じていた。なので、舷側を互いに向けあって撃ち合う方式となる。
「おまえらの出番だぞ! 腕前を見せつける機会だ!」
モレノ・ジョルダーノ甲板長が砲手たちに発破を掛けていた。
「任せておいてくださいよ」
ジミー・フェネリーが応じる。普段は厨房課であるが、戦闘時は砲手を兼ねて
いた。
「よおし、その意気だ」
その時、指令が下った。
『左舷、砲撃開始!』
ガスパロ船に向かって砲撃を開始する砲撃手。
もちろん相手側も撃ち返してくるので、砲台を真っ先に破壊する。
激しい銃撃戦に、次々と被弾してゆく。
「うわあっ!」
ジミーが叫ぶ。
敵弾が直撃したのだった。
後方に跳ね飛ばされて、床に這いつくばる。
すかさず甲板長が駆け寄る。
「大丈夫か?」
「へへっ……やられちゃいました」
見ると、右腕が肩から千切れており、床に血まみれの右腕が転がっていた。
「今、医務室に連れて行ってやる」
担架に乗せられて、医務室へと運び出されるジミー。
千切れた右腕は、接合手術が容易となるように冷蔵容器に格納されて運ばれた。
爆発による直接な損傷ではなく、砲台の破片が鋭い刃物となって、右腕を切断し
てしまったようなので、切断面が綺麗で接合できると判断したのだ。
両船がすれ違いを終えて、転回を始める。
船橋に刻々と報告が上がっている。
「左舷砲塔三か所に被弾。負傷者14名に上ります」
「死者は?」
「いません。全員、命にかかわるような負傷はしていません」
「よし、第二戦行くぞ! 右舷側戦闘!」