銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅵ
2021.04.15

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 本星に戻ったアレックスを待っていたのは軍法会議であった。
 審議官の居並ぶ中、一人被告席にたたずむアレックス。
 議長が厳かに開廷を言い渡して、審議がはじまった。
「君がなぜ召喚を受けたか、わかるかね」
「基地防衛の任務を果たさずに艦隊を撤退させ、一時的にしろ敵の占領を許したことでしょうか」
「その通り」
「しかし、最終的には任務を遂行したことになるがどうだろう」
 審議官の一人が好意的な意見を述べた。
「いや。基地を防衛したとかしないとかが問題ではないのだ。命令を無視して、基地防衛の任務を放棄したことにある」
「そうだ。軍紀を守らなくては軍の規律が保てない。ましてや艦隊の司令官がそれを犯すことは重罪の何物でもない」
「その通りだ。よって当法廷は被告アレックス・ランドール提督を、シャイニング基地防衛に掛かる命令違反の罪を犯した者として裁くことを決定する。なお当法廷は軍法会議である、その審議を被告が立ち会うことを認めない。よって被告は別室にて審議裁定の結果が出るまで待機を命ずる」
 予想通りというか、アレックスに好意的な審議官は数人程度で、ほとんどがニールセンの息の掛かった者で、断罪処分の肯定的であった。
 憲兵がアレックスの両脇に立って退廷を促した。
 静かに立ち上がって、別室に移動するために退廷するアレックス。
 その際、上官として参考人出席しているトライトン少将と目が合った。
 しかし参考人に過ぎないトライトンには、アレックスに手を差し伸べることはできなかった。
 済まないと言う表情で、静かに目を閉じるトライトンだった。

 アレックスの退廷を待って、審議が開始された。
「さて、ランドール提督の処遇であるが……」
「ちょっと待ってください」
 先ほどの好意的な意見を述べた審議官の一人が、手を挙げた。
「もう一度、ランドール提督の処遇について再考慮していただけませんか?」
「どういうことだ?」
「ランドール提督は、総勢五個艦隊を撤退及び壊滅、そして略取して敵の司令長官を捕虜にすることに成功し、最終的にはシャイニング基地の防衛を果たしたのは明確な事実です」
「なぜだ? 奴は命令違反を犯したのだぞ。それだけで十分じゃないか」
「あなた方は、どうしてそうもランドール提督を処分なさりたいのですか? バーナード星系連邦の侵略をことごとく粉砕し、共和国同盟に勝利をもたらした国民的英雄をです」
 その審議官の名前は、ケビン・クライスター評議員である。
 軍法会議には、軍部からと評議員からと半数ずつが列席することが決められている。軍部の独断による断罪を防ぐためである。
 評議会議員からの参列者であるためか、トライトンやアレックスに好意的であり、ミッドウェイ宙域会戦の功績を高く評価して、アレックスの三階級特進を強く働きかけたのも彼であった。
 その背景には評議員が、国民の選挙によって選ばれるために、世論などの国民の動向に逸早く反応するからでもある。早い話が次回の選挙に有利になるように、国民的英雄というアレックスを祭り上げようとしているのである。ゆえにアレックスを処断するなど到底賛同できないことである。
「軍には軍紀というものがあるのだ。上官の命令に服従することは、その基本中の基本じゃないか。会社においても上司から命令されて仕事を進めることがあるだろう。命令を無視されては、軍や会社が成り立たなくなるというのは、いくら評議員のあなたでも判らないはずがないと思うがね」
「だからといって、『死んでこい』と言われて、喜んで死んでいく者がいるだろうか。不条理な命令には抗議する権利があるはずだ」


 そこへ青ざめた官僚が飛び込んでくる。
「大変です。第十七艦隊が隊員全員の意志でシャイニング基地からの撤収を開始しました」
「なんだと!」
「馬鹿なことをぬかすな。苦労してシャイニング基地を奪還したんじゃないか。それを放棄するなんてことするか?」
 その言葉にクライスター議員が反問する。
「おや、シャイニング基地を奪還するのに、提督がどれだけ苦労したかをご理解頂いているようですな。それでも処断なさるとおっしゃる」
「問題が違うじゃないか」
「どう違うのですか」
 顔を突き合せるように言い合う審議官達。
「みなさん。内輪もめなどしている状況ではありません。これをご覧ください。特別報道番組のビデオ映像です」
 事務官が、操作して会議場正面スクリーンにTV報道番組を映しだした。
 マルチビジョン方式で各TV放送局が音声と映像を流している。
『本日。第十七艦隊司令官アレックス・ランドール准将が軍法会議にかけられていることが判明いたしました。シャイニング基地防衛の任において一時的にせよ、命令を無視してこれを放棄撤退したことへの責任が追求されています。なお、これに抗議して第十七艦隊の全員が辞表を明示して、全艦隊が本国に向けて帰還をはじめました。これによって第十七艦隊駐屯地であるシャイニング基地、カラカス基地は完全に無防備となっております。両基地はバーナード星系連邦の侵略を防ぐ要衝であり、最前線にある同盟の最重要基地であるために、今まさに連邦軍の驚異にさらされていることになります……』
 ビデオ映像にはシャイニング基地を撤収する第十七艦隊が映し出されていた。各TV放送局一様に、シャイニング基地を撤収していく様を放映している。背景のシャイニング基地が次第に遠のいていく。
「馬鹿な!」
「第十七艦隊の連中は、一体何を考えているんだ」
「こんなTV放送をすれば、連邦に両基地が無防備であることをさらけ出して、侵略の驚異にさらされるということが、わからんのか」
 各TV放送局の番組は続いていた。
『第十七艦隊の隊員全員の総意として、『提督がシャイニング基地を放棄撤退したことへの責任が追求されているのであるならば、今ここで我々があらためてシャイニング基地を放棄撤退したところで、それを責任追求するにはあたらないであろう』というコメントが艦隊情報部より寄せられています』
『ランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄してクリーグ基地に向かい、完全包囲されていた第八艦隊を救援して、敵艦隊を撤退に追い込みました。その後で、再びシャイニング基地に戻って三個艦隊を策略してこれを撃破し、基地を無事に取り戻したのです』
『第十七艦隊及び第八艦隊の隊員達の生命、そして共和国同盟の全国民の窮地を救ったランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄して占領を許したその責任だけを問われ、今まさに糾弾されようとしています』
『今回の件もそうですが、軍部がランドール提督を煙たがっていたのは、周知の事実であります。そもそもが、敵三個艦隊が迫っているというに、一切の援護艦隊を向かわせるわけでもなく、ランドール提督の第十七艦隊のみに防衛の責任を押し付けたのです。これはどう考えてもランドール提督を見殺しにしようしたとしか思えません。しかし期待に反してランドール提督は、無事シャイニング基地を奪還してしまった。そこで軍部は、シャイニング基地を一時放棄したことを軍規違反として処罰しようとしているのです』

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2021.04.15 11:54 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 V
2021.04.14

第十九章 シャイニング基地攻防戦




「ゴードンを呼んでくれ」
「はい」
 スクリーンにゴードンが映しだされる。
「なんでしょうか」
「君の部隊を基地の周辺に展開させて哨戒作戦に入ってくれ」
「了解! 哨戒作戦に入ります」
「たのむ」
 スクリーンからゴードンの映像が消えて、降下作戦にはいった第八占領機甲部隊「メビウス」のモビールアーマー隊の姿が映りだされていた。
「提督、本星より入電。トライトン少将が出ておられます」
「こっちのモニターに繋いでくれ」
 指揮制御桿のモニターに切り替わった。
「今、報告を聞いた。ご苦労であった。捕虜の方は輸送船団を向かわせて、本国へ送還すればよいとして、問題は捕獲した艦船の処理だろう」
「はい、その通りです」
「敵艦船を搾取した場合は、当該司令官の所轄に入ることになっているが……しかし、六万隻とはな。艦船はともかく乗員の確保がままならないだろう」
「船があっても乗組員がいないことには動かせません」
「乗組員のことはこっちで何とか手配しよう。それよりも、君は軍法会議に諮られることになった」
「軍法会議?」
「一時的にとはいえ命令を無視してシャイニング基地を放棄したことによる軍規違反問題に対してだ」
「そうですか……」
「ともかく至急本星に赴きたまえ」
「わかりました」
 やはりというべきか、来るべき時が来たという状況であった。
「提督!」
 艦橋の士官達がアレックスのまわりに集まってきた。
「今の話しは本当ですか?」
「軍法会議だとか……」
「そういうことだ」
「そんなのないですよ。シャイニング基地を立派に守り通したじゃないですか」
「安心しろ。軍法会議にかけられるのは、私だけだ。君達は、命令に従って作戦を実行したのであって、咎められる筋合いは一つもないからね」
「そんな……」
「この作戦を考えたときから、こうなることは想像はしていたさ」
「でも……」
「艦隊の行動に対して責任を取るのは司令官として当然だ。軍に限らず一般の会社だって、社員が問題を起こせば社長といった重役が連帯責任を取るものだ。そうだろ?」
「そりゃそうですが」
「オーギュスト・チェスター大佐」
「はっ」
「私がトランターに行っている間、副司令官として後のことを頼む」
「判りました。おまかせ下さい」

 アレックスが軍法会議にかけられるということは、またたくまに第十七艦隊全員の知るところとなった。それぞれの艦の至る所でその噂話しがささやかれていた。
 ここサラマンダーの食堂でもその話題で持ちきりだった。
「冗談じゃないわ。なんで提督が軍法会議にかけられなきゃならないのよ」
「シャイニング基地を放棄して、一時的にせよ敵に占領されたことに対してだろうな」
「提督は、あたし達の命を守るために軍法会議覚悟で、あの作戦を実行したのでしょう?」
「そうよ。今度はあたし達が提督をお救いする番じゃないかしら」
「どうするの?」
「軍司令部に嘆願書を送るのよ。それでも聞き入れなければ、第十七艦隊全員離反し
て抗議行動を起こしましょう。あたし達にはそうする義務があるわ」
「だいたい敵の三個艦隊が迫っているというのに、たった一個艦隊で防衛しろというのが無理な命令だったんだよ」
「提督は、他の提督達から煙たがれていたからな。史上最年少の提督ということで何かにつけて因縁つけられる。無茶な作戦を押し付けたかと思うと、その作戦を難無く成功させたらさせたで、今度は任務放棄の廉で責任をとらせようとする。おそらく軍法会議を持ち出したのは、絶対防衛圏守備艦隊司令長官のチャールズ・ニールセン中将に決まっているさ」
「どうやら軍部の大半は、提督を潰しにかかっているんじゃないか。ほら提督は、銀河帝国からの流浪者だっていうじゃないか。それもあるんじゃないかな」
「何いってんのよ!」
「そうよ。人種や身分の違いで人を差別するき?」
「そんなに怒るなよ」
「怒るわよ」
「同盟憲章にだってちゃんとうたわれている条文を忘れたの?」
「それくらい。知っているさ、憲章の第八条だろ」
「なら言わないでよ」
「しかし軍部の連中はそうは思っていない。ランドール提督は、ともかくシャイニング基地の防衛を果たしたうえに、敵一個艦隊の搾取に成功して大将を捕虜にした。功績点はすでに少将の昇進点に達しているという。規定通り少将になれば、すべての准将が年下であるランドール提督の下で従わなければならなくなる。ガードナー提督を除けば二十歳以上離れているんだ、耐えられるか?」
「息子におしりぺんぺんされる父親ってところね。少将や中将連中も気がきではないでしょうね。下から猛烈なる追い上げを掛けられていれば」
「提督の罪ってどれくらいになるのかしら」
「う……ん。一度も戦わずに撤退したのだから、いわゆる敵前逃亡ということになるんだろ、やっぱりさ。……となると最悪で銃殺になるかな」
「銃殺ですって!」
「これが連邦軍のヤマモト長官の艦隊だったらまず間違いないところなんだがね。ほら、あのナグモ長官が自決したのだってその責任をとったんだよね」
「冗談じゃないわよ」
「提督の味方といえば、トライトン少将とガードナー准将くらいでしょう?」
「ここは一つ、より多くの味方を引き寄せるべきよね」
 リンダが何か妙案を思いついたらしく、身を乗り出すようにして言い出した。
「より多くの味方?」
「共和国同盟の一般国民よ」
「そうか、提督は国民の英雄だからな」
「それでね……」

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2021.04.14 07:46 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅳ
2021.04.13

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 宇宙空間ではすでに戦闘は終了していた。
 撃破された艦船の残骸や破片やらが軌道上を取り囲むように浮遊していた。
 基地からの対軌道迎撃ミサイルと、自艦の索敵レーダーの圏外からの魚雷攻撃、そして勇躍飛来してきたサラマンダー艦隊の猛攻に成す術もなかった。
「残存の敵艦隊、四散して逃げていきます」
「追う必要はない。それよりも救助の方を優先させろ。敵味方に関係なく一人でも多くを救助するのだ」
「わかりました。救護班を出動させます」
「たのむ」
「上手くいきましたね」
「ああ……。これがフレージャーならこうも巧くいかなかっただろう。かつてのハンニバル艦隊騒動でカラカス基地を潔く撤退したのは、カラカス基地の管制システムをチェックし完全掌握する以前に、我々が引き返してきたのを知ったからだ。フレージャーは慎重過ぎるほどの軍人のようだ。管制システムにウィルスが忍ばせてある可能性を危惧してのことだと思う」
「確かに、これまで何度となく戦ってきましたが、大した戦果をあげられずに、双方痛み分けで終わっていました」
「それにしても軌道上には二個艦隊が展開して、これと戦うのは骨かと思いましたが、地上ミサイルのおかげてあっさり片付きました」
「シャイニング基地の防御システムの絶対防衛ゾーンの内側に展開していたからな。目標ロックオンせずとも、撃てば必ずどれかに命中するさ」
「目隠ししてでも当たりますね」
「さて、はじめるとするか……。レイティ、基地の無線封鎖を解除だ」
「はい、無線封鎖を解除します」
「通信士。地上の基地の敵に降伏を勧告してくれ」
「了解」

 基地管制塔。
「通信が回復しました。というよりも敵が通信回路を開いたのでしょうが……」
「敵より降伏勧告です」
「なめやがって。降伏するくらいなら、地上に降ろした艦隊で出撃して」
「お止めください。基地は敵の手の内にあるのです。発進と同時に、地上基地から対空砲火を浴びせかけられて損害を広げるだけです。このシャイニング基地は五個艦隊に匹敵するくらいの強力な防空設備があるんです。防衛艦隊が一個艦隊しか配備されていないのはそのためなのです。先程の防空ミサイルだって、せいぜい十分の一くらいしか使用されていません。不可能ですよ」
「五個艦隊じゃないだろ、迎撃システムと言ったってせいぜい基地周辺だけが相手だろう」
「お忘れですか? 艦隊は垂直離陸ができません。成層圏を突破して宇宙に出るには、大気圏を滑空加速しながら高度を上げていかなければなりません。最短距離でも惑星を半周しなければ宇宙に出られないんです。つまり半周すれば、理論上惑星上のどの地点からも攻撃が可能です。もちろん弾道ミサイルなら無制限ですしね」
 その時、上空からまばゆいばかりの光が射したかと思うと、基地周辺の土地が一瞬に蒸発した。
「あれは?」
「軌道上からの対地レーザー攻撃です。敵艦隊が艦砲射撃してきました」
「降伏しなければ一斉攻撃するぞという威嚇か」
「お考えください。我々は宇宙に出なければ攻撃できないのに対し、敵は軌道上からいつでも艦砲射撃や軌道爆雷攻撃などとあらゆる攻撃が可能です。その上こちらは、給水設備などを止められてしまっては、持久戦に持ち込むことも出来ません」
「降伏しろというのか」
「ここは敵勢力下にあります。救援を頼むこともできません」
「ちきしょう。いっぱい食わされたというわけか……。ランドールめ! 姑息な手段ばかりとりよってからに」
「長官、ご裁量を」
「わ、わかった。降伏しよう」
 うなだれる司令長官。

「提督。敵将より降伏勧告を受諾するとの返信がありました」
 艦橋内に沸き起こる歓声。旗艦艦橋は参謀以外全員女性士官のために、それが一斉にかん高い歓声をあげた結果として、アレックスの聴覚神経は一時的な混乱状態に陥った。
「静かに!」
 たまらず制止した。
「通信士、本部に連絡。敵艦隊を撃破し、任務を完了する」
「かしこまりました」
「カインズ中佐!」
「はっ」
「メビウス隊に、占領作戦行動開始を発令。降下部隊の指揮を取れ。直ちにだ」
「了解しました」
 カインズは自分の指揮パネルを操作しながら配下の部隊に命令を下していた。
 パトリシアが寄ってきた。
「おめでとうございます」
「なんとかうまくいったな。相手が違うとはいえ、同じような作戦が二度通用するとは」
「フランソワも言っていましたように、敵もまさか士官学校時代の作戦記録まで調べはしないでしょうから」
「そうだな……」

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2021.04.13 09:26 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅲ
2021.04.12

第十九章 シャイニング基地攻防戦




「ゴードンを呼んでくれ」
「はい」
 スクリーンにゴードンが映しだされる。
「なんでしょうか」
「君の部隊を基地の周辺に展開させて哨戒作戦に入ってくれ」
「了解! 哨戒作戦に入ります」
「たのむ」
 スクリーンからゴードンの映像が消えて、降下作戦にはいった第八占領機甲部隊「メビウス」のモビールアーマー隊の姿が映りだされていた。
「提督、本星より入電。トライトン少将が出ておられます」
「こっちのモニターに繋いでくれ」
 指揮制御桿のモニターに切り替わった。
「今、報告を聞いた。ご苦労であった。捕虜の方は輸送船団を向かわせて、本国へ送還すればよいとして、問題は捕獲した艦船の処理だろう」
「はい、その通りです」
「敵艦船を搾取した場合は、当該司令官の所轄に入ることになっているが……しかし、六万隻とはな。艦船はともかく乗員の確保がままならないだろう」
「船があっても乗組員がいないことには動かせません」
「乗組員のことはこっちで何とか手配しよう。それよりも、君は軍法会議に諮られることになった」
「軍法会議?」
「一時的にとはいえ命令を無視してシャイニング基地を放棄したことによる軍規違反問題に対してだ」
「そうですか……」
「ともかく至急本星に赴きたまえ」
「わかりました」
 やはりというべきか、来るべき時が来たという状況であった。
「提督!」
 艦橋の士官達がアレックスのまわりに集まってきた。
「今の話しは本当ですか?」
「軍法会議だとか……」
「そういうことだ」
「そんなのないですよ。シャイニング基地を立派に守り通したじゃないですか」
「安心しろ。軍法会議にかけられるのは、私だけだ。君達は、命令に従って作戦を実行したのであって、咎められる筋合いは一つもないからね」
「そんな……」
「この作戦を考えたときから、こうなることは想像はしていたさ」
「でも……」
「艦隊の行動に対して責任を取るのは司令官として当然だ。軍に限らず一般の会社だって、社員が問題を起こせば社長といった重役が連帯責任を取るものだ。そうだろ?」
「そりゃそうですが」
「オーギュスト・チェスター大佐」
「はっ」
「私がトランターに行っている間、副司令官として後のことを頼む」
「判りました。おまかせ下さい」

 アレックスが軍法会議にかけられるということは、またたくまに第十七艦隊全員の知るところとなった。それぞれの艦の至る所でその噂話しがささやかれていた。
 ここサラマンダーの食堂でもその話題で持ちきりだった。
「冗談じゃないわ。なんで提督が軍法会議にかけられなきゃならないのよ」
「シャイニング基地を放棄して、一時的にせよ敵に占領されたことに対してだろうな」
「提督は、あたし達の命を守るために軍法会議覚悟で、あの作戦を実行したのでしょう?」
「そうよ。今度はあたし達が提督をお救いする番じゃないかしら」
「どうするの?」
「軍司令部に嘆願書を送るのよ。それでも聞き入れなければ、第十七艦隊全員離反し
て抗議行動を起こしましょう。あたし達にはそうする義務があるわ」
「だいたい敵の三個艦隊が迫っているというのに、たった一個艦隊で防衛しろというのが無理な命令だったんだよ」
「提督は、他の提督達から煙たがれていたからな。史上最年少の提督ということで何かにつけて因縁つけられる。無茶な作戦を押し付けたかと思うと、その作戦を難無く成功させたらさせたで、今度は任務放棄の廉で責任をとらせようとする。おそらく軍法会議を持ち出したのは、絶対防衛圏守備艦隊司令長官のチャールズ・ニールセン中将に決まっているさ」
「どうやら軍部の大半は、提督を潰しにかかっているんじゃないか。ほら提督は、銀河帝国からの流浪者だっていうじゃないか。それもあるんじゃないかな」
「何いってんのよ!」
「そうよ。人種や身分の違いで人を差別するき?」
「そんなに怒るなよ」
「怒るわよ」
「同盟憲章にだってちゃんとうたわれている条文を忘れたの?」
「それくらい。知っているさ、憲章の第八条だろ」
「なら言わないでよ」
「しかし軍部の連中はそうは思っていない。ランドール提督は、ともかくシャイニング基地の防衛を果たしたうえに、敵一個艦隊の搾取に成功して大将を捕虜にした。功績点はすでに少将の昇進点に達しているという。規定通り少将になれば、すべての准将が年下であるランドール提督の下で従わなければならなくなる。ガードナー提督を除けば二十歳以上離れているんだ、耐えられるか?」
「息子におしりぺんぺんされる父親ってところね。少将や中将連中も気がきではないでしょうね。下から猛烈なる追い上げを掛けられていれば」
「提督の罪ってどれくらいになるのかしら」
「う……ん。一度も戦わずに撤退したのだから、いわゆる敵前逃亡ということになるんだろ、やっぱりさ。……となると最悪で銃殺になるかな」
「銃殺ですって!」
「これが連邦軍のヤマモト長官の艦隊だったらまず間違いないところなんだがね。ほら、あのナグモ長官が自決したのだってその責任をとったんだよね」
「冗談じゃないわよ」
「提督の味方といえば、トライトン少将とガードナー准将くらいでしょう?」
「ここは一つ、より多くの味方を引き寄せるべきよね」
 リンダが何か妙案を思いついたらしく、身を乗り出すようにして言い出した。
「より多くの味方?」
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「それでね……」

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2021.04.12 12:30 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅱ
2021.04.11

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 もはやかごの鳥、絶体絶命の状態へと進展していく。
「これまでかな……」
 降伏するなら早い方が良い。
 そう思い始めた頃だった。
 第八艦隊を包囲殲滅しようとする敵艦隊の後方に新たなる艦影が現れたのだ。
「敵艦隊の後方に新たなる艦影確認」
「敵の援軍か」
「違います。味方艦隊! すでに敵艦隊と戦闘状態に入ったもよう」
「なに!」
「識別信号、第十七艦隊旗艦サラマンダーを確認」
「ランドールか!」
 味方の援軍の到着で、一斉に歓声があがる艦橋内。
「援軍が到着したぞ!」
「ランドール提督が救援に来てくれたんだ」
「これで一対一の互角だ」
「いや、ランドール提督が敵艦隊の背後をとっている。こちらのほうが絶対有利だ」
「勝てるぞ!」
 口々に叫んで意気あがる乗員。
 これまで艦橋内を覆い尽くしていた暗雲が、きれいさっぱりと消滅していた。
「よし、攻撃に転ずる。全艦全速前進して攻撃。敵は動揺している。集中砲火をあびせてやれ」
「はっ。全艦全速前進」
「砲撃開始」
 全員の顔色が見る間に活気に溢れていく。常勝不滅のランドール艦隊の到来で、全滅の不安は一掃され、士気は最高潮に達して小躍りして反撃開始の戦闘態勢に臨んでいた。
「提督。敵を挟み撃ちにして勝てそうですね」
「それもこれもランドールが救援にくれたおかげだ」
「しかし、シャイニング基地のほうはどうなっているのでしょうか」
「わからん。いくらランドールでも三個艦隊を撃滅したとは思えないが……」
「それに時間的に早すぎます。敵艦隊と交戦してこちらに来るには時間的に不可能です」

 一方背後を取られて窮地にたたされた連邦艦隊。指揮するは連邦軍第十七機動部隊司令官F・J・フレージャー少将である。
「敵艦隊の所属は、第十七艦隊と判明」
「何だと!? 第十七艦隊はシャイニング基地の防衛にあたっているのではないのか?」
「情報は確かなはずですが……」
「では、なぜあいつらがここにいるのだ」
「そ、それは……。シャイニング基地を放棄してこちらに回ってきたと考えるべきでしょうが……」
「それにしても、俺が戦う相手はいつもランドールだな。今回は違う相手と戦えると思っていたのにな」
「艦隊番号も同じですからね。めぐり合わせですかねえ」
「ミッドウェイやカラカス奪回作戦では撤退を余儀なくされて、せっかく第七艦隊の司令長官に抜擢されたというのに、あいつのおかげで古巣のこの機動部隊に出戻りだ」
「ですが、バルゼー提督やスピルランス提督のように艦隊を壊滅させられて捕虜になるよりはいいでしょう」
「ことごとく撤退してきたからな」
「ですよね……」
「仕方が無い。今回も撤退するぞ」
「命令を無視するのですね? また降格の憂き目に合いますよ」
「今は敵味方同数の艦隊ながらも挟み撃ち状態で、しかも背後を取られた相手はあのサラマンダー艦隊だ。勝てる見込みのない戦いを続けるのは無意味だ。全艦を立て直して撤退する」
「わかりました」
「いないはずの第十七艦隊がここにいる。情報が間違っていた以上、作戦命令も無効になったと考えてもよいだろう」
「閣下がそうお考えになるのなら」
「ま、ランドールがこちらに来ているということは、シャイニング基地を放棄してこちらの救援に回ったと考えるべきだろう。となれば、シャイニング基地はすでに我々の味方の手に落ちていると考えるのが妥当だ。その基地があれば侵攻作戦に支障はないだろうさ。無理してクリーグ基地を落とす必要もない」
「そう言われればそうですね」
「と、納得したならば。速やかに撤退するぞ」
「はっ!」


 サラマンダー艦橋。
「提督。敵艦隊が撤退をはじめました」
「意外に速い決断だったな。どうやら敵も私がシャイニングを放棄したことを察知したのだろう。とすれば無理してこちらに固執する必要はないからな」
「どうします。追撃しますか」
「その必要はない。敵を追いやるだけで十分作戦目的は果たした。後はガードナー提督にまかせる。それより転進準備にかかれ」
「かしこまりました」
「司令官は、フレージャー少将のはずですね。ハンニバル艦隊撃退の時のカラカス基地からの速やかなる撤退が印象的でした。それとミッドウェイもでしたね」
「フレージャーか……。確かレキシントンを撃沈された叱責から、ミニッツから出されていた中将への進級申請を、キングス宇宙艦隊司令長官によって却下されたらしいがな」
「レキシントンはキングスがかつて艦長をしていたらしいですからね」
「愛着のある艦を沈められれば責めたくもなるだろうさ。だが司令官として、私情を持ち込むようでは戦いには勝てないだろうさ。まだ確かな情報ではないが、そのキングスも作戦部長兼宇宙艦隊司令長官を更迭されるらしい」
「提督。ガードナー提督からです」
「ん。繋いでくれ」
 スクリーンにフランクが現れた。
「よく、来てくれた……といいたいが……おまえ、シャイニング基地はどうした」
「はあ、たぶん、今頃占領されているでしょうねえ。ま、これから奪還に向かいますよ」
「おい、おい。大丈夫なんだろうなあ……。こっちの助太刀をしてくれたのは感謝するが」
「私が、ただで明け渡すと思いますか?」
「思わんな」
「置き土産として、トロイの木馬を置いてきました」
「トロイの木馬か……今度はどんな罠を仕掛けたんだ?」
「それは後のお楽しみということで。急ぎますんで失礼します。提督は敵艦隊が引き返してきた時に備えていてください」
「わかった。ま、頑張りな」
「では」
 アレックスは敬礼して、通信機のスイッチを消した。
「シャイニング基地に戻るぞ。全艦、全速前進で向かえ」
「全艦、百八十度転進。コース座標設定α235、β1745、γ34。シャイニング基地へ、全艦全速前進」
 ゆっくりと方向を変えて元来た進路に戻るランドール艦隊。

 旗艦ヒッポグリフの艦橋では、スクリーンに映る去りゆくランドール艦隊の雄姿を、ガードナーが頼もしそうに見つめていた。
「提督。ランドール提督がトロイの木馬と言われておりましたが、どういう意味ですか」
「古代地球史にあるホメロスのイリアスという叙情史の中に記述がある。かつてトロイの城塞を攻略するのに、ギリシャ人は中の空洞に兵士を潜ませた木馬を、贈り物のように見せかけてまんまと城塞に侵入。夜中に兵士が木馬から抜け出して、城門を開け放してこれを攻略した、という話しだ」
「つまりシャイニング基地が木馬というわけですな。基地に罠をしかけておいて撤退し、わざと占領させる。しかしそこには……という算段ですか」
「そういうことだ。ただし、この戦いはイリアスに記述があるだけで、史実かどうかは明確な証拠が出ていないので疑問視されている。それにしてもだ……。ランドールに二度も助けられるとはな」
「ミッドウェイ宙域会戦以来ですか」

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2021.04.11 09:08 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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