第七章 反抗作戦始動
XV  銀河帝国首都星アルデラン。  アルタミラ宮殿内皇室議会議場。  正面スクリーンには、決戦の場に従軍した報道機関が放映している番組が映し出されて いた。 『帝国の皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより皇太子殿下率いる遠征軍の模 様を放映再開いたします』  実は、戦闘中は敵艦隊に情報を漏洩させるとして、アレックスは報道管制を布いていた のである。  総督軍との戦闘が終了したことを受けて、報道管制を解禁して再び報道番組を放映する ことを許可されたのである。 『皇太子殿下は、アル・サフリエニ方面を守備する艦隊全軍を援軍として差し向けるとい う、ほとんど暴挙とも言える作戦を敢行なされました。バーナード星系連邦がその隙を突 いて、タルシエンの橋を渡ってタルシエン要塞やシャイニング基地などの拠点陣地を奪還 するという危険性もあったのです。もしそうなれば侵略のための前線基地を連邦に与える こととなり元の木阿弥(もとのもくあみ)、たとえトリスタニア共和国を解放しても、開 戦当初の勢力状況に戻るだけだけだったのです』 『報道管制を敷かれて放映の禁止を命じられていましたが、戦闘の録画だけは許されてお りました。これより総督軍との戦闘を開戦当初より再生してご覧いただきましょう』  銀河帝国国民に向けて、帝国軍艦隊と総督軍艦隊との決戦の模様が録画中継で放映され はじめた。  そして、決戦場での戦闘シーンが終了し、【首都星トランターへ、いざ出陣!】という ところで、再び報道管制が入って放映中断となった。  暴動鎮圧や敵艦隊迎撃に向かった防衛艦隊が引き返してきているだろう。  こちらの情報を教えるわけにはいかないからだ。  従軍報道陣からの録画中継を食い入るように見つめていた皇室議会議員達。  深いため息をついて感嘆している表情が手に取るように判る。 「さすが共和国同盟の英雄と称えられる殿下殿。巧妙にして計算されつくした作戦だ」  議員の一人が感服の言葉をもらした。  それに賛同するように頷くものが多かった。  さて、こうなると前回に残した議題が問題に上がってくる。  【皇太子擁立問題は、第一皇子の総督軍との決戦を見届けてから再審議しよう】  というものである。  見事なまでに総督軍を破り、その軍事的才能はもはや疑いのないものとなった。  トリスタニア共和国同盟を解放に導くことも、おそらくは実現可能な情勢となっている。  解放に成功すれば、暫定政権を興してその首班の地位に着くことも可能であろう。  三大強国の一つである共和国同盟を掌握し、さらに銀河帝国の皇帝となれば、その地位 は揺るぎないものとなり、銀河宇宙の平和をもたらすだろうことも……。  結論はすでに出ていると言えた。  しかしながら……。 「ジョージ親王殿下はすでに次代皇太子として認証されているのだ。今更ながらにしてア レクサンダー殿下を皇帝とするのも……」  と、相変わらず煮え切らない摂政派の議員達。  自分でもアレクサンダー殿下を推す事には反対はしないが、ロベスピエール公爵の意向 にも逆らえないという板ばさみ。  いわゆる中間管理職の悲哀というべきものだろう。 「しかし、アレクサンダー殿下には皇位継承権第一位という権利を有し、亡き皇后さまよ り授けられた皇位継承の証がある。この事実は動かすことができまい。皇室典範に照らし 合わせて、先の皇室議会の決定に従ってジョージ親王殿下が即位した場合でも、そのお子 はお世継ぎとなれない一代限りの暫定的なものだ。その次の皇帝は、アレクサンダー殿下 か、そのお子様に皇位継承権が与えられる」  悲喜交々ひきこもごも、堂々巡りの議場に新しい風が舞い込んできた。  突然ドアが開いて従者が一人入ってきた。 「お知らせいたします。アレクサンダー殿下率いる艦隊が首都星トランターに居残る総督 軍を打ち破ったとの報告が入りました」 「なに!」 「それは真か?」 「は、間違いございません。殿下はさらに艦隊を進め、まもなく首都星トランターを包囲 せんとする位置に展開中とのことです」  しばしの沈黙があった。 「共和国同盟の解放は、もはや疑いのないものとなった」  一人が重厚な響きをもった言葉を口にした。 「アレクサンダー殿下は、共和国同盟にたいして最高指導者として国政を自由に操る地位 につかれたことになる」 「その通り。現在の同盟諸国は連邦の占領下にあって無政府状態に近いから、臨時政府を 興し首長となることが可能というわけだな」 「アレクサンダー殿下が皇帝となられれば、場合によっては銀河帝国に吸収合併し、帝国 の領土を二倍に広げより強大な国家を築くことも可能になる。となれば連邦側とてもはや 手出しできなくなるだろう」 「いや逆に連邦に宣戦し、これを撃滅し銀河統一を果たすことも」 「可能だ!」 「銀河統一か……」 「それを可能にするお方は、アレクサンダー殿下をおいて他にはない」 「これで決まりましたね」 「そのようですな」  一同にしばしの沈黙がながれた。 「しかし……ジョージ親王殿下には、いかにお話しすればいいのだ」 「ともかく最終的な結論はエリザベス皇女様にご判断を仰ぐしかないが……」  謁見の間  皇室議会の議員達が、つい先ほどまとまった結論を報告していた。 「皇室議会では、アレクサンダー殿下がもっともふさわしいと判断したのですね」 「はい。ジョージ親王殿下には遺憾ともしがたいのですが……」 「よろしい。よくぞ申してくれた。公爵とジョージには私から説得する」 「では……」 「皇位はアレクサンダー殿下に」 「はっ。早速全国民におふれを出します」  こうして、アレックス・ランドールすなわちアレクサンダー第一皇子の皇太子擁立が正 式に決定し、銀河帝国全土に知らし召された。  第七章 了
     ⇒第八章
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