第五章
Ⅱ 展望ルームにて
しばらくして機内食が届けられて、空腹を満たした一行は、展望ルームへと向
かった。
『只今通過しております惑星パウサニアースは、国際中立地帯境界周辺を警備す
るケンタウルス帝国軍艦隊の駐留基地となっております』
船内アナウンスが告げていた。
『軍事基地のために、民間船及び民間人の着陸は許可されておりませんが、軌道
上からの眺めをお楽しみください』
各国の国際中立地帯境界近辺には、それぞれが辺境警備艦隊を配置していた。
ペルセウス腕ケンタウルス帝国には、パウサニアース。
いて・りゅうこつ腕トリスタニア共和国には、デュプロス星系超巨大惑星カリ
スの衛星『ミスト』に軍事基地がある。
たて・ケンタウルス腕辺境惑星国家サンジェルマンにも軍事基地がある。
「しかし、軍事機密があるのに何で軍事基地の傍を通るんだろうね」
体育会系のブルーノ・ホーケンが首を傾げている。
「それは、基地のラグランジュ点にあるワープゲートを利用させてもらっている
からよ」
ルイーザが解説する。
「へえ。民間船に軍事施設を利用させるなんて不思議だね」
「中立地帯から隣国へ艦隊を派遣したり、逆に防衛のために艦隊集結するのに必
要なのがワープゲートだよ。でも民間船のためのゲートを、ラグランジュ点を潰
してもう一つ建設するのも費用対効果で無駄だから。貴重なラグランジュ点は別
の戦艦建造・修理ドッグになっているよ」
アレックスが答えるが、軍事情報の事は士官学校試験勉強で習った事項なので
あろう。
『お知らせします。只今より、ワープ前の国境警備隊による検札を行います。パ
スポートと搭乗券をご用意してお待ちください』
船内放送があってしばらくすると、ガヤガヤと展望台入口付近で騒ぎが起きて
いた。
一同が振り返ると、軍服を着た兵士がゾロゾロと入って来ていた。
入口に銃を携えた二人の兵士を立たせて、検札を開始しはじめた。
「空港でやったのに、またやるの?」
体育会系のブルーノ・ホーケンが尋ねた。
「空港のは民間船に乗るための通常の手続きで、ここでの船上での検札は、軍の
施設であるワープゲートを使用させてもらうための手続きよ」
「検札って……。僕たちのパスポートは偽造だよね、バレたらやばいんじゃない
の?」
マイケル・オヴェットが怯えている。
「大丈夫よ。海賊ギルドの偽造技術を信じなさい。そうやって怯えていると余計
にバレることになるのよ。堂々としていなさい」
ルイーザが窘(たしな)める。
やがて兵士が、少年達の元へと近づいてきた。
「パスポートと搭乗券をご拝見よろしいですか?」
若々しい青年将校が声を掛けた。
「はい、どうぞ」
ルイーザが率先して、書類を手渡す。
「拝見します」
書類を受け取って確認する将校。
他の少年達も、別の兵士達から検札を受けていた。
ややあってからそれを返しながら、
「結構です。ご旅行をお楽しみください。失礼しました」
敬礼して、少年達から離れて別の旅客に向かった。
冷や汗を流しながらも安堵する少年達。
「無事に通過できましたね。流石はギルドの偽造技術ですね」
アレックスも感心しきりだった。
展望ルーム内の検札が終了して解放される旅客者達。
何事もなく兵士達が退室してゆく。
展望ルームからは、基地へと戻ってゆく国境警備隊の船が映し出されている。
やがて旅客船は、惑星パウサニアースを離れつつあり、衛星カトラーズとのラ
グランジュ地点にあるワープゲートへと向かっていた。