銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅲ
2021.07.14

第八章 トランター解放




 サラマンダー艦橋。
「総督軍艦隊、リモコンコードを受信完了しました」
「各艦の指揮管制系統へのコードのセット完了を確認しました」
「よし。そのままで待機」
 というと、アレックスは指揮パネルの通信機を取った。
 通信相手は、サジタリウムの司令官である。

「私だ」
 受信機からアレックスの声が届いている。
「ああ、君か。準備は完了したぞ。この後はどうする。判った、任せる」
 通信を切ると同時に、
「全艦各砲台、コンピューターに指示された攻撃目標にセット・オン」
 すると砲撃管制官が声を上げる。
「しかし、この目標は?」
「復唱はどうした。言われたとおりにしろ!」
 怒鳴り散らすレイン少将。
「りょ、了解しました」
 通信士が報告する。
「サラマンダーより映像回線で通信が入っております」
「全艦隊に流せ」
「全艦隊にですか?」
「そうだ」
「了解」
 映像回線で通信が行われ全艦隊に放送された。
 そして、各艦の映像スクリーンに投影されたのは、まぎれもなくアレックスだった。
 スクリーンのアレックスが静かに語りだす。
『共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドールである』
 その姿に総督軍将兵のほとんどが叫喚した。
 なぜランドール提督が?
 全員がそう感じたはずである。
「どうしたんだ。なぜ敵将が出ているんだ?」
 監察官が叫んだ。
 平然とレイン少将が応える。
「軍事ネットをハッカーされたのでしょう。向こうにはハッカーの天才がいますからね」
 トランターの軍事ネットがハッカーされ偽情報に惑わされて、首都星の防衛艦隊が留守にしている間に、ワープゲートを奪取されて敵艦隊の侵入を許したのは、つい数時間前のことである。
 そして解放戦線・帝国連合軍が目の前に迫っていることも事実だった。
 納得する以外にはなかった。
 アレックスの声は続く。
『共和国同盟軍の将兵たちよ。今こそ立ち上がって連邦軍を蹴散らして、虐げられた国民達を解放し、この手に平和を取り戻すのだ』
 総督軍ではなく共和国同盟軍と呼称したアレックスの言葉に将兵たちは奮い立つこととなった。
『全艦隊、連邦艦隊に対して攻撃を開始せよ!』
 アレックスの攻撃開始命令にレイン少将も即座に対応する。
「全艦、攻撃開始!」
 一斉に連邦艦隊に対して砲撃を開始する共和国同盟艦隊。
 連邦軍艦隊は、ほとんど不意打ちを食らった状態で、指揮系統も乱れてやられ放題となっていた。
 まさかの寝返りになす術もなかった。
 その戦況はサジタリウム艦橋のスクリーンに投影されている。
「どういうことだ!」
 なおも事態を把握しかねている監察官。
「見ての通りですよ」
 平然と答えるレイン少将。
「共和国同盟艦隊の指揮系統はランドール提督に移ってしまったんです」
 ここではたと気づく監察官。
「さっきの通信か?」
「その通りです。艦隊リモコンコードというものをご存知ですか?」
「聞いたことはある」
「行軍や戦闘行動を整然と行うために、艦隊コントロールを旗艦に同調させるシステムです」
「それを作動させたということか」
「そうです。総督軍として再編成したとしても、艦の運用システムは旧共和国同盟軍のものをそのまま使用していた。それが裏目に出たわけです。システムの総入れ替えを行うべきでした」
 戦術コンピューターのクリーン再インストール。
 それはアレックスが一番気を使っていることであった。
 艦艇はコンピューターで動く。
 搾取した艦のコンピューターには、何がインストールされているか判らない。
 バグがあったり、ウイルスが仕込まれているかも知れない。
 アレックスが戦闘に勝利して搾取した艦は数知れず、しかしそのまま自軍に編入することはしなかった。必ずシステムをクリーンインストールしてきた。
 では総督軍の編成が行われた時に、なぜ連邦軍はそれを実施しなかったのか?
「それはできなかった。トランターに残っていたランドール配下の艦隊が、パルチザンとして反乱行動を起こして、その対処に翻弄されていたからだ」
「先見の明ということですね。ランドール提督は、この日のためにメビウス部隊を残したのです」
「そんなことはどうでもいい! 指揮系統を元に戻せ!」
「だめですよ。一度指揮権を移動すると、相手側が解除しない限り元に戻すことはできません」
「なんとかしろ。死にたいのか」
「私を殺しても無駄ですよ。すでにすべての艦隊の戦闘命令系統はランドール提督の指揮下にあります」
「馬鹿なことを言うな」
「共和国同盟艦隊の戦術コンピューターはランドール提督の旗艦サラマンダーに同調されているのです。戦術システムがそういう具合になっているのです」
「解除しろ!」
「お断りします」
「死にたいのか?」
「お好きなように」
「ならば死ね」
 銃の引き金に掛けた指に力を入れる監察官。
 突然、監察官に覆いかぶさった者がいた。
 副官である。
 監察官に気づかれないように、こっそりと近づき飛び掛ったのである。
「何をする!」
 暴漢に拳銃を撃とうとするが、直前に叩き落されてしまった。
 拳銃は床を転がってレイン少将の足元に転がった。
 その拳銃を拾い上げながら、
「形勢逆転ですね」
 監察官は副官によって床に押さえつけられて身動きが取れなくなっていた。
「拘禁しろ!」
 連絡を受けてやってきたSPに連れ出される監察官。
「やっと、厄介者がいなくなりましたね」
 副官が歩み寄ってきて語り掛けた。
「君のおかげだ」
「当然のことをしたまでですよ」
 スクリーンに投影される戦闘状況に見入る二人。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.07.14 08:12 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅱ
2021.07.13

第八章 トランター解放




 戦艦サジタリウムの艦橋内。
 正面スクリーンには、アレクサンダー皇太子率いる帝国・解放軍連合艦隊が迫っている姿が投影されている。
「帝国軍、停止しました」
「敵艦隊より降伏勧告が打電され続けています」
 通信士のその言葉には、早く結論を出してくれという悲哀にも似た感情が込められていた。
 目の前にいる艦隊は、総督軍二百五十万隻を打ち破った艦隊である。
 しかも、あの共和国同盟の英雄と称えられているアレックス・ランドール提督が率いているのだ。
 誰が考えても勝てる見込みはないと思えるだろう。
 そう……。
 司令官でさえ、そう思っているのだから。
 それを踏み留めさせているのは、連邦軍から派遣されて同乗している監察官の存在があるからである。
「司令官殿。判っておいでですよね」
 彼の名は、ユリウス・マーカス大佐。
 その手には拳銃が握り締められている。
 武器の持込が禁じられている艦橋において、監察官だけは武器の所持が許されている。
 そして今、その武器を構えて司令官に徹底抗戦を指図しているのだ。
 監察官の任務として、トランター総督府統帥本部からの指令を忠実に守ろうとしている。
 連邦軍三十万隻の将兵達は、本国において革命が起きた以上、ここを死守しなければ帰る場所はない。
 しかし旧共和国同盟軍の将兵達にとっては、銀河帝国は友好通商条約国であり、ランドール艦隊は同胞である。
 できれば戦わずに済めば良いと考えるのは至極当然のことであろう。
「私達に、あのランドール提督と戦えと命ずるのですか?」
 司令官のアンディー・レイン少将が念押しする。
「その通りだ」
 マーカス監察官は冷酷に答える。
 彼とて勝算はないことは判りきっていることである。
 ワープゲートを奪取されたと判った時に、奪還のために迎撃に出ることも考えたが、現れたのは銀河最強のアル・サフリエニ方面軍六十万隻である。残存の百万隻を持ってしても勝ち目のない相手である。
 そうこうするうちに遠征軍をものの見事に看破して、目の前に押し並べてやってきた。
 もはや逃げも隠れもできない切羽詰った状態である。
 まさか二百五十万隻の艦隊が百五十万隻の艦隊に敗れようとは思わなかったから、留守居役を任されたとしても、気楽に考えて何の策も講じていなかった。
 結局、ランドールは百二十万隻の隠し玉を用意していて、都合二百七十万隻の艦隊で当たったのだから勝つのは当たり前。
 残された道は、降伏か玉砕かであるのだが……。
 この際、かつての同胞同士で戦ってもらおうじゃないか。
 はっきり言って、旧共和国同盟がどうなろうと知ったこっちゃないというのが本音であろう。
「どうした? 出撃命令を出さないのか」
 拳銃を握る手先に力をこめるマーカス監察官。
 その時、指揮官パネルが鳴った。
 付帯している通話機に入電である。
 即座に艦隊リモコンコードによる緊急連絡であると気づくレイン少将。
 相手は誰か?
 艦隊リモコンコードによる緊急連絡を行える艦艇は、この付近にはいないはずである。
 同様の艦政システムを搭載していて、アクセスできる相手となると……。
 ランドール提督座乗のサラマンダーしかない。
 おもむろに送受器を取るレイン少将。
「わたしだ」
 あくまでも艦内連絡かのように振舞うレイン少将。
 この連絡手段を知らないであろうマーカス監察官に気取られないためである。
『解放軍司令のランドールです』
 感が当たった。
「ああ、君か。今忙しいのだ。用件は手短にしてくれないか」
『なるほど。そばに監察官がいるのですね。それも連邦軍で、徹底抗戦を?』
「そのとおりだ」
『まさか同胞同士で戦うつもりはないでしょう?』
「確かにそう願いたいものだよ」
『では、こうしませんか。こちらから艦隊リモコンコードを送信します。それを全艦隊に再送信して同調させてはくれませんか』
「するとなにか、君は徹底抗戦を進言すると言うのだな。勝てる見込みがあるというのか」
『おまかせください』
「判った。そうしよう」
『では、艦隊リモコンコードを送信します』
 レイン少将は指揮パネルを受信にセットした。
 ややあってコードは受信完了した。
 そしてマーカス監察官に向かって言った。
「部下の一人から意見具申がありました」
「で?」
「帝国軍は遠征軍と一戦交えた後で、兵士達も疲弊しているはず。しかもランドール提督にとっては、同胞同士の戦いは避けたいと考えるのが常識。そこが付け目で、十分互角に戦えるはずとね」
「ふん」
「というわけで、あなたのご意向通りに戦闘開始することにしました」
「そう願いたいものだな」
 マーカス監察官は、レイン少将とランドール提督との密約に気づいていない。
 これから起こることに目をむくことになるだろう。
 その後逆上した監察官が取りうる行動は予想だに難しくないが、将兵達の命を救うためにも、自らを犠牲にするもやぶさかではない。
「全艦戦闘配備! これより送信する艦隊リモコンコードに同調させよ」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.07.13 07:02 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅰ
2021.07.12

第八章 トランター解放




 決戦場を離脱してから、敵艦隊の攻撃を受けることもなく首都星トランターへと近づきつつあった。
「メビウスとは連絡が取れないか?」
「はい。ジャミングがひどくて」
「そうか……まあ、便りのないのは良い便りというからな」
 例え通信手段が妨害されていたとしても、いくらでも連絡手段はある。
 何せ彼らは、ネットワークを自由に渡り歩くことのできる連中なのだ。
 通常通信による交互通話はできなくても、情報網を撹乱・操作して、いくらでも連絡を取ることができるはず。
 それをしないのは、計画が予定どおり順調にはかどっていて、連絡の必要性がないからである。
 その綿密なる計画は、アレックスが絶大なる信頼を預けている、レイチェル・ウィング大佐の脳裏の中にある。
 敵の只中に送り込んで、のっぴきならぬ背水の陣を任せたのも、その信頼の証。
 万が一、寝返ったとしても恨みはしない。
 それだけの覚悟があった。
「提督、何をお考えになっているのですか?」
 パトリシアが怪訝そうに尋ねた。
 どうやら深刻そうな表情になっていたらしい。
 今回の作戦にはパトリシアは、作戦参謀として参画していない。
 心苦しい判断ではあったがいたし方のないこと。
「今頃、彼らはどうしているだろうかと思っていたのさ」
 当たり障りのない返答をするアレックス。
「そうですね。フランソワも大役を任されて奮闘しているでしょうね」
「ああ、そうだな……」
 遠きそらから願うだけである。

「前方に艦影! トランター守備艦隊かと思われます」
 正面スクリーンに投影される敵艦隊の艦影。
「艦数、およそ百万!」
 こちらの勢力は、アル・サフリエニ方面軍が抜けて百二十万隻である。
 艦数ではほぼ互角とはいえ、総督軍と一戦交えたばかりで、将兵達も疲弊していると思われる。
 敗勢を逆転勝利したことで、士気は高まっているだろうが、無理強いはしたくない。
「無駄な戦いはしたくないな……。交渉を呼びかけてみよ」
 守備艦隊は、旧共和国同盟軍が七割以上を占めていた。
 同胞同士の戦いは、敵味方共々避けたいと考えるのが尋常であろう。
 交渉次第では、無血停戦も可能。
 問題は三割の連邦軍であろうが、旧共和国同盟軍が味方についてくれれば何のこともない。
「応答ありません」
「艦隊の動きも見られません。首都星トランターの前面に布陣したままです」
「そうか……。参謀達の間で論議紛糾して、結論が出せないでいるのかも知れないな」
「あるいは連邦軍の監察官が張り付いているのかも知れませんよ」
「監察官か……」
 艦隊司令官には、統合参謀本部からの指令無視や反乱を防ぎ監視するための監察官が同行することになっていた。
 以前にも第十七艦隊司令官になったアレックスに同行していた監察官が、ニールセン中将の密偵として抹殺しようとしたことがあった。
*第一部 第十八章 監察官
 同様に旧共和国同盟軍の司令官にも、連邦軍の監察官が張り付いていて、総督軍の命令を遵守するように働きかけているだろうことは、想像だに難しくない。
「しばらく様子を見よう。全艦停止だ」
「戦闘態勢は?」
「必要ない。それより、同盟軍側の総指揮艦を割り出してくれ」
「三分ほどお待ちください」
 アレックスの乗艦するサラマンダーは、共和国同盟軍の朋友艦であり、艦体を動かす艦政システムコンピューターはまったく同じものを搭載している。
 トランター滅亡後に艦政システムの改造が行われていない限り、何らかのアクセスが可能なはずである。
「艦体リモコンコードですね」
 パトリシアは気づいているようであった。
 数百万隻もの艦隊が整然と行軍するには、個々に判断して行動していては、列が乱れたり最悪接触事故を起こしかねない。
 そこで重要なものが【艦隊リモコンコード】と呼ばれるものである。
 旗艦より発信されるこのリモコンコードに同調させることによって、個々の艦隻同士の相対距離を自動的に調整して衝突を回避すると共に理路整然と行進が可能になる。いざという時には旗艦に呼応して効率の良い戦闘を行うことができる。
「指揮艦が判りました。旧第一艦隊第十八部隊の旗艦、戦艦サジタリウム。司令はアンディー・レイン少将」
 共和国同盟軍には定員二十七名の准将と九名の少将がいたが、知らない名前だった。
 同盟壊滅後の総督軍への編入によって昇進したものと思われる。
 将軍の名前は全員覚えているが、定員のない佐官クラスまでは覚えきれない。
「しかし少将か。前職は大佐級以下のはずだよな。戦死してもいないのに、二階級特進とはね」
 将兵達を手なずけるための特別昇進が実施されたのだろうが、その給与体系はどうなっているのかと心配したりもする。
 ただでさえ、ベラケルス星域決戦において壊滅した三百万隻の艦隊に従軍して戦死した六千万人に及ぶ将兵達の遺族年金だけでも莫大な金額になるはずである。
 共和国同盟軍の給与規定や年金条例に従うならば、とても賄い切れない財政負担を強いられるはずである。
「ともかく連絡を取ってみるか。アクセスコードが変更されてなければ良いが」
 アレックスは、指揮パネルを操作して、サジタリウムへのアクセスを試みた。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.07.12 08:21 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

- CafeLog -