銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅸ
2021.04.10

第十一章 帝国反乱




 アルビエール侯国首都星サンジェルマン、執務室で談話するアレックスとハロルド侯爵。
「どうやら摂政派は、サセックス侯国を自陣に取り込もうと画策しているようです」
「当然でしょうね。味方は多ければ多いほどいいですから」
「こちらも交渉した方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうなのかもしれませんが……。紛争が泥沼化した際には、仲裁役として中立を保っていて欲しいものです」
「しかし反乱を起こした側にとっては、溺れる者は藁をも掴むです」
「そうですね。取りあえずは、保険を掛けておくとしますか」

 数日後。
 サセックス侯国のエルバート侯爵の館を訪れた使節団があった。
 使節の代表は、ロベスピエール公爵の懐刀のマンソン・カーター男爵である。
 応接室で応対するエルバート侯爵。
「早い話が、味方になれということですかな」
「その通りです」
「我が国が、バーナード星系連邦に対する盾になっていることはご存じですよね」
「はい。しかし連邦は、革命直後で侵略する可能性はありません」
「それは分かっております。とはいっても、アルビエール侯国側にしても、同じことを考えておりましょう。どちらか側の肩を持つというのは、不公平というものです」

 数時間後。
 館から出てくる使節団。
「想定通りだったな」
「仕方ありませんね。やりますか?」
「無論だ。後はドレーク提督に任せよう」
 やがて乗ってきた車で帰ってゆく。

 宇宙空間に十二隻の宇宙船が停止している。
 その中心にフランシス・ドレーク提督の乗船する私掠船カリビアン号。
 かつて海賊として帝国内を荒らしまわった船である。
 久しぶりに仲間を招集して海賊団を結成したのだった。
 船橋では、今しがた通信が終わったばかりのところ。
「男爵は、説得に失敗したか……。まあ、想定内だ」
「次は我々の番ですね」
「標的は今どこにいる?」
「今の時間は、女学院にいるはずです」
「よし! 先に潜入している奴と連携して、下校するところを襲うぞ!」
「彼女は、送り迎えの車で通学しています」
「運転手は殺しても構わん。娘だけ誘拐できれば良い」

 数時間後。
 数隻の高速艇が惑星へと降下していった。

 女学院から公爵家へと向かう自動車。
 車内で本を読んでいる少女。
 その自動車の前方に出現する高速艇。
 道を塞ぐように停止する。
 何事かと車を降りてくる運転手だったが、バタリと地面に倒れてしまう。
 高速艇から数人の男達が降りてきて、自動車を取り囲む。
 怯えている少女。
「お嬢さま、お迎えに参りました」
 ドアを開けて、降車を促す男。
「おとなしくして頂ければ、危害は加えませんから」
 逆らってもしかたがないと思った少女は、言われるままに男達に着いてゆく。

 少女を乗せた高速艇は上空へと飛び去り、待機していた私掠船に合流する。
 やがて、どこかへと消え去った。

 その私掠船の後を密かに追跡する一隻の船。
 その機影はレーダーからは確認できず、肉眼でも視認できない。
 歪曲場透過シールドで守られていた。

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2021.04.10 06:31 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅰ
2021.04.09

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 シャイニング基地に接近する連邦艦隊。
 第十七艦隊とシャイニング基地住民の撤収が完了して五時間余りが過ぎ去っていた。
 そんな状況を知らずか慎重に艦艇を進めている連邦艦隊。
 総勢三個艦隊を率いるのは、タルシエン方面軍司令長官ハズボンド・E・キンケル大将である。
 一向に進まない共和国同盟への進駐に業を煮やしついに長官自らが腰を挙げ、シャイニング基地攻略の陣頭指揮に出陣したのである。
「どうだ」
「索敵に出した先行艦によれば、艦船はおろか哨戒機すらも見当たらないとの報告です」
「こちらの艦隊数に恐れをなして撤退したか」
「数では三対一ですからね」
「さすがに逃げ足だけは速い奴等だ」
「奇襲攻撃が専門の連中ですからね。正面決戦となれば数に劣る彼らが勝てる見込みはないでしょう」
「どこかに潜んで隙をうかがっているかもしれない。哨戒行動を怠るなよ」
「かしこまりました」
「しかし、惑星からの攻撃がないな」
「そうですね。地上には五個艦隊を持ってしても、攻略不可能とさえ噂されている防空システムがあります。対軌道迎撃ミサイルくらい飛んできてもよさそうですが。とっくに射程内に入っているはずです」
「全軍撤退の際の誤射を防ぐために、迎撃システムを遮断していたのかも知れない。部隊を降下させる前に、無人の艦艇を降ろして確認してみろ」
「早速手配します」

 数隻の戦艦から、無人の探査機が降ろされていく。
「どうだ?」
 スクリーンに映る探査機の様子を伺いながらオペレーターに尋ねる副官。
「何の反応もありませんねえ。迎撃システムからの探査レーダーなどの電波も感知できません」
「つまり迎撃システムは停止していると見るべきだろうな」
「おそらく……」
「よし、引き続き探査を続けろ」
「了解!」
 向き直って司令官に伝達する副官。
「お聞きのように、基地の防衛システムは停止しているようです」
「うむ。ごくろう……揚陸部隊を降下させろ。安全が確認され次第、我々本隊も着陸するとしよう」
「はっ。揚陸部隊を降下させます」
 揚陸部隊に降下命令を下す副官。
 艦隊から揚陸部隊が降下体勢に入った。
「しかしなんでしょうねえ。こんなにもあっさりと基地を放棄してしまうなんて、さすがランドールというか、考え方には理解しがたいところがあります。確かランドールはニールセン中将から睨まれて無理難題を押し付けられていると聞き及んでいます。ニールセンの命令に逆らっての判断だと思いますが、これでは自らニールセンに良い口実を与えるだけだと思うのですが」
「そうだな。この撤退は奴の独断だろう。ニールセン、いや軍部の誰だってこの要衝のこの基地を手放すはずがない」
「いわゆる敵前逃亡ですね。これは重罪ですよ、銃殺されても文句は言えない」
「ランドールは何を考えているか計り知れませんからね。何か企んでいるかもしれません」
「あり得るな。慎重に慎重を期していこう」


 一方、クリーグ基地では、フランク・ガードナー准将の第八艦隊六万隻が、約二倍の十三万隻の敵艦隊に包囲されていた。
 旗艦ヒッポクリフの艦橋で指揮を取るフランク。
「全艦、砲撃準備」
「敵艦隊二十一宇宙キロまで接近。まもなく艦砲の射程内に入ります」
「シャイニング基地からの連絡は?」
「ありません。依然として通信途絶」
「うーん、なんだろうなあ……。連絡がないとはおかしいぞ。距離的にあちらの方が先に敵艦隊と接触するはずだし、アレックスなら、何かしらの情報を送ってくれてもいいのだが」
「完全に無線封鎖している模様です」
「うーん。情報が欲しい」
 腕組みをしながらスクリーンを見つめているフランク。
「それにしても敵は約二倍の勢力……いつまで持つかな」
 部下への手前、声にこそ出さないが、この状態では完全に負け戦になることは明白だった。無論部下だってそれくらい知っている。それでも黙って自分についてきてきてくれていた。自分を信頼してくれている部下を持って、司令官として感激ひとしおである。この第八艦隊の司令官として赴任してきた時から、何のトラブルもなく前司令官からの引継ぎが行われたのは意外だった。
「やはりニールセンから疎まれている同じ第二軍団という仲間意識があるようだ。そして軍団を統率するトライトン少将の配下でもあるからだろう。だからこそ、一人でも多くの将兵を助けたいのだが……」
 戦わずして逃げ出す手もあった。
 しかしそれでは第八艦隊という名に汚名を着せることになる。前任者が守り続けてきたものを失いたくなかった。
 最後の最後まで諦めずに戦い、その中に勝機を見つけて突破口を開く。それがフランクの身上であり、ここまで昇進してきた実績もそこにあった。
「俺はランドールと違って逃げるのは嫌いだからな」
 思わず呟いて苦笑するフランク。
「どうなされました?」
「いや何でもない」
 首を傾げていぶかる副官には、フランクの心情は伝わらないようだ。

 スクリーンに投影されている敵艦隊のマークが赤く変わった。
「敵艦隊。射程内に侵入!」
 艦橋内の空気が緊迫感の最高に達した。
 一斉にフランクの指示を待って待機するオペレーター達。
 腕組を外し、右手を前方水平に差し出すようにして命令を下すフランク。
「全艦攻撃開始!」
 と同時にオペレーター達が一斉に動き出す。
「全艦攻撃開始!」
「艦首ミサイルを三十秒間一斉発射。その直後に艦載機全機突入せよ」
 同盟側の攻撃開始とほぼ同時に敵艦隊も攻撃を開始した。
 全艦から一斉に放たれるミサイル群が、敵味方の艦隊の中間点で炸裂し、華々しい明滅の光を輝かせていた。
「艦載機、全機突入せよ」
 敵艦隊に向かって勇躍突撃する艦載機。

 戦闘開始から五分が経過した。
 ヒッポクリフの艦橋にて、形勢不利な情勢に心境おだやかでないフランク。
 周囲を写している映像の中の味方艦船が被弾し、炎上や撃沈されていく模様が繰り返されている。
 オペレーター達の艦船や戦闘機への指示命令や報告の声が次々と聞こえてくる。
「戦艦ドナウ、撃沈」
「重巡ボルガ、被弾にて戦闘不能」
「粒子ビーム砲、エネルギーダウン。再充填にかかります」
『こちらカミングス。弾薬を撃ち尽くした。これより一旦帰還する』
「カミグストン編隊へ。帰還を承認した。急ぎ帰還せよ」
「了解、これより帰還する」
 敵機の追撃をかわしながら、母艦へと帰還するカミングス編隊。
「高射砲、艦載機を援護射撃だ」
 帰還しようとするカミングス編隊の後方から追撃する敵機に対し、レーザーパルス砲による援護射撃が開始された。一斉掃射を受けて次々と撃墜されていく敵艦載機。その間にカミングス編隊は次々と母艦へ着艦していく。
「状況はどうか?」
「何せ数では、二対一ですからね。いつまで持ち堪えられるか」
 士気の低下を招く弱気な発言をする副官に対して、叱責の言葉をためらうフランクだった。
 敗北への道を突き進んでいるのは明白な事実であり、それを覆すだけの手段もないからである。
 敵艦隊の布陣が両翼に徐々に広がってきていた。数に勝るために、完璧な包囲陣を敷いて、脱出不可能にするためである。それに従って側面からの攻撃も始まりつつあった。

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2021.04.09 09:37 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十八章 監察官の陰謀 Ⅵ
2021.04.08

第十八章 監察官の陰謀




 艦橋内に響く銃声。
 沸き起こる悲鳴。
 艦橋は騒然となった。

 だが、床に倒れこんだのは監察官の方だった。
 腕を撃ち抜かれて血を流していた。
 監察官が持っていた銃が床に転がっている。
 一同が銃が放たれた方角に振り向くと、そこには部下の憲兵隊を従えたコレット・サブリナ大尉が銃を構えていた。その銃が監察官の腕を撃ちぬいたのである。

 彼女の正式な身分は、共和国同盟軍情報部特務捜査科第一捜査課艦隊勤務捜査官。
 艦隊組織内において、監察官同様に武器を常時携帯することを許可されている唯一の人物であった。
「なぜ、おまえがここにいる。ここは、一介の捜査官が入れるようなところじゃないはずだ」
「レイチェル・ウィング少佐の依頼を受けての特務捜査権を執行しております」
「特務捜査だと?」
「暗殺です」
「な、何を言うか。第一、情報参謀に特務捜査権を依頼する権限などない」
 それにアレックスが答える。
「それがあるんだな。特務捜査権を彼女に依頼できるのは、私の他には艦隊司令官付副官がいる」
「提督やウィンザー少佐がサブリナ大尉に近づいた形跡はない」
「そうか、やはり部下に行動を監視させていたな。」
「反逆者とその部下を監視するのは当然だ」
「いつの間にかに反逆者呼ばわりですか……まあいいでしょう。その副官がもう一人いるのを知らなかったようだ」
「ウィング少佐か?」
「独立遊撃部隊からの副官でしてね。当時、ウィンザー少尉が正式に副官に就任しても、そのまま副官としての地位を残しておいたのですよ。副官には司令官同様の特別な権限が与えられますからね」
「なるほど」
 そのレイチェルが解説をはじめた。
「何者かがランドール提督を暗殺しようとして潜入しているという情報を入手しました。暗殺には提督のそばに近寄る必要があります。その方法として提督の身近にいる者に成り代わるのが一番確実です。ランドール提督は味方将兵を大切に扱い、勝つ算段のない戦からは撤退するという主義を打ち出しています。三個艦隊もの敵艦隊が迫ってくると知れば、当然撤退すると言い出すことは容易に推測できるでしょう。そこで、これを敵前逃亡として処断すれば合法的に抹殺が可能です。そしてそれが出来るのは、監察官! あなたしかおりません。監察官自らが暗殺実行者であるならは、後処理はどうにでもできるでしょうね」
「私が暗殺をしているという証拠などないだろう」
「これに聞き覚えはありませんか」
 というとレイチェルが端末を操作する。
 スピーカーから声が響く。
『……です。閣下のお考えになられた通り、ランドールは撤退を選択しました』
『そうか。後の処理は判っているな』
『はい。手はず通りに敵前逃亡罪として処断します』
『くれぐれも、計画が漏れないように極秘裏に合法的にランドールを始末するのだ』
『お任せください。万事怠りなしに』
『頼むぞ』
『はっ!』
 その音声に息を呑む監察官だった。
「というような内容の通信です。声紋チェックであなたの声であることが確認されております」
「ば、馬鹿な。あの暗号通信は特殊な暗号コードを使っているんだ。暗号解錠キーがなければ内容など解けないはずだ」
「おや。あなたが暗号通信を送ったということはお認めになられるのですね」
「うっ……」
 迂闊だったという表情に歪む監察官。

「ここには、天才と呼ばれるお方が数多くいらっしゃるのですよ。システムエンジニア、システムプログラマーなど、コンピューターネット犯罪を取り締まるプロフェッショナルがいます。彼らに掛かれば暗号通信を解析することなど容易いことなのです」
「冗談はよせ。あの暗号通信の内容は、現在最速と言われているスーパーコンピューターで解析しても百万年は掛かると言われているんだぞ。解錠キーがない限り解けるはずはない」
「それならば、その解錠キーがどこかのコンピューターに保存されているはず。そのコンピューターに侵入して、その解錠キーを手に入れれば良いことです」
「そんな事できるはずがない」
「それができるのです。ネットに接続されているコンピューターならば、必ず侵入できるものなのです」
「あり得ないことだ」
「お信じにならなければ、それでも結構です。とにかくも、あなたの暗号通信は解読されたということはお認めになられますね?」
「黙秘権があるはずだ。これ以降は何も喋らない」
 と、レイチェルの質問に答えない監察官。これ以上話し合ってもぼろが出るだけだと判断したようだ。
「結構です。当然の権利ですからね。でも聞くだけは聞いていてください。提督を暗殺しようという者が侵入したという情報を入手して、私達はすべての通信を傍受記録しておりました。その捜査網にあなたが暗号通信を送っているのを傍受したのです。早速、かの天才達に解読を依頼しましたが、それには三時間という答えが返ってきました。あなたは百万年とおっしゃいましたが、天才と呼ばれる彼らに掛かれば三時間なのです。今後の参考にでもしておいてください。しかし、それでも手遅れになるので、別のルートを使って軍のコンピューターネットに侵入、さる所から解錠キーを入手しました。それを使って暗号通信を解読したのです」
 押し黙ったままの監察官だった。図星をさされて明らかに意気消沈している表情が伺える。
「念のために申し上げておきますが、シャイニング基地の撤退は、参謀達全員による合議によって決定されたものであり、提督ご自身による勝手な判断で執行されるものではないということです。ゆえにこれは敵前逃亡ではなく、明白なる撤退作戦ということになります。敵前逃亡として処断されるのは早計ではないでしょうか。暗殺という策略以外には考えられません」
 レイチェルの発言を受けて、コレット・サブリナ大尉が前に進み出る。
「監察官。あなたをランドール提督暗殺未遂の容疑で逮捕します」
 監察官の腕を後ろ手に回して手錠を掛けるコレット。
「ウィング少佐。一つ質問させてくれ」
 手錠を掛けられながら口を開く監察官。
「何でしょう?」
「君は、暗殺という情報をどうやって知ったのだ。さる所から解錠キーを入手したという。当然その首謀者たる人物のことも掴んでいるのだろう。証拠を集めて、告発するつもりか?」
「情報の出所をお教えすることはできません。ニュースソースを隠密にするのは情報部の常識です。証拠たる情報を隠密にする以上は、立件もできませんから告発も不可能ということです。内憂外患から士気の低下を発祥させる素因を公にすることは、提督のもっとも危惧されることですからね」
 うんうんと頷いているアレックス。
「そうか……内憂外患か……」
「提督」
「何かね」
「ここには心を一つに束ねあい、気を許しあって、すべてを相手に委ねられるという環境が浸透しているようだ。実に素晴らしい艦隊だ」
「そう言ってくれると嬉しいね」
「あなたの部下達がこれほども羨ましいと思ったことはない。あなたの部下でなかったのが、実に残念だ」
「それはどうも……」
「連行しろ!」
 コレットが部下の憲兵隊に指示し、連行されて行く監察官。
「提督。お騒がせいたしました」
「今回も、君に助けられたな」
「任務ですから」
 きりっと姿勢を正し敬礼をして、くるりと翻して立ち去って行くコレットだった。

第十八章 了

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2021.04.08 08:53 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十八章 監察官の陰謀 V
2021.04.07

第十八章 監察官の陰謀




 TVから映像と音声が流れている。
 何事かと注目する将兵達。
『どうしようというのだ』
『監察官特務条項の第十三条。敵前逃亡司令官に対する条項により、ランドール提督を処断させて頂きます』
『つまりこの場で銃殺するというのだな』
『その通りです』
 銃を突きつけられている提督と周囲の緊迫した情景が映し出されている。
「銃殺だって!」
「おい。嘘だろ」
 もはや食事どころではなかった。
 その緊迫した映像と音声を見逃すまいとして、全員がTVの前に集まって釘付けになっていた。
 居住区の私室に備え付けられたTV、統合通信管制室、機関部、艦載機発進ドック、各所の艦内放送用のプロジェクターにも随時投影されていた。
 サラマンダー艦隊に所属するほとんどの将兵が、今まさに艦橋で繰り広げられている現状を、食い入るように見つめていた。
 映像の中のアレックスが、落ち着いて答弁している。
「そうか……仕方ないな」
「最後の猶予を与えましょう。三つ数えます。それまでに決断してください」
「勝手にしたまえ」
「一つ!」
 監察官がカウントを始めた。
「提督!」
 周囲のオペレーター達が駆け寄ってくる。
 それを制するように怒鳴るアレックス。
「持ち場を離れるんじゃない!」
「し、しかし」
 大声にびっくりして思わず立ち止まるオペレーター達。
「監察官。君が、敵前逃亡罪で私を処断するというのなら、甘んじて受けようじゃないか。私は、第十七艦隊に所属する全将兵、私に従ってきてくれる素晴らしい部下たちの生命を守る義務がある。このシャイニング基地に押し寄せている艦隊の数は三個艦隊におよぶのだ。どうあがいても尋常な手段では勝てないし、ただ全滅するしかないことは目に見えている。勝てる見込みのない戦いを、部下達に強要することは断じてできないのだ」
 冷ややかな目つきでそれに答える監察官。
「そう言って、部下達の同情を得ようとしているだけだ。提督の自己陶酔に付き合っている時間はない。二つ!」
「自己陶酔か……確かにそうかも知れないな」
「提督が、こんな奴に処断されるなんて許されません」
「そうです。敵艦隊は迫ってきているんです。提督がいらっしゃらないと」
「何を、弱音を吐いているんだ!」
 強い口調で叱責するアレックス。
「私はこれまで、君達に戦い方の何たるかを教えてきたつもりだ。部下を信じてすべてを任せ切りにしたこともあった」
 その言葉にスザンナが、そしてパトリシアが反応する。
 スハルト星系でのこと、タシミール星収容所のこと。
 それぞれの思いが脳裏に蘇ってくる。
 アレックスは言葉を紡ぐ。
「どんな境遇にあっても、自らの判断と意思で不言実行できるような指揮官たる能力を身に付けられるように努力し、そうなるように育ててきたつもりだ。例え私がいなくても、君達だけでも十分に事態を収拾できると信じている」
「たいした自信だな。私にはただの自惚れとしか聞こえないな。三つだ!」
 ブラスターを構える腕に力がこもる。
「どうやら意思は固いらしい。命令を変えるつもりはないな」
「もちろんだ。我が第十七艦隊はシャイニング基地を放棄して撤退する」
「そうか……では、ここで軍務により君を処断する」
 ブラスターの引き金に掛けた指先に力を込める監察官。

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2021.04.07 12:33 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十八章 監察官の陰謀 Ⅳ
2021.04.06

第十八章 監察官




 提督が軍法会議に掛けられるという情報は逸早く艦隊全員の知るところとなった。 言うことを聞かないアレックスに業を煮やし、どんな暴挙にでるかも知れないと、交代で監察官の行動を監視しはじめた士官達もいる。
 監察官もそんな動きを察知してか、用意された部屋からは一歩も出ることはなかった。

 監察官の忠告を無視して、アレックスの基地からの一時撤退の準備が開始された。
 とにもかくにも、一番の難問となるのは、一億二千万人にも及ぶ住民の避難方法である。敵はすでに進撃を開始しており、時間の切迫した中で、いかにすべての住民を一人残らずもよりの惑星に移送するかという算段を、考えださねばならない。
 それはかつてスティール・メイスンが、ミッドウェイ宙域会戦において、撤退する連邦第七艦隊を追撃する共和国同盟軍第五艦隊を、バリンジャー星住民を全員避難させた上で惑星を自爆させ、第五艦隊を壊滅に追いやったあの時と状況が酷似していると言えた。
「シャイニングを完全放棄するなら、メイスンがやったように自爆させてしまうのも一興なのだが。二番煎じでは面白くないからな」
 独立遊撃艦隊所有の輸送艦は無論のこと、近在の基地に逗留する輸送艦が借用されて、シャイニングに集められて、住民の移送にあてられた。
 そして住民の説得であるが、これはわりかしすんなりと解決した。元々シャイニングは最前線を防衛する軍事基地として開発された惑星であり、住民のほとんどが軍部関係の将兵と技術者及びその家族であったからである。軍属となれば、命令には逆らうことはできない。
 フランソワ・クレールの立てた撤退計画に従って、事は順調に捗っていた。各地の軍港から、ひっきりなしに輸送艦が発着を繰り返しており、軍港への道には撤退命令を受けた住民達の群れが続いている。
「パトリシア。一般住民の撤退は、捗っているか」
「はい。すでに八割がたほど、後方の近隣惑星に分散移送を完了しています。残る住民も十二時間以内に移送を終えるでしょう」
「ふむ。予定通りだな」
「しかし、貴重品以外は持ち出し禁止で、燃料・弾薬や物資までそっくりそのまま残していくというのはどういうことですか? 物資を引き上げる時間は十分あるはずです。基地を明け渡した上に、物資のおみやげまでつけて、基地の設備も破壊せずに敵に差し出す必要はないと思いますが」
「作戦を完璧に演出するためだよ」
「と申しますと?」
「遠路はるばるやってきた艦隊が一番欲しがるものはなんだ?」
「燃料・弾薬です。そして将兵達には食糧が必要です」
「その通りだ。喉から手が出るほど欲しいものが基地にあるとわかればどうする?」
「当然、上陸して……あ! そうか、わかりましたよ」
「言ってみろ」
「はい。もし基地に何も残っていなければ、敵は通信機能だけ残して、ここを放っておいて艦隊を前進させるかも知れません。燃料・弾薬に物資、そして完全に機能する基地の設備までもを与えることで、敵艦隊を完全に足留めする。そういうことですね?」
「そうだ。すべてを残しておくことで、いかにもあわてふためいて脱出したのだと敵に思わせられるだろう。油断もするし、敵は安心してこの地に留まってくれるというわけだ」
「素晴らしい作戦です」
「巧くいくといいんだがな」
「大丈夫ですよ」
 
 技術将校でコンピュータプログラマーのレイティ・コズミック大尉から報告があった。
「提督。準備が完了しました」
「ご苦労さま」
 アレックスはそう言うとパトリシアに向き直った。
「敵艦隊の位置は?」
「はい。37・8光秒の位置に達しました」
「そうか。そろそろ我が艦隊も撤退するとしようか」
 アレックスはパトリシアに目配せすると、
「総員に退去命令を出してくれ」
 静かに艦隊の撤退命令を下令した。
「はい」
 それを聞いて、撤退開始の予定時間に合わせて艦橋に姿を現していた監察官が発言した。
「提督、お考えは改まらないと考えてよろしいですね」
 最後通牒ともいうべき警告のような響きのある口調だった。
「ああ、変わらないな」
「仕方ありませんね……」
 というと、やおら腰からブラスターを引き抜いて、アレックスに向けて構える。
「きゃー!」
「提督!」
 一斉に悲鳴があがる。
「騒ぐな!」
 監察官が怒鳴り散らす。
「その通りだ。みんな動くんじゃない。軽はずみな行動はするな」
 アレックスも静止する。
 監察官が容赦なく発砲することは目に見えていたからである。
 自分の職務を果たすためなら平気で人を殺すだろう事は容易に推測できる。
「提督のおっしゃるとおりですよ。死にたくなかったら動かないことです」
 その時監察官の背後に控えていたレイチェルが艦内放送を担当しているオペレーターに合図を送った。それに応えるように、監察官に気づかれないようにそっと艦内放送のスイッチを入れる放送オペレーター。
 食堂や居住区にある艦内TVに、艦橋の現況が流され始めた。

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2021.04.06 13:42 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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