第十章 反乱
Ⅵ  漆黒の宇宙を進む艦隊。  サラマンダーを中心に、左翼にマーガレット皇女艦隊、右翼にジュリエッタ皇女 艦隊、合わせて一万二千隻。 「まもなく、アルサフリエニに到着します」  艦橋に緊張が走る。  いつどこからゴードンのウィンディーネ艦隊が襲い掛かるかも知れないからである。  すでにゴードンは敵とみなして行動するしかない。  やがて前方に、多数の艦隊が出現した。 「お出迎えだ」  アレックスがぼそりと呟いた。 「ウィンディーネ艦隊のようです」  パトリシアが応える。 「正々堂々と真正面決戦を挑んでくるようだな」 「相手は、持てるすべての七万隻を投入してきたもようです」 「対してこちら側は、旗艦艦隊二千隻と帝国艦隊一万隻か」 「数で圧倒して戦意を喪失させようとしているのでしょう」 「正直ゴードンも、できれば戦いたくないと思っているはずさ。ま、尻尾を巻いて 逃げかえれと言っているのだろうな」 「どうなされますか?」 「逃げかえるわけにもいくまい。巡航艦ヘルハウンドを呼んでくれ」 「ヘルハウンド!?」  その艦は、ミッドウェイ海戦のおり、アレックス指揮の下索敵に出ている最中に、 敵の空母艦隊と遭遇し、これを完膚なきまでに叩き潰して撤退に至らせた名艦中の 名艦である。  幾多の戦いを潜り抜けて、今日まで生き残ってきた『サラマンダー』という暗号 でも呼ばれた通り、今の今でも旗艦登録されている。  その艦体には、火の精霊サラマンダーの絵が施されている。 「まともに戦っては全滅するしかない。ここは自分の得意戦法しかない」 「まさか、アレをおやりになさるのですか?」 「他にないだろう。マーガレットとジュリエッタを呼んでくれ。作戦を伝える」  それから数時間後。  ヘルハウンドに乗艦するアレックスを歓待する艦橋オペレーター達。 「提督!お久しぶりです」  ヘルハウンドに乗るのは、惑星ミストでの戦闘を終えて帰還する時に乗艦して以 来のことである。 「また、おせわになるよ」  艦長のトーマス・マイズナー少佐に語り掛ける。 「歓迎します」  といいながら指揮官席を譲るマイズナー。  少佐なら一個部隊を率いてもよさそうなのであるが、マイズナーはヘルハウンド の艦長という名誉職を辞したくなかったのである。  何せその艦体には、英雄の象徴である火の精霊『サラマンダー』が描かれている のだから。サラマンダー艦隊という呼称の元祖だった。  アレックスは、その思いを酌んで艦長職を続けさせている。  本来の自分の艦長席に戻る。  この席も最初は、スザンナ・ベンソン准尉が座っていた席でもある。  スザンナが少佐となり、アレックスの招聘を受けて旗艦部隊司令に叙されて、そ の後釜に入って以来ずっとこの席を守り続けていた。 「各艦長が出ております」  正面のパネルスクリーンに、分割されて各艦長の映像が出ていた。 「再び一緒に戦えるのを光栄に思います」 「提督のご指示に従います」 「オニール提督とて敵となれば戦います」  などと戦いの前の思いを語っていた。 「これより恒例のドッグファイトをやるぞ。みんな気合は十分か?」  艦橋内に響き渡るようにアレックスが大声を上げる。 「おお!」 「いつでもどうぞ!」  同様にオペレーター達も、片手を上に挙げて大声で返す。  闘志は十分だった。 「よろしい!微速前進!」  巡航艦ヘルハウンドと十二隻の艦艇が密かに艦隊を離れてゆく。  ミッドウェイ海戦に参加した精鋭部隊である。
     
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