梢ちゃんの非日常 page.1
2021.07.19

梢ちゃんの非日常(ルナリアン戦記前章譚)不定期連載


page.1


 真条寺家の広大な屋敷。

 両手を水平に広げて飛行機の格好をして廊下を走る梢。屋敷に隣接する飛行場に発着する飛行機を毎日のように見ているので、その真似をしているのだ。
『お嬢さま、廊下を走られては危ないですよ』
 通り掛りのメイドが注意するが聞こえていない。目指すは母親のいる三階バルコニーへ一直線である。
 二歳九ヶ月の梢にはまだ階段はまともに登れないので、エレベーターが設置されている。実際は梓の幼児期からあったが、梢の誕生にあわせて最新型に作り替えられた。中に閉じこめられてもすぐにわかるように、前面総ガラス張りになっており、開閉する扉の隙間に指を挟んだりしないような各種の安全装置も装備されている。
 背の低い梢のために専用の操作盤が設けられているが、警備室で映像と音声がモニターされているので、両手が塞がってスイッチを操作できない時でも、モニターに向かって移動したい階を告げれば、警備室から操作してくれる。
 そのエレベーターに乗り込み操作スイッチを押して三階に移動する梢。三階といってもベルサイユ宮殿にも匹敵するこの豪邸である。実際には通常のビルの五階に匹敵する高さがある。

 バルコニーのガーデンテーブルに腰掛け、休憩中の渚と世話役の二人。紅茶をすすり談笑している。
 そこへ梢がやってくる。
『梢ちゃん、いらっしゃい』
 しかし母親のいないのに気づいて、
『ママは?』
『すぐに来ますよ。おやつ先に食べる?』
『ううん。ママと一緒に食べる』
 と言いながら、梓がいつも座っている椅子にちょこんと腰掛け、足をぶらつかせている。
『梢ちゃんは、ちゃんとママを待ってるのよね』
『うん』
 そこへ梓がやってくる。
『ママ!』
 椅子から飛び降りて梓の元に駆け寄る梢。
『梢ちゃん、お待たせ。ちゃんとおてては洗った?』
『うん、洗ったよ。ほら』
 といってその小さな手のひらを梓に見せた。
『いいわ。じゃあ、おやつにしましょう』
 手を引いて椅子まで行き、先に腰を降ろしてから、梢を抱きかかえて自分の膝の上に乗せてやる。そうすることでテーブルの高さが丁度良くなり、おやつを食べるのに楽な姿勢がとれるのだ。おやつの時間はいつもそうしてやっている梓であった。
『今日のおやつは、梢ちゃんの大好きなクリームパフェよ』
『わーい!』
 小さな両手を拍手するようにして喜ぶ梢。
 梓がメイドに合図すると、ワゴンの上の保冷容器からクリームパフェの盛られたグラスが運ばれてくる。目の前に差し出される大好きなクリームパフェだが、梢はすぐには手を出さずに、じっと梓を見つめている。
『はい。梢ちゃん、食べていいわよ』
 梓が銀製のスプーンを手渡してやると、おいしそうに食べはじめる。
 梓の許可なく、勝手に食べないように躾られているのだ。
 クリームパフェも好きだが、梢にとっては母親の膝の上というのが、もっと大切なことであった。母親の愛情を直接肌で感じられる最上の場所にいることのほうが、幸せと感じる至上の時間なのである。母親に抱かれて食べるクリームパフェはもっとおいしい。だから先に食べることを勧められても、じっと待つことを選択したのである。
 梓は紅茶をすすりながらも、時々、クリームでべたべたになる梢の口元をナプキンで拭いてやっている。
 梓はこのおやつの時間を大切に考えている。
 講義があってコロンビア大学に通っている時や、屋敷にいて執務中の時は決して梢を執務室に入れさせずに、面倒を専属のメイド達に任せている。すぐ近くにいるのに会えないということは、母親に甘えたい年頃の娘にとってはかなりのストレスを感じているに違いない。
 だからこそ休憩時間には、梢におやつを与えつつ、膝の上で食べさせるというスキンシップをはかっているのだ。自分が母親に愛されているのを実感させ、安心させるためのものだった。
『ママ、ちょっと待っててね』
 といって、クリームパフェを食べおわった梢が、梓の膝元を降りて廊下の方へ出ていった。
『また、絵本読んでね、攻撃でしょうか』
『あはは。たぶん……』
『長引くと、執務に差し障るのよね』
『でもね。今が情緒性の発達で一番大切な時期なのよ。絵本は情緒性・想像性・向学心を伸ばすには格好の題材なの。そして母娘のスキンシップもね』
『しようがないわね。グラン・マとしては、孫娘の心の発達を応援するしかないからね』
『あたしもね、幼い時分にお母さんに絵本を読んでもらった記憶がかすかにあるのよ。でも断られて寂しい思いをした記憶がない。多分あたしが絵本を読んでとせがんた時、どんなに忙しくても読んで聞かせてくれたんじゃないかな。そうでしょ、お母さん?』
『そうだったかしら……』
『そうですよ。今の梓さまと同じような事をおっしゃられてました。絵本を読んでとせがんでいる時こそ、向学心を伸ばす絶好の機会なのよってね』
 梓の幼年時代を良く知る麗香が答えた。

『ところで、話しは変わるんだけど』
『なに?』
『そろそろ梢ちゃんの世話役となる人を選出しなきゃいけない時期よね』
 渚が切り出した。
『そうなのよねえ。でも、恵美子さんや麗香さんみたいに、能力があってなおかつ長期に引き受けてくれる人を探すのは骨が折れるのよね』
『せっかく引き受けてくれても、結婚退職されちゃ困るわよねえ。結婚はしてもいいけど、引き続きやってくれる人でないと』
『絵利香さんはどうかしら』
『絵利香はだめ!』
『どうして? 世話役には申し分ないと思うんだけど。梢ちゃんもなついているし』
『世話役になれば、主従関係が生じるじゃない。これまで通りの交際ができなくなるわ。十八年間の親密な友情関係を失いたくないの』
『そうか……』

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11
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十四章 アクティウム宙域会戦 Ⅰ
2021.07.18

第十四章 アクティウム宙域会戦





 アレクサンダー皇太子が動き出したという情報は、すぐさまロベスピエール公爵の知るところとなる。
「反乱軍が動いたというのか?」
 首都星を抑えている摂政派から見れば、皇太子派の方が反乱軍である。
「皇女艦隊百四十万隻に、皇太子率いる共和国同盟軍六十万隻、総勢二百万隻に及びます」
「ハロルド侯爵の軍は動かないのか?」
「はい。アルビエール侯国軍は、総督軍の残存部隊が侵入してくるのを監視するために残してきたようです」
「わが軍の総数は三百万隻だったな」
「左様にございます」
「戦術理論など考えずとも、正面決戦に誘い込んでガチンコ勝負で挑めば、数の戦いで勝てるのではないか?」
「その通りでございます」
「よし。全艦に迎撃準備をさせろ!」
「かしこまりました!」
 公爵の命令によって、摂政派に属する艦隊の集結と提督らの招集がなされた。

 アルデラーン宮殿謁見の間に、ロベール皇帝(ジョージ親王)の御座たてまつって、出陣式が行われている。
 居並ぶ将軍たちの前で、玉座の傍に立つ公爵が宣言する。
「反乱軍がついに、我らが聖都に向けて艦隊を差し向けてきた!」
「おお!」
 その言葉にしばし騒めく宮中の将軍たち。
「がしかし! 慌てる必要はないぞ。我が軍三百万隻に対して、反乱軍は二百万隻であるから恐れるに値はない。正々堂々と戦って蹴散らしてくれようぞ」
 再び喝采があがる。
「艦隊の総指揮官には、カスバート・コリングウッド提督にやってもらう」
 指名されて、一同の最前列中央に進み出るコリングウッド提督。
 彼は、ジュリエッタ皇女艦隊の司令長官ホレーショ・ネルソン提督の片腕だった人物で、乗艦は戦列艦ヴィル・デ・パリスである。
 公爵が彼を総指揮官に任命したのは、ネルソン提督とのライバル意識を利用しようと考えたのだろう。
 ワゴンが運ばれてきて、将軍たちに酒入りのグラスが手渡される。
「この一戦に皇太子派の殲滅を! 乾杯!(Cheers!)」
 公爵がグラスを高く捧げ持って乾杯の音頭を取る。
「Cheers!」
 将軍たちも同様に乾杯の仕草を真似て、そしてグラスを床に叩きつけて割った。


 摂政派が行動を起こした報を受けて、皇太子派も動く。
「出陣式が行われたようです。この後、二三日中に出動開始となるでしょう」
「二三日中ねえ……まあ、戦争したことのない連中じゃ仕方ないか」
 と含み笑いを漏らすアレックス。
「我が艦隊なら六時間以内には動けますよ」
 マーガレットが応答する。
「同様です」
 ジュリエッタも同意する。
 ランドール艦隊ならどうかというと、士官学校時代模擬戦闘の頃から時間厳守が守られてきているから、出撃発動から三十分以内には行動できるだろう。

 数時間後、ランドール配下の艦艇の出撃準備は完了した。
 サラマンダーの側方にインヴィンシブルとアークロイヤルが仲良く並んで出撃命令を待つ体制に入っている。
「全艦、足並み揃いました」
 パトリシア報告する。
「よろしい。全艦微速前進せよ!」
「了解、全艦微速前進!」
 復唱するパトリシア。
「微速前進!」
 二百万隻の艦艇が静かに帝国本星に向けて静かに動き出した。

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2021.07.18 08:57 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
ルナリアン戦記
2021.07.17

この物語は、梓の非日常から銀河戦記/鳴動編へと連なる、地球から宇宙へと飛び出す人類の物語です。

梢ちゃんの非日常
(ルナリアン戦記前章譚) 

ルナリアン戦記
銀河戦記/波動編
銀河戦記/鳴動編
銀河戦記/脈動編


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