第十三章 カーター男爵
Ⅰ  エセックス侯国より帝国へと帰還の途についたマンソン・カーター男爵。 「まったく、どうなってるのだ? 候女の誘拐に成功したんじゃないのか?」  憤懣やるかたなしという表情。  王太子誘拐事件の時も、ぬか喜びした挙句が未遂だったという落ち。 「前方に艦影多数!」  進路を塞ぐようにして多数の艦艇が出現した。 「相手より入電。停戦せよ!」  停船命令に怒りを露にする男爵。 「どこのどいつだ! 私を誰だと思っているか! 映像に出せ!」 「映像に出ます」  通信スクリーンに姿を現したのは、ジュリエッタ第三皇女だった。 「じゅ、ジュリエッタ皇女さま!」  まさかの人物の登場に驚愕する男爵。 「ジュリエッタ皇女さまの旗艦、巡洋戦艦インヴィンシブルを確認しました」  映像の皇女が告げる。 「停止して下さい。さもなくば撃沈もやむなしです」  冷たく言葉を発するジュリエッタ皇女の姿に反発する男爵。 「理由を聞かぬ内は、同意できませぬ。いかに皇女だとしても、我々の行動の自由 を妨げる権利はありますまい」 「あなたが海賊を使役して、セシル候女を誘拐したことは分かっております」 「証拠はあるのか?」  図星を指されて、言葉使いが荒くなっていた。 「証拠ですか……。これなどはいかがでしょうか?」  映像がどこかの部屋の中に切り替わった。机に対面する二人の表情は、一方は項 垂れており、一方は胸を張って睨めつけるようにしていた。どうやら尋問部屋のよ うであった。 「これがどうしたというのだ?」 「尋問を受けているのは、帝国第一艦隊司令フランシス・ドレイク提督の副官です」 「そ、それがどうした? 私と何の関係がある?」 「そうですね。これだけでは、因果関係は分かりませんよね。では、これではどう でしょうか?」  音声通信の声が再生されている。 「こ、この声は!?」  聞こえてきた音声は、紛れもなく自分自身の生声だった。 「この音声は、海賊基地の通信記録です。海賊ですよ。なぜ海賊との通信記録にあ なたの声が入っているのでしょうか?」  証拠を突き付けられて、極まった男爵。  意味深な合図を砲撃手に目配せで送る。  それに気づいた砲撃手は、黙って指示に従って主砲の安全装置を外し、準備OK のサインを返す。 「答えはこれだ!」  指をパチンと鳴らすと、砲撃手が発射スイッチを押す。 「発射!」  艦首から一条のエネルギーが、インヴィンシブルへと一直線に走る。  スクリーンを凝視する男爵。 「くたばりやがれ!」  しかし、エネルギーは軌道を逸れた。  逸れた一瞬だが、一隻の船が浮かび上がってすぐに消えた。  その艦影は、紛れもなくPー300VXだった。  特殊索敵機に搭載された、歪曲場透過シールドの威力だった。
     
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