第四章 皇位継承の証
XV  新たなる情報がもたらされた。  バーナード星系連邦において、クーデターが発生したというものであった。  一部の高級将校が決起して、軍統帥本部などの軍事施設を占拠して高級官僚を拘禁し、 国会議事堂、中央銀行、放送局など、軍事と政治経済の重要施設を手中に収めたのである。  総督軍の帝国侵略開始と時を同じくして決起したのは、総督軍からの鎮圧部隊の派遣が 困難な情勢となったことを見越してのことであろう。 「これで連邦側からの侵略の可能性は当分ないだろう。心置きなく総督軍と対峙する事が できる」  軍事クーデターが成功したとはいえ、政治経済の中枢を押さえただけで、これから国家 を立て直し、軍や艦隊を動かせるようになるにはまだまだ先の話となる。  マーガレットの第二皇女艦隊とジュリエッタの第三皇女艦隊とを併合し、これにラン ドール旗艦艦隊を合流させて、総督軍に対する迎撃艦隊とした。他の艦隊を加えなかった のは、戦闘の経験もなく脆弱すぎて被害ばかりが増えると判断したからだ。また解放戦線 に援軍を求めるにも遠すぎて無理がある。総督軍にはまだ二百万隻もの艦艇が残されてい る。それに対処するためにも解放戦線は動かせなかった。  陣容は整ったものの、すぐには出撃はできなかった。  国境を越えての大遠征となるために、補給を確保するための補給艦隊の編成と、燃料・ 弾薬・食料などの積み込みだけで三日を要した。  それらの準備が整うまでの時間を使って、アレックスの大元帥号親授式と宇宙艦隊司令 長官の就任式が執り行われることとなった。  宮殿謁見の間が華やかな式典の会場となった。  普段は謁見の間への参列を許されていない荘園領主や城主、そして下級の将軍達が顔を 揃えていた。祝いの席をより多くの人々に見届けてもらおうという配慮だった。 「アレクサンダー第一皇子、ご入来!」  重厚な扉が開かれ、儀礼用の軍服に身を包んだアレックスがゆっくりと緋色の絨毯の上 を歩んでいく。宮廷楽団がおごそかな楽曲を奏でている。やがて壇上の手前で立ち止まる アレックス。  参列者の最前列には皇女たちも居並んでいる。  大僧正の待つ壇上前にたどり着くアレックス。  ファンファーレが鳴り響き、摂政エリザベスが宣言する。 「これより大元帥号親授式を執り行う」  壇上の袖から、紫のビロードで覆われた飾り盆に乗せられて、黄金の錫杖が女官によっ て運び込まれる。錫杖は権威の象徴であり、軍の最高官位を表わしているものである。 「銀河帝国第一皇子アレクサンダーよ。このたび銀河帝国は、汝に大元帥号の称号を与え、 宇宙艦隊司令長官に任命する。銀河帝国摂政エリザベス」  別の女官が勲章を乗せた運び盆を持って出てくる。エリザベスは、たすき掛けの勲章を 受け取ってアレックスの肩に掛け、胸にも一つ勲章を取り付けた。そして豪華な織物でで きたマントを羽織らせて、黄金色に輝く錫杖を手渡した。  アレックスが与えられた錫杖を高く掲げると、再びファンファーレが鳴り響き、 「アレクサンダー大元帥閣下万歳!」 「宇宙艦隊司令長官万歳!」  というシュプレヒコールの大合唱が湧き上がった。  この儀式の一部始終は国際放映され、連邦や共和国へも流されたのである。 第四章 了
     ⇒第五章
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