第五章 アル・サフリエニ
U 「そんなことよりもさあ。帝国艦隊全軍を掌握したんなら、あたし達に援軍を差し向けら れるようになったことでしょう?」 「そうだよ。援軍どころか帝国艦隊全軍でもって連邦を追い出して共和国を取り戻せるじ ゃないか」 「しかしよ。共和国を取り戻せても、帝国の属国とか統治領とかにされるんじゃないの か? 何せ帝国皇帝になるってお方だからな」 「馬鹿なこと言わないでよ。属国にしようと考えるような提督なら解放戦線なんか組織し ないわよ。アル・サフリエニのシャイニング基地を首都とする独立国家を起こしていたと 思うのよ。周辺を侵略して国の領土を広げていたんじゃないかしら」 「アル・サフリエニ共和国かよ」  会話は尽きなかった。  アル・サフリエニ共和国。  乗員達が冗談めいて話したこのことが、やがて実現することになるとは、誰も予想しな かったであろう。  フランク・ガードナー提督にとって、アレックスは実の弟のように可愛がってきたし、 信頼できる唯一無二の親友でもある。解放戦線を組織してタルシエン要塞のすべてを委任 して、自らは援助・協定を結ぶために帝国へと渡った。そして偶然にして、行方不明だっ た王子だと判明したのである。  権力を手に入れたとき、人は変わるという。虫も殺せなかった善人が、保身のために他 人をないがしろにし、果ては殺戮までをもいとわない極悪非道に走ることもよくあること である。 「変わってほしくないものだな」  椅子に深々と腰を沈め、物思いにふけるフランク。  その時、通信士が救援要請の入電を報じた。 「カルバニア共和国から救援要請です」  またか……という表情を見せるフランク。  アレックスが帝国皇太子だったという報が入ってからというもの、周辺国家からの救援 要請の数が一段と増えてしまった。解放戦線には銀河帝国というバックボーンが控えてい るという早合点がそうさせていた。しかし、アレックスが帝国艦隊を掌握しようとも、総 督軍が守りを固めている共和国を通り越して、アル・サフリエニに艦隊を進めることは不 可能なのだ。  帝国艦隊が総督軍を打ち破るまでは、現有勢力だけで戦わなければならない。たとえ周 辺諸国を救援したとしても、防衛陣は広範囲となり、補給路の確保すらできない状況に陥 ってしまう。 「悪いが、これ以上の救援要請は受け入れられない。救援要請は今後すべて丁重に断りた まえ」 「ですが、すでにオニール提督がウィンディーネ艦隊を率いて現地へと出動されました」 「なんだと! 勝手な……」  頭を抱えるフランクだった。  当初の予定の作戦では、タルシエン要塞を拠点として、カラカス、クリーグ、シャイニ ング基地の三地点を防衛陣として、篭城戦を主体として戦うはずだった。  その間に、アレックスが帝国との救援要請と協定を結んで、反攻作戦を開始する。それ まではじっと耐え忍ぶはずだった。
     
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