銀河戦記/拍動編
2022.10.27

銀河戦記/拍動編

序章
第一章 
第二章 
第三章 
第四章 
第五章 
第六章 
終章 エピローグ



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銀河戦記/脈動編 最終章・和解の地にて Ⅲ(完)
2022.10.22

最終章・和解の地にて





「これを見て頂けますか」
 トゥイストーは、くるりと背を向けて計器を操作しはじめた。
「機器が動くのですか?」
「はい。いわゆる動態保存というやつでね、こんなこともあろうかと、整備をしていたのですよ」
 静かな船内に、機器を操作する音が響く。
 薄暗い中、モニターが明るく輝いて、映し出された人物があった。
 その人物を見て驚くトゥイガー達イオリスの四人。
「ランドール提督!」
 天の川銀河において、トリスタニア共和国同盟最高司令官であり、銀河帝国皇太子にして宇宙艦隊司令長官。
 三百年以上続いたバーナード星系連邦との戦争を終了させ、銀河の統一に導いた英雄である。
 モニターを一旦止めてから、トゥイストーは語る。
「この移民船をこのまま朽ちさせるのはもったいない。コンピューターは子孫の教育などに役立つし、いつかまた飛び立つかも知れないということで、常時修理整備して動態保存していたのです。そんなある日、コンピューターが自動起動して、このモニターが映し出されたのです。どうやら映像の主は、一万年経過後に自動起動するようにシステムを組んでいたようです」
「なるほど、先読みの鋭いランドール提督らしいですね」
 モニターの英雄が語り掛ける。
『私は、アレックス・ランドールである。私はすでにこの世にはいない。おそらく一万年後の世界で、どのようなことが起こっているかは知るすべもない』
 ランドール提督の素顔は、トゥイガー達は見知っているが、他の三民族は初見である。歴史上の人物で、アルデノン共和国を建国した人物であることしか知らない。
「あらためて確認しましょう。この方は、我々をこの銀河に誘(いざな)ったアレックス・ランドール提督です。そしてそれは、あなた方の指導者でもあったようです」
 言語学者のクリスティン・ラザフォードが確認する。
「この方が、英雄ランドールですか……」
 ヴィルマー・ケルヒェンシュタイナー大佐が呟くように言った。自国の英雄として文書記録には残っている人物であるのだが、一万年前のこととて写真データなどは風化消滅していた。
 系統的に繋がるミュータント族も植人種も同様の思いであったろう。
 話は続いている。
『一万年後の世界が、平和なのか戦乱に荒れ狂っているのか想像だにできない。最悪人類は滅んでいるのかも知れない。願わくばすべての民族が共存共栄していることを望む……』

 映像が終わった。

 三つに分裂して長年戦いあった国家間を一つにまとめあげた英雄だけが醸し出す雰囲気が漂っていた。
 映像ながらもこの場にいる人々に連なる英雄の登場で、連帯感のような感情が沸き上がるのを感じているようだった。
 しばらく無言のまま見つめっていた。

 突然、トゥイガーの携帯無線が鳴った。
 サラマンダーからの緊急連絡のようだった。
「ちょっと失礼します」
 と言って、携帯を取った。
「どうした?」
『未確認の艦隊が接近しています』
 その声に、ケルヒェンシュタイナーが応えた。
「私の味方艦隊のようです。救援に来てくれたようです」
「そのようですね」
「一旦艦に戻って、艦隊と連絡を取りましょう。戦いは避けたいですからね」

 一旦解散して、それぞれの艦に戻る一行。

 ケルヒェンシュタイナーは、旗艦ヴァッペン・フォン・ハンブルグに戻り、壊れていない無線で救援部隊に連絡を入れて、停戦指示を出した。
 ドミトリー・シェコチヒンも、軽巡洋艦スヴェトラーナから衛星軌道を周回している艦隊に待機命令を。

 そして、トゥイガーはサラマンダーから、万が一の場合に備えることにした。
「アルビオン艦隊より入電しました」
 通信士のフローラ・ジャコメッリ少尉が伝える。
「繋いでくれ」
「繋ぎます」
 通信用モニターに、ケルヒェンシュタイナーが映る。
『今、救援艦にいる。事情はすべて了解してもらった。安心してくれ、戦いはない』
「それは結構ですね」
『我々は、一旦本国に戻って和平交渉を上層部に進言することにするよ」
「よろしくお願いいたします」

 続いてドミトリー・シェコチヒンから連絡が入る。
『我々も救援艦を要請した。到着を待つことにする』
「分かった」

 こうして、それぞれの本国に戻った彼らの精進努力によって、数年後に和平交渉が始まった。
 いずれマゼラン銀河にも平和が訪れるだろう。


 完



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11
銀河戦記/脈動編 最終章・和解の地にて Ⅱ
2022.10.15

最終章・和解の地にて





 開拓移民船。

 それは、ここに集ったすべての人々の寄る辺となっていた船。

「遥か一万年前に、天の川銀河からこの地へと渡ってきた船です」
 族長トゥイストーが、横たわる船を指さしながら皆に伝えた。
「それは真か?」
 ドミトリーが驚きの声を上げた。
 一万年前のある日、かつてのミュータント族が、アルデノン共和国にただ一隻あった開拓移民船を略奪して、宇宙へと飛び出した船でもあるからである。
「調べてみます」
 技術主任のジェフリー・カニンガム中尉が、船に駆け寄って船体を調べ始めた。
 こびり付いている植物の蔦を掻いて地肌を露出させて、船体に刻まれているはずの機体番号を読み取ろうとしていた。
 それは多少擦れてはいたが、何とか読み取れたようだ。
「この開拓移民船は、ランドール提督が乗船していた船に間違いありません」
 その声は、感動に震えていた。
「そうか……」
 トゥイガー、ケルヒェンシュタイナー、ドミトリー、それぞれ何か言いたげだが言葉が出ないという表情をしている。

「中へ案内しましょう」
 トゥイストーが搭乗口を開けて、船内へと導いた。
 移民船の中には、一行にとって馴染みのある見慣れた機器が並んでいる。
 たどり着いた場所は、船を操作する制御盤の並んだ船橋であった。
「まあ、適当な椅子に座ってくだされ」
 言われたとおりに、それぞれ着席する。
「まずは、私どもについて話しましょうか。植人種となったいきさつをね」
 そう言うと、訥々(とつとつ)と話し始めた。

 かつて、アルデノン共和国の移民船を分捕り、宇宙へと脱出したミュータント族がたどり着いたのが、生存に可能な水と空気のある環境を備えた居住惑星、後にサンクト・ピーテルブールフと命名されることとなる惑星でした。
 首領ドミトリー・シェコチヒンの指導のもと、開発と人口殖産が進められ、やがて再び宇宙へと進出することが可能となりました。
 新造の移民船が多方面の宇宙へと進出してゆき、記念となるべきこの移民船も駆り出されることとなったのです。
 そして、この地を訪れることとなったのですが……。
「冬虫夏草の巣窟だったということですね?」
 生物学者のコレット・ゴベールが口を挟んだ。
「その通り」
「ちょっと質問よろしいですか?」
 今度は言語学者のクリスティン・ラザフォードが質問する。
「何かね?」
「その冬虫夏草にしろ海の魚にしろ、生命の誕生には神がかりな確率だと思うのですが」
「移民船は、航行中に定期的にゴミを排出するからね。一万年前に、惑星アルビオンにたどり着く途中で排出したゴミがこの惑星に落下して、そこに付着していた生物から新たな生命が発生したと考えられる」
「それは十分考えられますね」
 コレットが頷く。

 何もしらない人々は、開拓精神に燃えながら植林や耕作を始めたのだが、一人また一人と病に臥していきました。
 冬虫夏草に体内を寄生されてしまったのです。
「宇宙に脱出することはできなかったのですか?」
「最初は風邪のような病気だと軽く考えていましたからね。気が付いた時には、誰も動けなくなっていました。船を動かせる者が全員倒れてしまったのです」
「それでは仕方がありませんね」
 話は続く。
 最後に一人だけ生き残ったのは生物学者でしたが、甲斐もなく発症の前兆を見せていました。
 絶望した彼は、自殺装置を作って実行したものの、シダ植物は必至の抵抗を見せて遺伝子の一部を預けて同体化してしまったのです。
 目を覚ました彼は、動物体と植物体が共生する植人種となったことに気が付きました。
「なるほど、元々は我々と同族だったというわけか……。実に興味津々な出来事だったのだな」
 ドミトリーが納得したように感心している。
 ミュータント族と植人種の関係が明らかにされたが、他の人々もそれぞれ繋がりがあることも明らかにされた。


 ランドール提督の乗っていた開拓移民船がすべての民族を繋いでいた。



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